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先週のMVPは特大バケツ

こんにちは。江戸餅しゅんと申します。
田舎町にある小さな幼稚園に勤めています。3歳から6歳までの子ども達が同じ教室で毎日を一緒に過ごしています。

先週は暑い日が続き、毎日水遊びの時間を設けました。
園庭には砂場で使う用の小さなバケツやスコップなど細々(こまごま)とした物を一気に収納、お片づけできるようにそれらを入れる大きなバケツがあります。子ども達はそのバケツに忍耐強くちまちまと湧き水を溜めていき、一気に小川に流し超絶盛り上がっていました。

今回は2話ともおやつの時間のお話しです。


今回の登場人物

ミセス・サンシャイン
うちのクラスの担任の先生。60代のおばあちゃん先生。
こんな大人がいるのかと驚くほど無邪気で誠実。ユーモアもあり、まさにクラスの太陽のような人。声を上げてよく笑います。

ビー玉君(びーだまくん)
6歳の男の子。どの年齢の子に対しても優しく慕われるクラスのリーダー的存在。
ビー玉って手元にあるとなんかウキウキした気持ちになります。この子は皆んなにとってそんな存在なんじゃないかなぁと勝手に想像してこの名前をつけました。

フェアリー
4歳の男の子。先週のMVPはたんぽぽの記事で登場した花の妖精君。元気いっぱいでダンスや歌を歌うことが大好きなエンターテイナー。

仙人(せんにん)
悟りを開いたまさに仙人のような大人びた5歳の男の子。寡黙な時とおしゃべりな時とあります。よく私の隣にそっとやってきてお天気の話や家での出来事をお話ししてくれます。

大御所歌手(おおごしょかしゅ)
とにかく歌を歌うのが大好きな6歳の女の子。童謡だろうが何だろうが自身の体から溢れ出てくるグルーヴを抑えることは彼女には不可能。
時にはやりすぎでお節介にもなってしまいますが面倒見がとても良いビー玉君に続くクラスのリーダー。

のれん君
仙人と同い年の5歳の男の子。仙人の親友。よく笑う。先生の注意も暖簾のようにひらりとかわす。暖簾に腕押しからこの名前をつけました。おちゃらけおしゃべりキャラ。
いつもニコニコしていて「人生楽しく生きましょう〜。」と身体から滲み出ているイメージの子です。

笹坊(ささぼう)
4歳の男の子。非常にマイペースで自分の世界をしっかり持っています。ユーモアがあり皆を良く笑わせてくれますが、反面自分の世界に入り込み過ぎて恐怖で泣き出す事もある繊細な一面も。
軽やかにおだやかに小川を下っていく笹舟の渋いイメージがこの子に近いかなと思いましてなんかこんな名前が生まれちゃまいました。


先週のお天気

うちの園は大自然の中にあります。なのでお天気チェックはとても重要です。お天気にそってその日の予定を決めていきます。
先週はついに朝でも気温が心地よい程暖かい日が続くようになりました。昼過ぎには暑い!そんな1週間でした。
夜にはにわか雨の降った日も数日あり、砂場の砂はお水を撒かなくても手で土団子が作れる程よい感じでした。
ケーキ、パイ、山、お城とたくさんの物を一緒に作りました。



ときめき

教室には正方形のテーブルが2つあり、それらは隣り合わせに設置してあります。
一つ目のテーブルはミセス・サンシャイン組。(前々回のお話の「君ならわかってくれるよね。」の、のれん君とヤマアラシちゃんが座っているテーブル。)
そしてもう一つが私の組。
それぞれのテーブルに、同じ数だけの子ども達がテーブルをぐるりと囲む形で自身の定位置に座っておやつを食べます。そのぐるりの一つに私達先生の座る場所も含まれています。

今回のお話しの舞台は私のテーブル。

この日は思ったより朝遊びの時間のお片づけが早く終わり、手洗いもスムーズに済みいつもよりゆったりと長めのおやつ時間を儲けることができました。

ミセス・サンシャインの指示でその日の当番の子がそれぞれのテーブルから選ばれます。自分の席のあるテーブルに座っている子達のおやつ袋をロッカーから運び、その子に渡すのがお仕事です。

年齢は関係無く、6歳の年長児の日もあれば3歳の年少児が配膳係になる事もあります。
まだロッカーに手の届かない子が当番になった日は年上の子達がお手伝いを申し出てくれるので先生たち大人は座ったままです。

この日私のテーブルで1人欠席の子が居たため、席を詰め、いつもは隣同士にならないビー玉君とフェアリーが隣同士に座っていました。

ビー玉君は自然と皆が慕いたくなる様なクラスの心優しいリーダー的存在です。ビー玉君の隣の席はそこに座った子にウキウキ感を増させる力がある様です。

その日は2人揃って配膳係では無かったビー玉君とフェアリーですが、座って待っている間もフェアリーはニコニコとしてビー玉君の手をちょんっと突いてみたりと嬉しそうにちょっかいを出していました。
ビー玉君はそれに小さく微笑む程度で応対してました。

いつも通り黙々ともくもく食べる、いわゆるおしゃべり禁止時間を終えてからミセス・サンシャインは時計を見、まだ時間に余裕があるのを確認してから口を開きました。

お話しの時間です。
このお話しというのは童話などの物語や絵本の読み聞かせの様なものではなく、この時間のお話しは全てミセス・サンシャインが実際に体験したなんて事ない日常の実話のお話しをしてくれる時間です。
子ども達はもちろんこの時間が大好きですが、私もこの時間が大好きです。
引き続きおやつを食べながら皆目を輝かせお話しが始まるのを待っています。

今回のお話しはミセス・サンシャインの庭を訪れた動物達のお話しでした。

ミセス・サンシャイン
「この間の週末の朝にミルクティーを飲みながら庭を眺めてたの。毎朝いろいろな鳥が私の家のバードフィーダー(野鳥の為の餌台)に来て食べてる姿を見るのが楽しみでね、春になって色々な種類の鳥が来るから夢中になって見ていたんです。
そうしたら、奥の植木がガサガサって動いたので、何かしらと思って目を凝らして見ていたら隣の家の猫のジャックがバードフィーダーの鳥を捕まえようと忍足で近づいてきたの!
私は思わずダメよ!ジャック!てちょっと大きな声を出しちゃって…。」

思わず子ども達はそれぞれに「ジャックは鳥を捕まえた!?」「あ〜あ、鳥は飛んでちゃったんじゃない?」「猫が怒った!?」「ミルクティーこぼしちゃった!?」など自分の意見を口にしています。

ミセス・サンシャインはニコニコと黙ってゆったり座り、一人一人の子が発言したかなと思われるまで待ってから、
「そう!鳥はみ〜んな飛んでいってしまったの!ミルクティーはこぼさなかったけど、猫のジャックは怒った様な顔で背筋をピンって伸ばして座りながら、じっと真っ直ぐ私の事を見てたの。怒ってる様なんだけど、でもその顔がとってもハンサムでね、私はジャックにごめんなさいって謝ってから、あなたは本当にハンサムね!って言ったのよ。そしたらジャックはゆっくり自分のお家に帰っていったの。きっと許してくれたのかなって思いました。」

3秒程してもミセス・サンシャインの口からは次の言葉が出てこなかったので、これでお話しは終わりなんだと理解した子ども達。
すると、フェアリーがミセス・サンシャインに質問しました。

フェアリー「ハンサムって何?」

ミセス・サンシャインは少し考えてから「う〜ん、美しいって事かな。」とその年齢の子が理解できる様な極シンプルな返答をしました。
 
それを聞いたフェアリーはハッ!として、くるりとビー玉君の方に肩ごと振り向き、ニコニコとそして若干うっとりした様(さま)でビー玉君に言いました。

「ビー玉君、君はとてもハンサムだね♡」

それに真顔で「ありがとう。」と答え、おやつを食べ続けるビー玉君。フェアリーはしばらく頬を染めたままキラキラの瞳でビー玉君を何度かチラ見してました。

私は自分のルイボス茶を飲みながら平和に身を浸してました。



仙人の山下り

またもや、仙人のお話しで恐縮です。

ヨーグルト、アップルソースやオートミールなどスプーンを使うおやつを持参する子がたくさんいます。スプーンは自宅から持って来てもいいですし、園のスプーンを使っても良いと、ゆるい感じです。

仙人はほぼ毎日と言って良いほどスプーンの必要なおやつを持参し、そして園のスプーンを使います。仙人はいつも先生に一言、「スプーンが必要です。」と告げるとスプーンが届けられるまで自身の右手のひらをテーブルに上向きに開き、ひたすら沈黙と共にスプーン待ちの修行に入ります。その手のひらにそっとスプーンを乗せるまでその体制です。

仙人の席はミセス・サンシャイン側のテーブルです。私の席からは仙人の背中しか見えません。
この日ミセス・サンシャインはビー玉君他数名を連れて森まで園庭の雑草を捨てに行っていました。その為おやつの時間に少し遅れていました。

私が当番の子を決め、配膳を終えてからそれぞれのおやつを準備している最中に仙人の声が聞こえてきました。それはいつものスプーン修行開始の合図ではなくなんだか興奮気味の仙人の声でした。

「は!なんてことだ!一体どれが私の本当のスプーンなのか!」と聞こえてきました。当然周りの子達もざわつきます。背中越しにしか見えない仙人。すると仙人と同じテーブルに座っている面倒見の良い大御所歌手が席を立ち私に向かって言いました。

「仙人のママかパパがいっぱいスプーンをおやつ袋に入れちゃって、仙人がどうすればいいか困ってる!」と。すると仙人が被せるように「困っているのではない!笑 一体どれが自分のスプーンなのか考えてるだけだよ!笑 それにいっぱいじゃなくて7本のスプーンだよ!笑」

なぜか嬉しそうな仙人。

その後仙人が説明してくれました。
話をまとめると、今朝おやつを詰めているパパに言われたそうです。

①今日から自宅からスプーンを持っていく事。
②仙人が使い、持って帰って来た園のスプーンがたくさん家に溜まってしまったのでまとめて先生に返してほしい事。
③7本のうち1本は仙人がいつも家で使っているスプーンで、よく見ればわかると思うが念のため当てっこゲームをして練習した事。

きっとその当てっこゲームを思い出してにこやかだったのでしょう。
ですが、さすがに似たような、柄の違うスプーンが7本ともなると仙人でも探し出すのに時間が必要なようでした。

お節介大御所歌手を筆頭にクラス中が仙人をサポートし、これかな?あれかな?と模索し「これかも?」というスプーンを見つけ出し満足そうに仙人はヨーグルトを食べ始めました。

そんな一連の騒動のあとミセス・サンシャインと数名の子達が森から戻って来ました。ミセス・サンシャインは子ども達を私に託すと、出しっ放しのワゴンや手袋を外の物置小屋に片付けにもう一度教室から出て行きました。

遅れて来た組がおやつを食べ始めます。私のテーブルに座っているビー玉君が言いました。「先生、スプーンください。」私は心の中で(よしきた!)とガッツポーズをし、澄ました顔で「仙人を訪ねてください。」と一言告げました。

へ?とその意味が理解できないビー玉君を仙人のところに送り「仙人、ビー玉君にスプーンを一つお願いします。」と頼みその声に笑顔で答える仙人。その後森から帰って来た組の他2人の子達も仙人のところに送り仙人はいたく満足そうにしてました。

その後大御所歌手が皆に一連の出来事を説明し皆でケタケタ笑い合いました。

ミセス・サンシャインが戻って来て定位置に座るとミセス・サンシャインの隣に座っている笹坊が静かに「ミセス・サンシャイン、今日もおやつはオートミール?」と訪ねました。
その声にクラス中がハッとし、のれん君が「スプーン!」とワクワクして立ち上がってしまいました。それに乗っかるようにビー玉君は「ミセス・サンシャイン!スプーン忘れちゃったよね!?スプーン必要だよね!?」と畳み掛けます。
状況が理解できないミセス・サンシャイン。「スプーンなら持って…。」と袋から出そうとした時に大御所歌手が「だー!」と出させないようにミセス・サンシャインの手を押さえつけ、そして私をみます。

私はぐるりと子ども達とアイコンタクトをとり、ミセス・サンシャインに一言、「スプーンが必要なら、仙人を訪ねてください。」と告げました。

クラス中がワクワク、クスクスの塊です。

キョトンとしながら仙人に視線を移すミセス・サンシャイン。
私からはその顔は見えないけれどワクワクニヤニヤしているのが十分に伝わってくる仙人の背中を見つめていました。

スプーンを受け取り、クラス中から説明を受けたミセス・サンシャインは「あはははは!」とオレンジ色の笑い声を教室中に響かせ、仙人から受け取った小さなスプーンで自身のオートミールを食べ始めたのでした。

いつも山にこもって孤独な修行に励む仙人が、山を下り村人と戯れたというお話しでした。


読んでくださりありがとうございました!

先週は我が家中で風邪が流行ってしまいさすがに参りました。
春からの梅雨にかけての季節の変わり目、心身ともに疲れがたまり体調を崩しやすいと思いますのでみなさま、お身体ご自愛ください🐈























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