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【読書感想】創造性を育む

本の概要

「CREATIVE SCHOOL」
ケン・ロビンソン、ルー・アロニカ著
岩木貴子訳

教育は現在、不調を抱えている。だが、実は解決策はわかっている。これまでになく創造的な技術リソースを活用することで、徹底的にカスタマイズされえた「教え」と「学び」の形態を提供する、無限の機会に恵まれているのだ。(本書より)

感想

 現役で教員をやっている私としては、非常に身に迫る内容であった。帯にある「学校現場は創造性を殺してしまっている」という謳い文句に、強い関心と少しの反発心をもって、この本を手に取った。
 簡潔にこの本のコアメッセージを表すと、①「激しく変化する社会を生き抜くために、生徒が自分自身の良さを知り、周りへの思いやりの気持ちをもって関わることのできる市民として育てる」
②「子供は生まれながらに学びたい気持ちをもっていて、学校や教員を中心として社会環境は、子供が学びたくなる環境を整える必要がある」
であろう。

 生徒が前向きに座り、教員が生徒に向かい知識を注入するような授業の在り方や、生徒の一時的な知識の総量を問うようなテストの在り方などを厳しく非難し、様々な事例をもって、一人ひとりの良さを発見し、生徒の学ぶ意欲を高めている実践を紹介している。

現在の教育現場

 本を読んでみて、日本の教育として目指す姿が書いてある学習指導要領は、方向性としては正しい方向を向いていると感じた。中学現場では、今年度から新学習指導要領が実施されているが、何を学ぶかだけでなくどのように学ぶかにも重きが置かれていること、評価方法が全教科で3観点になり、従来どおりの評価の中心がテストに置かれている現状からの脱却を目指していること、変化の大きい時代を柔軟性をもって生き抜く力の育成を目指していることなど、本書で訴えていることと相違ない。

 が、実際の教育現場はどうか。理想をすべて体現しているとはいえないことが実態であろう。
 例えば、未だにテストの点のみで評価をつけようとしている先生が多いこと。今年から全生徒にタブレットが支給されたが、分からないことを理由に、授業で活かそうとせず、昔ながらの知識注入授業をしている先生がいることなど。(私の立場は研修主任であるため、そういった先生にも働きかけないといけないのだが…)

 やはり「変化」することは、特に過去の成功体験がある先生こそ、難しいことなのかもしれない。比較的学校現場は、今日と同じ1日が明日も起きることを良しとする風潮があるな、と感じる。
 学ばない者が、学びを教えることはできない。未来を創り出す教員という立場だからこそ、失敗を怖れず、日々変化していきたい。

創造性を育むために

 生徒の創造性を育むために、自分の管轄内で起こせる変化は何だろう、と考えてみた。
① 数学の授業で、より個別最適化を目指す
 タブレットを利用し、自分のペースに合わせて学習していく時間を確保する。中学3年生であっても、小学校の内容を復習する必要がある生徒もいるだろう。それも当然良い。
 私の専門教科である数学は、学力の2極化が進みやすい教科である。数字アレルギーがあり、九九を言えるか怪しい子が、三平方の定理を利用して、面積を求めることはできない。しかし授業は一斉に進み、どうしてもついてこれない生徒が出てくる。その生徒に個別で教える時間を確保しようといているが、全員をフォローする時間的余裕は今の学校現場にはないことが実態である。その現状を打破する必要を感じながらも、道が見えず悶々としていた。やはり学びのパーソナライズ化。分かる!できた!という実感が、学びの楽しさにつながり、学び続ける子の育成につながるのではないかと考える。集団で高め合えるという学校の良さを活かすパーソナライズ化はどこなのか、その着地点を探っていきたい。
②タブレット持ち込み可のテストの実施
 知識を以下にインプットし、それをテストの時間の中でいかに再現できるか、という従来のテストの在り方は、AI時代に意味を失いつつある。知識をいかに活用し上位の問いに向かうか、そもそもどのような問いを立てるか、そこを測ることには意義があると考える。今でもそのような授業の在り方、テストの在り方は何か、最適解を考えている最中である。が、タブレットを持ち込む=知識はすでにある、という前提でテストに臨めば、生徒の意識も大きく変わり始めるのではないか、と考えている。

終わりに

 教員という仕事の重みを改めて感じた本であった。教員だけでなく、保護者として関わっている方など、教育に関わる全ての人が読んで損はない本である。様々な角度から教育を考え、最終的には幸せな子を育成できる環境を整える一助となるのではないか。

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