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ライターの仕事は、聞くこと

ライターとして活動をして、まもなく6年目に入ります。数百人にインタビューをし、時事ネタからグルメ、子育てについての記事のほか、パパとして家事と育児に感じることを綴ったコラムなど、さまざまなジャンルの原稿を書く機会をいただきました。本当にうれしいことです!ご依頼くださった皆さまへ、この場を借りて感謝の気持ちを伝えさせてください。

ライティングにしても、インタビューにしても、まだまだ僕は修行中の身。僕は書き方講座の講師でもないし、ライティングについての本も出したことはありません。そんな僕がライターとはこうだ!みたいな仕事論をネットにぶちまけるのはどうかな…、としり込みをしていました。なんとなく、上から目線な気がしていたのです。

でも最近は、経験を積んでいる最中であっても、「僕はライターの仕事をこう思っています!」と言っても良いのでは、と感じるようになりました。発展途上の現在だからこその感じ方があるし、発信できることがあるはずだから。

思い付きレベルのことではなく、今の僕が確信している考えですので、自分の体験を自分の中に閉じ込めたままにせずに表に出せば、ライターとしてのキャリアを築いていきたい人に向けて役に立つかもしれないと思っています。

文章を上手に書ける必要はない


「ライターの仕事は何だと思いますか?」

この問いかけをされた人の多くは、「書くことですよ」と答えるのではないでしょうか。僕も5年前であれば、そう答えました。

もともと僕は文章を書くのが好きだったことがから、ライターになりました。文章を書くことが仕事になるなんて、素晴らしすぎる!!とワクワクしながらこの仕事を始めたことを覚えています。でも、ライターとして経験を積めば積むほど、「ライターの仕事は書くことではなく、聞くことだ」と漠然と思うようになったのです。最初はふわふわとしたその考えは、確信に変わっていきました。

たしかに、ライティングはライターにとって大切なスキルです。文章が壊滅的に下手で、仕上がりが日本語として成立しないレベルだったらライターとは言いづらい。しかし、文章を上手に書ける必要がないのも事実です。文字を見たり書いたりすると鳥肌が立つような拒絶反応が出てしまう人でない限り、一応の日本語の文章さえ書ければライターにはなれます。これは、僕の経験からそう思います。

むしろ、ライターが持つべき能力は、書く力よりも聞く力ではないか。それが僕が日々のライティングから感じたことなのです。

依頼主が記事を書いて欲しい目的は何かをつかむ


なぜそう感じるのかを説明する前に、依頼主から記事執筆のお願いをされたときのライターの仕事にはどんなステップがあるのかを見ていきましょう。

STEP 1:目的の把握
STEP 2:適切な情報収集
STEP 3:原稿の執筆

細かな仕事はありますが、ホップ、ステップ、ジャンプ!みたいにやることを明快に表現すると上の3つに集約できます。これらの3ステップからお分かりいただけるように、ライターの仕事で「書く」のは最終段階なのです。

各STEPを簡潔にご説明しましょう。

まずSTEP 1の目的把握ですが、これは極めて重要なパートです。依頼主がライターに記事執筆をお願いするのには、目的があります。新サービスの紹介なのか、創業者の理念を伝えたいのか、社員紹介によって採用を促したいのか、などです。

そのためにお客さまはライティング費用の予算を確保しますし、ライターとのやり取りをするための人員を配置することもある。相手はお金をかけているのです。暇だから何か記事を書いてというケースは稀でしょう。

記事を仕上げるためには、相手の目的をちゃんと理解するのが大前提です。記事を書く目的によっては誰が読むのか、どんな構成で文書を書くのが良いのかなど、執筆のアプローチが変わってくるわけですから。

目的の把握のステップでは、このnoteのテーマである「聞く」がさっそく威力を発揮します。記事の目的を知るには、依頼主に質問して回答をもらうのが確実だからです。人へ話を聞く際の心構えについては後ほど!

適切な情報なくして、原稿は書けない


記事の目的を理解したら、実現に向けて最適な情報を得るステップへ進みます。平たく言うと、記事執筆のための材料集めをするのです。この段階での代表的な材料集めのやり方が、インタビューです。創業者なり、新サービス企画担当者なり、記事テーマに通じている人物など、記事を書くために必要な情報を持つ方に話を聞き、執筆できるだけの情報を手に入れます。

ここでも先にご紹介したように、新サービスの紹介なのか、創業者の理念の周知なのかによって必要な情報が違ってきます。目的に沿った情報を関係者に聞いたり、自分で調べたりするのです。このnoteでの「聞く」には、「調べる」も含めているとご理解ください。

情報集めは、料理で言う買い出しに当たります。ハンバーグをつくるとしたら、ひき肉、玉ねぎ、ソース、油などが必要です。ひき肉が豚肉100%なのか、合挽き肉を使うのか、豆腐を入れるかなど細かな差はあるでしょうが、豚か牛かを問わずひき肉は買って帰るはずです。

でももし、ハンバーグの材料買い出しに鮭の切り身に韓国海苔、ヨーグルトを買ってきたらどうでしょう。鮭も韓国海苔も美味しそうですが、これらの材料でハンバーグはつくるのは厳しいですよね。いや、鮭の切り身を細かくし、刻んだ韓国海苔と片栗粉と混ぜてつみれにすれば一応はハンバーグになるのかな。でも、おそらく10人中9人がイメージする「ミンチをこねてフライパンで焼いたハンバーグ」とはかけ離れているでしょう。買ってくる材料を間違えると、つくりたい料理がつくれなくなるのです。

たとえば目的が新サービス紹介なのに、会社の設立の経緯や創業者のビジョンに関する情報ばかり調べてしまい、肝心の新サービスに関する情報がほとんどなかったら、どんなに読みやすい文章を書いてもその原稿は落第点となってしまいます。

記事テーマや目的にふさわしい情報なくして、次のステップである執筆には進めないことをイメージしていただけたのかなと思います。

何よりも、コミュニケーションが大切


それでは、インタビューをする際の心構えについてお話します。

インタビューは、人に話を聞くことです。言葉にすれば「聞く」と2文字で表現できますが、インタビューでは実にいろんなことに気を配るため、そんなに単純なものではありません。なぜなら、相手がいるからです。企業の会議室で行うかちっとしたインタビューにしても、電話やチャットで雑談混じりで質問するだけにしても、話を聞く側と答える側という2者がいて初めてインタビューは成り立つことに変わりありません。

これは僕がライターを始めたばかりの頃に犯した失敗なのですが、仕事だからちゃんとしなきゃと力みすぎて、会話の流れをガン無視して自分が聞きたいことを自分のペースで質問してしまったことがあります。場の空気は見事にしらけました。

インタビューでは、お話を伺う人に対して事前に質問項目を送ることが多いです。こうすることで相手は当日の心構えができますし、中には調べないといけない質問もあるので時間のゆとりを設けられるからです。

しかし質問案の内容に引っ張られすぎると、かつて私が失敗したように会話の流れをぶったぎってしまうことがあります。インタビューは水もの。当日にならないと、どう進むかわかりません。

とある新サービスの紹介記事を書くためのインタビューをするとします。ライターが最初にする質問がサービスが作られた背景だとしましょう。相手はサービス誕生の経緯について少し回答した後、今後のビジョンのことばかりをとうとうと話し続けている。困った、サービスが生まれた理由について知りたかったのに、得られたのは「今後はこうしたい」という熱い言葉ばかり。

こうしたことは、インタビューの現場では起こりえます。だいたいの質問案では、今後のビジョンは質問の後半、おそらく最後に来るのが自然でしょう。しかし予想に反して、相手は最初の質問でいきなり回答してしまった…。

もし質問シートにこだわると、「すみません。ビジョンについては後ほどお伺いしたいので、今は新サービス誕生までの経緯をたくさん話してください」なんてことを言いかねません。質問シート進行の観点では間違った行動ではありませんが、コミュニケーションの観点では考えものです。

2500年前から「勢いとタイミング」はポイントだった


何事もそうですが、物事には空気や勢いがあります。紀元前500年ころに書かれた中国の兵法書『孫子』にも、「勢いとタイミングが大切」と書いています。約2500年前からその場の空気が重視されていたのですね!

勢いとタイミングは、インタビューの成否に関わります。相手が気持ちよく話しているときは、ライターが思いも寄らない情報を得られることがあります。心地良い気分だと、ついつい話をしたくなりませんか?気の合う仲間とカフェに行ったら、もう口から言葉が出っ放しです。

それなのに、インタビューで質問の順番にこだわって水を差すのは得策ではありません。もちろん、相手の回答があまりにも本筋に無関係な場合は修正する必要はあります。

でもインタビューでは相手が話しやすい空気をつくるのがとっても大事!「いま相手が気持ちよくお話されているな」と感じたら、多少の脱線を受け入れるゆとりを持ち、話を続けてもらうのもありです。激しい運動の前に準備運動をしたり、湯船に入る前にかけ湯をしたりするのと同じ。雑談混じりであっても言葉を発することで話すことに慣れていき、その後いろいろなことをお話してくれるかもしれません。勢いをつくるわけです。

インタビューで大切にしている3つのこと


インタビューをするときにライターが忘れてはいけないのが、インタビューはコミュニケーションだということです。前章で書いたように、話を聞く側と答える側という2者がいて初めてインタビューは成り立ちます。

話を伺う方と自分は違う人間です。異なる体験を持ち、考え方も違う。そのことをしっかりと受け入れます。あとですね、相手はインタビューの申し出を受けて時間をつくってくれている。そのことに感謝をします!

ところで僕がインタビューで、意識しているのは次の3つです。

相手のことを知りたいと思う姿勢
会話を楽しむ
基本的に、相手がたくさん話す環境をつくる

インタビューでは、相手を知る、理解をしようと努める姿勢を持つことは重要です。はっきり言って、短期間で相手の多くをわかるのは至難のわざ。なので相手のすべてを理解する必要なんてありません。しかしだからといって、短時間で理解なんてできないと割り切りすぎるのもよろしくない。

じゃあどうするか。大丈夫、シンプルな行動でOKです。ライターはインタビューを受けてくれた方に対して「あなたに興味があります。インタビューを通じて、もっと知りたいんです!」という意識を持つのです。

インタビューでは、記事執筆のための情報入手が求められます。材料がなければ料理ができないことは先に書いた通りです。でもですね、記事を書くためだけに相手から情報を引き出すだけって、なんだか味気ない。記事執筆のための話ではなく、相手という人間そのものに興味を持つ方が面白い。多くの取材を経て、僕はそう感じます。

なぜなら相手の言葉、行動、現在の姿は、その人の思考、人となりが関わっているからです。「この人は、どうして今やっていることを始めたのだろう」「なぜこのような行動を選んだのだろう」なんて考えながらインタビューをする。少なくとも、僕は淡々と話を聞くより、相手という人間をまるごと好きになってしまう。そんなインタビューの時間が好きです。たとえるなら、インタビューは人の体験を聞く仕事ではないかな!

記事の方向性と相手の話をミックスして、双方に良い形で原稿を仕上げる。かっこつけた表現をすれば、まるでコンサルのように、相手がうまく言語化できないこと、構造的に考えられないことをインタビューを通じてライターが一緒に考える。そう、やっぱり聞く力が活躍するのです。

ブックライティングをした経験があるのですが、その際には著者に数日にわたって念入りに話を伺い、一冊の本を仕上げました。

それに、自分のことを理解しよう、興味を持とうとする人間を大嫌いになる人は、そういないと思うのです。人と人とのやりとりでは、ついつい自分をわかってほしいと思い自分ばかり話してしまいがちですが、そうではなく、先に相手を知ろうとする方が関係性はうまくいく気がします。先に相手を理解する姿勢を語るうえでも、聞く力はとても大切なのです。相手の理解に努めることはインタビューのみならず、友人や恋愛、結婚生活でも有効な気がしますよ!

良いインタビューとは、何か?


相手を知ろうと思い、興味を持つのは素晴らしいですが、力みすぎはちょっとよくない。「いい記事を書くために情報をたくさん聞くぞ!」なんて気張ってしまうかもしれませんね。でもインタビューでは、とにかくリラックス、リラックス、リラックス。

相手だって緊張しています。だからこそライターは自然体でいて、相手を構えさせないように努める。話しやすい雰囲気をつくり、仕事であることを忘れるくらい力を抜いて会話を楽しむことも、大切ではないかと僕は思います!聞き出そう、聞き出そうと狙いすぎると、駆け出し時代に会話の流れをぶったぎって場をしらけさせるというミスを犯しかねません。

良いインタビューとは、何だろう。僕には明確な答えがあります。それは、相手がたくさん気持ちよく話しているインタビューです。録音を聞き直したとき、ライターの発言ばかりが入っていたら、次から進行を見直す必要があるかもしれません。せっかく相手に話を聞いて記事を書くのに、ライターが話してばかり、自分の意見を述べてばかりでは、なんのためのインタビューがわかりません。

インタビューの目的は、特定のテーマについて人に話を聞くこと。そう、聞くのです。ライターが話すのは質問と相槌、脱線がひどいときの軌道修正の言葉くらいであるのが適切ですね!会話を盛り上がるためとか、相手から質問されたり、意見を求められたりした場合は除きますが、基本的にライターの発言は最低限にとどめるのが良いと経験から感じます。

大切なことは、PCで文字を打つ前に決まっている


ここまで長々と説明しましたが、ここでようやくSTEP 3の執筆の段階にたどり着きました。ライターの仕事は書くことでしょ?と思っていた過去の自分も含め、これからライターをしたいと思う人まで、ライターにとって書く作業はライティング全体から見ればほんの一部なのだなと感じていただけたと思います。

なぜなら、インタビューや調査で必要な材料を集めることで、はじめて記事を書けるから。大切なことはPCに打ち込む前に決まっている!

もちろん、素晴らしい情報が手元にあっても、見せ方がよろしくないと伝わりづらい。そこはライターの腕の見せどころであり、書くのは「ライティングの仕事の一部」とはいえ、重要なパートです。ライターをしている以上、書く力は磨いていかないといけません。

でも、鍛えてきた書く力は、仕事の目的把握と適切な情報収集があってこそ発揮されることも事実。ライターの仕事は書くだけじゃない、書くために必要なプロセスがあることを経験から痛感したお話しでした。

お読みくださり、ありがとうございます。

そのべゆういち
charoma0701@gmail.com

■ライター、そのべゆういちの実績について

■働き方を変えるきっかけとなった、産後うつの話


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