書評『食堂かたつむり』/心満たされる思い出の味
こんにちは。エディマートの森永です。
4月からスタートし、今回で5回目となる『エディマート読書部』のブックレビュー。あっという間に5月も最終日を迎えます。
毎日が新年度の始まりのようにフレッシュな気持ちで過ごせたら良いのですが、頑張りすぎてちょっと疲れてきたかも……と失速気味の方もいるのではないでしょうか。
入社から4年が経ち社会人生活にも慣れてきて、私は息抜きの時間をより大切にするようになりました。そんな私の息抜きは、「料理」と「おいしいものを食べること」。料理をしている時間やおいしいものを食べている時間は不思議と穏やかな気持ちになれます。
今回ご紹介するのは、読んでいるとちょっとお腹が空いてくる、料理を通して心癒やされる物語です。
書籍情報
『食堂かたつむり』
著者:小川糸
出版社:ポプラ社
発行:2008年1月
この本を手に取ったきっかけ
中学生の頃、私の通っていた学校では「読書タイム」という時間が毎朝10分ほどありました。“絵よりも文字の多い本であればOK”というルールのなかで好きな本が読めたので、中学1年生になった私はお小遣いを持ってさっそく地元の本屋さんへ。
文芸コーナーを歩いてまず思ったのは、種類が多すぎて読みたい本が分からないということ。自由に選べるとそれだけ選択肢も増えて悩んでしまいました。
最終的に本屋さんのなかで1つ本棚を決めて、そのなかで1番持っていたくなるタイトルと表紙で選ぶことに。そのときに初めて選んだ本が『食堂かたつむり』でした。イラストレーター・石坂しづかさんが手がけた、かわいらしい表紙が目印です!
私は大人になった今でも、題名や表紙だけで本を選ぶことがあります。余談ですが、読む本のジャンルを定めずにさまざまな本を手に取る方法の1つとして、大学時代の先生に教わった本の選び方でもあるんです。
どんな本?
本書は、同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、ショックで声も失ってしまった主人公・倫子が、ふるさとに戻って小さな食堂を営むストーリー。店に決まったメニューはなく、一日一組だけのお客さんに要望を聞いてもてなします。
それぞれ事情を抱えたお客さんが来店し、思い出の味をリクエスト。料理をきっかけに心がほぐされていく様子は、読んでいてほっこりするエピソードばかり。友人・熊さんのために作った「ザクロカレー」や記憶をなくしたおじいさんとその家族に贈る「お子様ランチ」など、愛情あふれる料理の数々が登場します。
一方で、“命をいただく”というリアリティのあるシーンも随所に含まれていて、生き物が食材になることをしっかりと描いた食育の要素も感じられる一冊になっています。
わたしの感想
本書は料理や食事のシーンが見どころのひとつ。臨場感があって思わずヨダレが出てしまいそうな表現の数々に、「文字だけでこんなにおいしそうに表せるのか!」と脱帽しました。
著者・小川糸さんの作品には料理や食事について描かれているものが多く、どれも実際には食べていないのに読んでいておいしさを感じるんです!
例えば、サムゲタンスープの盛り付けシーンはこんな感じに。
体を温めるサムゲタンスープですが、匂いだけで温まっていく様子が表現されています。これを書いている今も、何だかお腹が空いてきました…。
私自身、編集の仕事のなかで飲食店の取材や原稿執筆を担当することがあります。実際に取材へ行くと、店主さんの想いや料理へのこだわりを肌で感じることも。ライターや編集者は取材で聞いたことを文章化して、しっかりと読者に伝える必要があります。
店や料理の良さを伝えるには、豊かな文章表現を養い、さまざまな文章を読んで表現のストックを増やすことが大切だと思っています。小説は著者ならではの独特な表現がされていることも多いですが、想像を掻き立てる文章表現の参考になるかもしれませんね。
最後に、私が読んで印象的だった一文をご紹介します。
本書を読んだとき、私が一番に思い出したのは祖母が作ってくれた温かい料理でした。
疲れたときこそ、誰かが作ってくれた料理や想いのこもった料理が、固まった心をほぐしてくれるかもしれませんね。
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