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タイと日本の日本語教育|世界の日本語教師たち Vol.6(後編)|マイ さん

このedukadoページでは「世界の日本語教師たち」というテーマで、毎週世界を股にかけて日本語を教える先生たちの現場のリアルな声を取材した記事を配信したいと思います。 
第6回では、“タイと日本の日本語教育”と題してお届けします。

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今回の日本語教師:マイ さん
高校生の時にタイでボランティアをしたことをきっかけに日本語教師へ興味を持つ。その後大学・大学院にて日本語教育を専攻し、卒業後はタイの日本語学校に就職。昨年から日本に帰国し、都内の日本語学校と大学で教員を務める。

インタビュアー:Jun
埼玉県在住のフラガール。国際観光専攻。趣味は海外ドラマとJ-popアイドル観賞。観光学を通じて世界を学ぶうちに、日本文化について深く知りたいと思いedukadoへインターンシップとして参画。現在はPRを担当。多くの日本語教師へ取材する傍ら、日本語教育を取り巻く環境を改善すべく活動中。

タイでの経験を胸に日本へ帰国

—オリンピックが見たい!

タイから日本に帰国した理由の1つとして「東京オリンピックを東京で観たい」というのがありました。実は教員免許も持っていて、実習で介護施設に行ったことがあります。ちょうど東京で開催されることが決まったタイミングで実習をしていて、そのときにおばあちゃん達が前回のオリンピックが凄かったという話をたくさん聴かせてくれました。それで、東京でオリンピック観られたらいいなと思っていました。また、タイでの教員生活が5年になり、新たな場所でスキルアップできたらいいなと考えていたタイミングでもありました。また、情勢も少し不安定になってきたというのも理由の一つです。私が赴任して1ヶ月後にクーデターもありました。様々な理由で、一度日本に帰ってみようと決意しました。

—元教え子たちの切実な声

上記に加えて、日本に留学した教え子達が「タイの学校の方が良かった」や「日本に留学してそんなに勉強できなかった。」という風に言ってきたので、日本の日本語教育業界はどうなっているのだろうと疑問があり、自分の目で確かめようという気持ちもありました。

—教員同士の距離感

また、教員同士も非常勤が多いこともあって、「この課はこうやって教えよう」と言った完璧なすり合わせが事前にあるわけでもありません。タイの学校では一回一回ミーティングがあり、漢字はこういう風に教えようなど揃えていました。日本では非常勤と常勤で分かれてしまっているので、難しいのだと思います。

—非常勤講師と常勤講師の違い

日本の日本語教育業界は非常勤の先生がほとんどです。非常勤の先生はコマ給と言って授業を行っているときにお給料が発生する仕組みになっています。毎週非常勤の先生に時間を割いてもらう手間と手当てを出しきれないので、ミーティングなどは必要最低限にという現状になっているのではないかと考えます。
専任であれば勤務時間にいつでも相談できますが、非常勤の先生方は大体掛け持ちですので、時間的にも余裕がないこともあると思います。教員同士の連携が、私が以前勤めていたタイの学校より密ではないのはこれが原因だと思います。

日本の日本語教師は“激務なのに給料はあまりよくない”、“求められることも多いよう”です。授業準備にも時間はかかりますし、これを含めると時給に換算して一体いくらになってしまうのだろうかと私自身、考えることがあります。

日本とタイを経験して

—体力的にハードなタイの学校

タイの学校も結構ハードでした。かなり熱心な先生が多く、学習指導や教材研究も一生懸命だったので、休日返上で働いている先生も多かったです。私もそうで、週休二日制ですが実質週休1日のような生活をしていました。

タイの学校の場合は“少し無理をしてでも学生・学校のために働きいい学校を作ろう”という感じでした。

—教員と学生のSNSもOK!

タイは学生とのSNSのやりとりはオープンな方なので、お互いの私生活がわかる環境でした。日本だと"在学中の学生とご飯に行ってはいけない"などルールも多くありますが、タイの学校ではグループであれば、学生とご飯に行くのも自由だったので、そこで色々な話をして距離が縮まっていきました。

—“密”になりすぎない日本

日本の場合は良くも悪くも“ビジネス”という印象を受けます。「ここからここまでは仕事、あとは私たちの仕事ではないので違うところにやってもらいましょう。」という感じです。もちろんこれも正しいと思いますが、私が勤務していた学校を卒業した学生達からすると、ギャップがあるのも理解できます。

タイ人はとても親しみを持って接してくる人柄です。ですので、余計に日本の先生方の「ここからは入ってこないでね」というような線引きに寂しさを感じるのかもしれません。

日本語を使って共生できる社会に

—オンライン授業の難しさ

学校ではワークブックをコピーして授業を行うこともあります。このコピーを、インターネットを通じて見せることや送ることは“著作権法”に引っかかる関係で出来ないことがあります。このコロナの影響で、対面のクラスで出来てオンラインでは出来ないことが明確に見えてきました。学生が持っている教材しか使ってはいけない、教科書のCD音源を教師が読み上げる必要があるなど、いくつもの壁があるので、クラスの質を保つためにも学校としてはできるだけ対面で授業をやりたいと考えています。テストなどもカンニングし放題になってしまうので、様子を見ているとそこまで力になっていないのかなと感じることもあります。

—何気ない日常会話も重要なコミュニケーション

オンラインだと雑談がしにくいという不便な点もあります。授業時間外のたわいもない会話がないので、そこに寂しさを感じているようです。せっかく日本に留学しているのに、家から出られない現状にストレスを感じている学生も多くいました。

—どこにいてもどんな人でも同じ授業を受けられる

通学しなくていいというのは大きなメリットだと思います。世界中どこにいても同じ授業を受けられるのはオンラインならではです。また、病気の学生や手足が不自由な学生にとってパソコンの前で授業を受けるというのはかなり楽だそうです。普段よりも授業に集中できるという声も聞きました。

また、実際に授業を行ってみて、普段拾いきれない学生の声を受け取ることができることや、発言している学生の画面に名前が表示しているので名前で呼びやすいというのも利点だと感じます。チャット機能を使って質問を直接もらうことができるのもオンライン授業の良い点です。普段目立たない学生が発言するようになること、会話や質問ができるのは大きな利点だと考えます。

—外国人が増えていく日本社会

これから日本社会は外国人が増えてきて、日本人だけの社会では無くなってくると思います。海外で日本語を勉強してきた人たちと一緒に社会を作っていけるように、彼ら・彼女らに日本人になってくださいと言うのでは無く、日本語を使って自分らしく表現して暮らしていけるような手助けができたらと思っています。それは留学生だけでなく、子どももそうですし、仕事で少し日本を訪れた人でも、共生できる社会を、日本語を教えることを通して手伝っていければと思っています。

記者から一言

タイ・日本、どちらの学校にも共通して言えるのは、学生側ではなく学校側の課題であるように感じました。ライフワークバランスを保てるように仕事の配分を行うことや、常勤の教員を増やせるように体系を整えることで解決ができるのではないかと考えます。一方で、これらを行うためには、今の学校経営や業界イメージではそもそも人が集まらず、達成することは難しいのが現状です。以前行ったインタビューで"日本語教育は貧困ビジネスである"というお話があったように、ただ学ぶ人を増やしても現状を打破するのは難しく、今よりもさらに日本語の学ぶ価値を高めなければならないと感じます。

次回は"日本語教育の20年"と題してお届けします。
中国のカリスマ日本語教師として知られる先生に、20年間で大きく変化した日本語教育の環境について伺いました。是非ご覧ください!

インタビュー・文:Jun Sakashima


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