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補助イスの憂鬱

座ったのは、扉に一番近い補助椅子だった。

補助椅子は不安定だ。

腹に力を入れてカーブに耐えなきゃいけない。すぐに「ばたん!だん!!」としまわなければならない。背もたれを折り椅子に戻す。2工程もあるよ。私は昔から謎の機械不良を起こしやすい。くるんじゃないか?心もまた不安定だ。私が立たないと皆が降りられないのだ。この工場を往復する満員のマイクロバスの乗客の中で私が一番に立たなければいけない。すごいプレッシャーだ。補助椅子はスマートに仕舞えるだろうか。だんだん吐き気がしてくる。工場勤務は想像以上にメンタルをやられるのだ。行きのバスの中と匂いが違うのは1日に受けたストレスの大きさを表していると思っている。一日中ヘルメットを被らされていた皆の頭皮も解き放たれているのだろう。いいよ、いいよ。毛穴万歳だ。古新聞の匂いが充満している。メンタルと体がボロボロの戦士たちが苦痛からやっと解き放たれてやすらぎの里に帰ろうとしている中で1ミリのストレスも与えたくないのだ。

補助席に座りながら目をつむり、矢野顕子を聞き、考えすぎていたら、空想の世界に飛んでしまった。たのしいこと、たのしいこと、、きゅうりだ!

蛇腹きゅうりが待っているじゃないか。昨日丁寧に仕込んだ蛇腹きゅうり。親の敵のように無数に切り込みをいれたきゅうり。3本で150円だった宮崎産のきゅうり。蛇腹きゅうりの甘酢漬け。勢いで900mlのデカすぎる酢を買ってしまったので、積極的に酢を使わなければならない。

タバコは吸わないが、大きさを比べる時にはやはりいつの時代もタバコがほしくなる。

32歳になって、はじめて蛇腹きゅうりに挑戦してみた。まさか家でかわいい蛇腹きゅうりが待っているなんていえない。とてもかわいいのだ。

駅につき、自分でもびっくりする早さで補助席をしまってバスを降りた。うまくいった。家路を急いだ。

昨日仕込んだのはこれである。

ちょっとかわいすぎやしないかね、君。

ビールを冷凍庫にいれ、シャワーを浴びる

これが現実だ。こんなもんだ。

タッパーから直食いである。

うん、よく漬かっている。

実に雑な生活だ

この生活からも抜けだせるだろうか。

さくらももこさんのような室井滋さんのようなエッセイがかけるようになりたい。100回生まれ変わっても到底無理だろうか。

どうせ誰もみてないから好き放題言ってみた。

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