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アニマルスピリット

分からないことは誰に聞くのがベストなのだろうか。
以前、読んだ本の中に興味深い実験結果が紹介されていた。


アニマルスピリット アカロフ/シラー著


本書の内容は、マクロ経済学では取り上げられることのない人間の心理状態などを加味することで、現実の経済の変動を解明しようと試みた本。
タイトルのアニマルスピリットはケインズが自著の中で使った言葉。
本書では、合理的ではない人間の行動・性向をアニマルスピリットと呼んでいる。
安心感、公平感、腐敗、物語性、貨幣錯覚などがそれに該当する。


既存のマクロ経済学理論では足りていな部分を行動経済学的観点から補っているという感じであろうか(経済学の素人である私が勝手に解釈してるだけであるが)。
この本は、2009年の出版である。行動経済学的な知見が多く知れ渡るようになった2020年代に読むと、真新しい理論は見受けられなかった。

個人的には、とある実験結果を紹介している箇所が一番印象に残った。
テーマは、「人間は相談する相手をどのように選んでいるか


経済のいちばんの基本は交換の理論だ。
誰が何を誰とどの市場で交換するかを記述する。
でも交換の社会学的な理論もある。

(略)

社会学者たちによれば取引が公平でないと損をした側の人物は怒るという。
その怒りが解き放つ衝動のせいで取引は公平なものにならざるをえない。
交換の社会心理学理論は衛平理論と呼ばれる。
これは、取引のどちら側でも投入した分とを得られる分とは等しくなるべきだと主張する。
経済学者が交換の両方の側で投入として計算するものーこれは交換の金銭価値だけだーは、社会学者が投入や産出として計算するものとは大きく違っているからだ。
社会学者が計算するものには、主観的な評価、例えば取引に関わる人の地位が高いか低いかといったことも含まれるのだ。

(略)

社会的交換理論の初期のバージョンは、ピーター・ブラウが、ややこしい訴訟に巻き込まれた政府の役人について観察したことで生まれた。
公式の規則では、役人が助けを求めていい相手は上司だけということになっていた。
もちろん役人たちは、しょっちゅう上司に助けを求めたりはしたがらなかった。
鬱陶しがられるし、それに自分の無知や独立性のなさを認めることになってしまうからだ。そこで彼らは系統的に規則を破った。

お互いに相談しあったのだ。

ブラウはこの相談のパターンを観察しこれを衛平理論に照らして説明した。
かれは役人同士の技術水準に違いがあることも記述した。

そして予想とは異なり、技能の低い役人が技能の高い役人に相談することはほとんどなかった。

低技能の役人は同じく低技能の仲間と相談して助言をやりとりした。
そして高技能の役人は、他の高技能の役人とお互いに助言しあった。


なぜそうなったのだろうか?

それは、低技能の役人たちが取引に使える材料が限られていたからだ。
ありがとうと感謝の念を述べることはできる。
そしてまれに高技能の役人に助言を求めた場合には、確かにみんなそうした。

そうした謝意は、最初はうれしいかもしれないが、やがて空疎になる。
お礼を言うほうだって気疲れする。

だから低技能の役人は、最初は知識豊かな役人に助言を求めたとしても、それが何度も繰り返されることはなかった。
一方、同程度の仲間となら、同程度の価値とやり取りとともに交換を繰り返し続いたのだった。
お世辞や謝意の価値といった主観的な要素がこの評価に加わると、これは公平な交換の理論となる。
低技能の役人が高技能の役人と珍しく取引して感謝を述べた場合、それは交換を公平なものにする。
取引の一方が投入するものは、相手の算出の価値と等しい。

この理論は低い地位の人(たとえば伝統的なアメリカ社会での黒人の女性)が卑屈になる理由も説明する。
交換において主観的・客観的な投入と算出を等しくするためには、彼らは高い地位にある人々より多くを提供しなくてはならないからだ 。


分からないことを質問する場合、手っ取り早く解決するためには、一番詳しい人(高技能)の人に聞くことが一番だと思う。
しかしながら、上記の実験から出された結果によると、多くの人々は自分と同じレベルの技能を持った人に聞く傾向があったのだ。


なぜそうなるのか?

人間心理として対価交換が念頭にあり、互いが同じ技能レベルであれば、教えたり、教わったりの等価交換が繰り返し続くことが期待できる。

しかしながら、高技能の人に教えを乞う場合、低技能の人は技能だけでは等価交換が成り立たず、感謝を逐一述べなければならないことが次第に苦痛へと繋がっていき、助言を求めなくなっていくのではないかと考察されている。

ここに成長するスピードが早い人と遅い人の違いが現れているのではないかと思った。

安宅和人氏著「イシューからはじめよ」でも、外部の専門家に話を聞くことの大切さが書かれていた。
知らない人に電話でインタビューを申し込むことを英語では「コールドコール」と呼ぶそうだ。
日本の会社は、わからないことがあっても聞かない人が多く、本当にもったいない。
これができるようになると、生産性は劇的に向上すると。


自分自身はどのような人に聞いているだろうか、と振り返ってみた。
私の場合は、高技能、低技能というよりも聞きやすい人を選んでいるような気がする。
聞きやすい人というのは、結局自分自身と同じレベルだったり、同じ環境にいる人がほとんどだ。
つまり、外部や高技能の人から聞くことが出来ていないということ。


では、どうすれば、どんどん聞けるようになるのか。
この実験を行ったピーター・ブラウの実験から考察すると、自分自身に相手との等価交換の意識があれば、高技能の人にも聞けるはず。

助言を受ければ、お礼として飴玉一個でもあげるようにするのはどうだろう(笑)

冗談のようなアイデアだが、私たちが等価交換をしなければいけないと潜在意識のなかで思い込んでいることこそが一番の問題なのだ。
要は、気の持ちようである。

もしくは、常に相手に対して感謝の気持ちを抱いておく。
あらかじめ感謝の気持ちを抱いていれば、分からないことを聞いたときも、より多くを提供しなければならないと思わなくなるのでは、フットワークを軽くしてくれるのではないかと思った。(常日頃から相手に感謝の念を抱いているため)


ということで、明日から周りの方々に対して、なにかをされたわけでなくとも、あらかじめ感謝の気持ちを抱きながら、仕事に向き合ってみたいと思う。


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