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音楽理論/楽曲分析 (池田福太朗)

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【楽曲分析】J. S. Bach, 平均律クラヴィーア曲集第2巻第12番フーガ (ヘ短調) BWV 881,2

【楽曲分析】J. S. Bach, 平均律クラヴィーア曲集第2巻第12番フーガ (ヘ短調) BWV 881,2

 公開するためにいろいろ説明を加えたりはしているものの,客観性を大切にした分析・解説を提供することを初めから目指したものではなく,基本的には自分のために分析したこと考えたことの記録です。つまり,思いついたこと感じたことを自由に述べている部分が多めに含まれています。というわけで,一般論としてもそうですが本稿については特に,私の言葉にとらわれず,「そう言いたければ言えるかもしれないが,自分はそう思わな

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バッハ4声コラールの優れた新版について (真作偽作問題を意識した初めての版)

バッハ4声コラールの優れた新版について (真作偽作問題を意識した初めての版)

 もう1年近く前になってしまいましたが,2021年9月に,バッハ4声コラールの注目すべき新版 (↓) が出ています。編者はトーマス・ダニエルThomas Danielで,バッハ・コラールについてのたいへんしっかりした教本 (ほとんど研究書) を出している人でもあります。

 最大の特徴は,確実/ほぼ確実に真作であるものと,多かれ少なかれ疑わしいものとが明瞭に分けられ,別々の部に収められていることで

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オルガン即興科で私が目指していたもの(言語学習を音楽学習に応用すること)

 私は2017年9月に教会音楽家としてドイツNRW州のある小教区に就職したが,1か月後にはベルリン芸術大学(UdK Berlin)のオルガン即興科Bachelor課程に入学し,以降しばらく,仕事の傍ら週1回だけベルリンに通ってレッスンを受けるという生活をしていた。
 結果的にこれは1年でやめてしまうことになるのだが,このとき考えていたことは大切なことだと今でも思うので,もはや自ら実行に移そうと取り

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バッハの和声の魅力と難解さの秘密:transitus irregularis



 バッハの和声をとりわけ味わい深くし,かつ把握しづらくしてもいるのが,拍節上相対的に強い位置にくる経過音・刺繍音の多用である。このような経過音・刺繍音はtransitus irregularisトランシトゥス(トランジトゥス)・イッレグラーリス,すなわち「イレギュラーなtransitus」と呼ばれる("transitus" は経過音・刺繍音双方を含む概念。ラテン語だが音楽理論の用語として今も用

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機能和声理論 (Funktionstheorie) の分析記号のまとめ

 19世紀末のドイツで生まれ,今もドイツ語圏を中心に通用している「機能理論 (独:Funktionstheorie)」という和声理論があります。これはまずフーゴー・リーマンHugo Riemannによって体系化され,その後ヴィルヘルム・マーラーWilhelm Malerらによって整備されたものですが,邦訳のある和声教本の中では,ディーター・デ・ラ・モッテの『大作曲家の和声』に,この理論に基づく記号

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