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イギリス男とアイルランド娘のワンナイト・ラブストーリー:Galway Girl/Ed Sheeran

 いつもはイタリア語ばかり読んでいるのですが、英語の曲もそれなりに聞くので、なんとか自力で解読してみたいお気に入りというのもでてきます。そんなわけで、今日はエド・シーランさんの「ゴールウェイ・ガール」の歌詞を読んでみたいと思います。

まず、ゴールウェイってなに?

 この「ゴールウェイ・ガール」は、ほんのりキーワードの背景が分かっていると旨みが増すタイプの曲なので、とりあえずタイトルから見ていきます。

ゴールウェイというのは、アイルランド西部にある港町のことです。
 アイルランドは英語圏の国ですが、もともとはアイルランド語を母語とする人たちの暮らす場所でした。歌詞に出てくるGaelicというのはゲール語のことで、アイルランド語はその一種です。もうアイルランド語話者は多くないそうなのですが、それでもゲールタハト呼ばれる地域では今でも日常的に使用されています。そしてゴールウェイは、アイルランドの言語と文化を守ろうという気が胃に溢れるゲールタハトの拠点のひとつとして知られています。

 あまり詳しくないので適当なことは言えませんが、アイルランドイギリスのあいだに、支配と独立をめぐる血まみれの暗い歴史が横たわっていることは、この「ゴールウェイ・ガール」という曲を聴くうえで、知っておくと役に立つでしょう。

エド・シーランの「ゴールウェイ・ガール」の
歌詞を英語で読んでみる

それでは歌詞を見ていきましょう。

She played the fiddle in an Irish band
But she fell in love with an English man
Kissed her on the neck
and then I took her by the hand
Said, "Baby, I just want to dance"

彼女はアイルランド風のバンドでフィドルを弾いていた
でもイギリス男と恋に落ちた
彼女の首のうえにキスをして
そしてそれから僕は彼女の手を取って
言ったんだ、「ねぇ、僕ちょうど踊りたいんだ」

フィドルっていうと、あれですね。マザーグースの「Hey Diddle Diddle/ヘイ・ディドル・ディドル」に登場するネコが弾いてる楽器(The cat and the fiddle)です。
 どんな楽器かといえば、その正体は私たち日本人が一般的にヴァイオリンと呼んでいるアレです。ただし楽器は同じでも使い方が違うので、名前が違うのにも納得がいきます。宮廷文化に根ざしたクラシック音楽の演奏家は、この楽器をイタリア語由来のヴァイオリンとして使い、地方文化と強く繋がった伝統音楽の演奏家はフィドルとして弾くわけです。なんでも、アイルランド国内でもフィドルの弾き方には地方色があるらしく、興味深いですね。

 そんなアイリッシュみあふれるフィドルを弾く女の子が、故郷と複雑な関係にあるイギリスからやってきた男性と恋に落ちちゃって、しがらみを無視して手を取り合って踊るっていうのが、この曲のハイライトとなるサビです。

I met her on Grafton street
right outside of the bar
She shared a cigarette with me
while her brother played the guitar
She asked me what dose it mean,
the Gaelic ink on your arm?
Said it was one of my friends's songs,
do you want to drink on?

僕が彼女に会ったのはグラフトン通り
バーを出てすぐのところで
お兄さんがギターを弾いてる間に
彼女は僕とタバコをシェアして
あなたの腕のゲール語の入れ墨って、
どんな意味なの?って聞いてきたんだ
僕は友だちの歌のひとつ、
きみもっと飲みたい?って言ったんだ

グラフトン通りっていうのは実在するストリートの名前なんですが、これがあるのはゴールウェイじゃなくて、アイルランドの首都ダブリンなのだそうです。繁華なところということなので、私もたぶん知らないうちに観光ガイドの写真とかで見てるんだろうなぁ。
 その賑やかなグラフトン通りのバーの入り口のところで、いきなりもらいタバコをするところからラブストーリーが始まるのって劇的ですよね。でもぱっと見て「それゲール語ね」って分かったり、イギリス人だけどゲール語で歌詞を書ける友だちがいたりと、なんだか伝統文化への自然な接続が語られてる、この塩梅が好きです。

She took Jamie as a chaser,
Jack for the fun
She got Arthur on the table
with Johnny riding a shotgun
Chatted some more,
one more drink at the bar
Then put Van on the jukebox,
got up to dance

彼女はジミーをチェイサーに
ジャックを楽しみに飲んで
アーサーをテーブルに置いて
いっしょジョニーをショットガンで
もうちょっとお喋りして
バーでもう一杯
それからジュークボックスでヴァンをかけて
踊りだしたんだ

 ここ、非酒飲みにはちっとも分かりません
 まずかろうじて知ってるつもりだった、お酒のチェイサーなんですが、これ日本では一般的に、お酒といっしょに飲むお水のことを指しますよね。
 彼女がチェイサーとして頼んだジェイミーは、ジェイムソン・ウィスキーのこと。いわゆるアイリッシュ・ウィスキーのひとつなのだそうです。ウィスキーは水じゃないですね。なんてこった。イギリスでチェイサーというと、弱いお酒のあとに飲む強いお酒のことだと、さっき知りました。これを知らずにダブリンのパブに入って「チェイサー」を頼んでいたら、私は床に倒れて吐いていたことでしょう。言語学習は命を救います
ジャックは私でも知ってるアメリカのウィスキー、ジャック・ダニエルアーサーは創始者の名前からとった、ギネスビールの愛称。ジョニーアイリッシュウィスキー。ショットガンは飲み方で、小さいグラスでぐっと一気飲みにするやつです。よくテキーラとかでやるやつ。

ヴァンというのはアイルランドの有名な歌手の名前で、ヴァン・モリソンのこと。

 かっこいいですね。
 酒を酒で飲む酒豪のアイルランド娘の歌に酔っぱらう一夜かぁ……。

You know,
she played the fiddle in an Irish band
But she fell in love with an English man
Kissed her on the neck
and then I took her by the hand
Said, "Baby, I just want to dance"
With my pretty little Galway Girl
You're my pretty little Galway Girl

分かるだろ、
彼女はアイルランド風のバンドでフィドルを弾いていた
でもイギリス男と恋に落ちた
彼女の首のうえにキスをして
そしてそれから僕は彼女の手を取って
言ったんだ、「ねぇ、僕ちょうど踊りたいんだ」
僕のかわいい小さなゴールウェイガールと
きみは僕のかわいい小さなゴールウェイガールさ

 ここがサビにあたります。
 くり返して登場するくだりですので、この先に出てくるところは省略しちゃいますね。

You know
she beat me at darts
and then she beat me at pool
And then she kissed me
like there was nobody else in the room
As last orders were called was
when she stood on the stool
After dancing to Cèilidh 
singing to trad tunes

分かるだろ
彼女は僕をダーツで負かして
そしてそれからビリヤードでも負かした
そしてそれから僕にキスした
まるで部屋に誰もいないみたいに
ラストオーダーの声がかかったのは
彼女がスツールの上に立った時
トラッドな曲を歌いながら
ケーリーのダンスを踊ったあと

 主人公の女性の好みがはっきりとわかりますね。
 私は英語できない勢なので、プールと聞くと「いきなり泳ぎに行ったんか?」と戸惑ってしまいますが、辞書を引くとちゃんと「《英》賭け玉突き」って書いてありました。
 よくわからなかったので調べたところ、ケーリーというのは音楽と踊りを楽しむアイルランド人の社交の場のことのようです。なんだか奥が深そうなので、ここではとにかくアイリッシュダンスの一種みたいだよとだけご紹介しておきます。

I never heard Carrickfergus 
ever sang so sweet
A capella in the bar 
using her feet for a beat
Oh, I could have that voice 
playing on repeat for a week
And in this packed out room 
swear she was singing to me

あんなに甘く歌う キャリックファーガスなんて
僕はそれまで聞いたことなかった
バーのなかアカペラで
彼女は足でビートを取りながら
あぁ、僕はあの声を忘れられなかった
一週間ずっとリピートしてたんだ
それに、この人でいっぱいの部屋のなかで
誓ってもいい、彼女は僕のために歌ったんだ

キャリックファーガスはアイルランドの民謡のタイトルです。初っ端から「キャリックファーガスに居られたらなぁ」と歌いだすように、キャリックファーガスというのは、北アイルランドにある街の名前で、海に面して建つキャリックファーガス城が見どころなんだとか。キャリックファーガスっていう語の響きが気に入っちゃいました。
 下にキャリックファーガス(歌)の画像を貼っておきます。

ケルティックウーマンさんも歌っているようですが、私はこのThe Dubliners & Jim McCannさんバージョンが気に入りました。声の張りとちょっと寂しそうな歌い方がツボです。

And now we've outstayed our welcome
and it's closing time
I was holding her hand, 
her hand was holding mine
Our coats both smells of smoke,
whisky and wine
As we fill up our lungs
with the cold air of the night

それで僕たちは長居し過ぎちゃって
それでもう店じまいの時間で
僕は彼女の手を握っていて
彼女は僕のを握ってた
僕らのコートはどっちもタバコと
ウィスキー、ワインの匂いがしてた
僕らは胸いっぱいに
夜の冷たい空気を吸い込んだ

 説明は要らない……って感じですね。

I walked her home
then she took me inside
To finish some Doritos
and another bottle of wine
I swear I'm gonna put you
in a song that I write
About a Galwey Girl
and a perfect night

彼女の家まで歩いて行ったら
彼女は僕をなかに入れてくれて
最後にちょっとドリトスと
ワインをもう一本
誓うよ、僕はきっときみを
歌に書くって
ひとりのゴールウェイ・ガールと
完璧な一夜についての

 スナック菓子を摘まみながら、名残りを惜しんでワインをもう一本だけ。
 タイトルは「ゴールウェイ・ガール」ですが、舞台はダブリンっていうところが、なんかこう個人的にめっちゃいいなぁって思います。ほら、なんだかんだでダブリンって大都市ですし、イギリス男にとってもゴールウェイ娘にとってもアウェイで、それでもやっぱりアイルランドの中心地だから、ここはゴールウェイの女の子が属する場所であって、イギリス男はたとえゲール語を腕に彫っていても、やっぱり……っていうね、距離感が、寂しさが、私の空想力に火をつけて、やっぱ「ゴールウェイ・ガール」って最高だなっていう気にさせます。※個人的な見解です。

いつかはアイルランドの土を踏みます

 いつもイタリアの話ばかりしているので、そこにしか興味がないのかと思われがちですが、アイルランドにはめちゃくちゃ憧れを募らせております。
 いいなぁ、いつかは大西洋の暗い潮騒の聞こえる丘の草を踏んで歩きながら、妖精のことを考えて日がな一日ぼーっと過ごすような休暇が実現できたらなぁ。

 ちなみに、アイルランド系カナダ人の小説家O.R.メリングさんの「夏の王」という作品が、中学生時代からの愛読書です。
 あんまり自分向きじゃないなぁと思いつつも、ずるずると英語を諦めきれずにいるのは、いつかこの小説の主人公ローレルの見た景色を求めて、アキル島に行きたいというところが大きいです。

 あと、アマプラで見られる海外ドラマ「アメリカンゴッズ」(原作小説を書いたのは「グッド・オーメンズ」のニール・ゲイマン)に登場するキャラクターだと、アイルランドからアメリカに渡ってきたレプラコーンマッド・スウィーニーを推しています。おまえってヤツぁほんとうに…!
 振り落とされないヤツだけついて来なって感じのエログロオカルト具合ですが、近々おすすめブログを書こうかなっていうくらいおもしろいので、よろしければ見てみてくださいね。(18歳以上のお友だちに限る)

 将来は不安だし、英語は思うように上達しないしで、見通しは立たないけれど、憧れだけは手放しません。
 いつかは行くぞ、アイルランド

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