（短編小説）特別のモチ子
こんにちは。ご覧くださりありがとうございます(￣∇￣*)
結構前に書いたものなのですが、意味がわからなくてなんとなくお気に入りなので、リライトしてこちらに掲載です。
お楽しみいただけましたら嬉しいです(￣∇￣*)
特別のモチ子
餅米のモチ子は考える。
海老、よもぎ、そんでノーマル。私はどの味になるんやろか。
海老とよもぎは、モチ子には花形に映る。色も可愛くて綺麗だし、何より美味しい。
表面かりっ、中身ふんわりもっちりと焼かれたそのふたつは特に香ばしくて、ノーマルとは違う特別感を感じる。
モチ子は特別になりたかった。ノーマルとは一味違った存在に。
ノーマルになっても、例えばきな粉、例えば砂糖醤油、例えば海苔、などとコラボレーションできるので、そんなに悪い事でも無い。
解っているのに、やはりモチ子は海老餅やヨモギ餅に焦がれるのだ。
「諦めぇやモチ子。何味になるかなんて分からんし、やっぱ、ノーマルんなる可能性がいちばん高いんやって」
ずっとモチ子の近くにいるモチ吉が言う。モチ吉はモチ子と同じ苗から生まれた、モチ子とはいわゆる兄妹だった。
「解っとるけどさぁ」
モチ吉の言っている事も解るから、モチ子はついぷぅと膨れてしまう。
大勢の餅米の粒に囲まれながら、やはりモチ子は夢を見るのだ。
とうとうその時がやってきた。他の餅米と一緒に水に浸される。そうして蒸され突かれて、美味しいお餅になるのだ。
モチ子はわくわくしていた。何味になるんやろか。
お餅はそもそも食べられる運命にあるので、そのことに怖さは感じない。歯並びの良いイケメンに食べてもらえたら嬉しいな、と思う。
さて数時間後、モチ子たちはふかふかに蒸し上がった。これから間もなく突かれる。
海老餅やよもぎ餅なら、途中でそれらの材料がやって来るはず。モチ子は待った。ぺったんぺったん杵で突かれながら。
しかしモチ子の願い虚しく、つるっと艶やかに突かれたモチ子たちは、真っ白のまま臼から取り上げられてしまった。
「あああん」
モチ子がしょんぼりと泣き声を上げると、一緒に突かれたモチ吉が慰めてくれた。
「ノーマルかて悪くあれへんて。おいしゅう食べてもらおうや」
「うん……」
モチ子は特別になれなかった。そもそもモチ子は始めから一介の餅米に過ぎなかったのだ。
残念だと思いながら、でもこれは仕方の無いことなのだと考えた。
打ち粉をされた台の上に置かれたモチ子たち。これから千切られ丸められ、人に食べてもらえるお餅になるのだ。
突きたて美味しいで。沢山食べてな。できればイケメンに〜。
モチ子はうっすらと涙を浮かべながら、そう願った。
ところが、千切られるのを待っていたその時、モチ子たちの元に珍客が訪れた。
「こんにちは〜」
「こんにちは！」
「よろしくー」
それは黒豆の一団だった。モチ子たちの上にぱらぱらと撒かれ、人の手によってモチ子たちと一体にされたのだ。
「わ、わ、黒豆さんたちだ〜」
「こんにちは、よろしくな。おれ、豆蔵て言うねん」
モチ子の横に来た黒豆はそう名乗り、にっこりと笑った。
「よ、よろしくです」
モチ子は豆蔵につられる様に笑顔を浮かべた。
そしてようやく、モチ子たちは千切られる。ほど良い大きさに丸められ、白い皿の上に置かれた。モチ吉と豆蔵も一緒だった。
「良かったやんか、モチ子。白いままやけど、ちょっとだけ特別になれたな」
「うん！」
モチ子は嬉しくなって、笑みを浮かべた。白くても特別になれるんだ。良かった。
モチ子たちが乗せられた皿が持ち上げられた。
とうとう食べられるんや。
モチ子は眼を細めた。
美味しゅう食べてな。
しかしその時、さらなる珍客がモチ子たちの元にやって来た。
「やぁこんにちは！」
「ねばねばしててごめんやで〜」
「まさかのコラボやでヒャッハー！」
納豆だった。
まさかの納豆だった。
豆餅になったモチ子たち、そのまま食べられるものだと思っていたのに、納豆！
モチ子たちは納豆のねばねばによって、茶色に染められた。
納豆餅は良く食べられているが、豆餅に納豆をトッピングする人がいるとは思わなかったので、モチ子たちは驚くしか無かった。
「モ、モチ子、良かったな、と、特別になれたんやね？ これ」
「そ、そうかもやけど〜」
ねばねばの中、モチ吉のせりふにようやくそれだけを応えるモチ子。
ああびっくりした。でもええねん、美味しゅう食べてもらえたらそれで〜
……おいしいんやろか、これ。
ま、ええか！
モチ子は深く考えず、吹っ切る事にする。私らをどう食べようと、それぞれやもんな！
きっと今度こそ食べてもらえる。モチ子はその時を待ち望み、そっと眼を閉じた。
終わり。お付き合いくださり、ありがとうございました！
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