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ポストコロナの世界観~変容する世界と社会 1

後ずさりするグローバリズム

ポストコロナの世界として明るい絵を描くことはなかなか難しいように思われる。

新型コロナで世界は深手を負った。経済損失もさることながら、世界に与えた心理的打撃の大きさが気がかりだ。われわれがこれまで最良と考えてきた自由で開かれた世界システムが、パンデミックという想定しない厄災に対していかに脆弱であるかが明らかとなったわけで、グローバリズム信奉者は茫然自失しているだろう。

今回の新型ウイルスの感染拡大には幾度も阻止するチャンスがあった。それにもかかわらず、世界全体で死者数が最終的には数十万人に達する勢いなのだ(update:2021年1月現在、200万人を超えた)。しかも、未だに完全制圧・V字回復に程遠い状況なのである。今更の話ではあるが、きちんと対応できたといえるのは台湾と韓国ぐらい、スエーデン方式(市民の集団免疫獲得をめざす)は評価待ちであるが、その他の国々は軒並み落第点である。中国は政治システム上の欠陥から初動が遅れて再び世界中にウイルスをまき散らした上、毎度のことながら反省の色もない。米EUについても当初は感染力を見くびり、日本におけるダイヤモンドプリンセス号の事案を対岸の火事として批判・論評するに終始して時間を無駄にした。日本とて、政治・経済上の思惑に足をとられて、新型ウイルスを封じ込めるタイミングを失した(欧米と比べればそれでも軽微な被害だが)。WHOはといえば政治的バイアスに起因する重大な過失を犯し、存在意義すら問われている。

今後も、世界人口の過半が免疫を獲得するまで、感染の波は繰り返し、世界各国・各地域を襲ってくるだろう。防疫上の移動制限は国レベルでは少なくとも今後数年は継続するとみられ、人の移動と交流は当面低調な水準が続くだろう。多くの国・地域において、接触ビジネスはほぼ壊滅に近い状況が続きそうだ。新型コロナの流行が仮に2~3年で終息したとしても、パンデミックに対する人々の恐れはその後も収束せず、われわれの日常生活はコロナ以前とはすっかりかわった風景となるだろう。

経済はどうか。

失業者数の驚異的な増加・貧富の格差拡大は止められない。人と人との接触や集いがビジネスモデルの軸となっている産業や、人の移動を支える産業は少なくともここ数年間、需要消失を覚悟せねばならないし、その後も需要復活の見通しは不透明だ。これら産業で、雇用創出と富の分配機能がなくなることは大きな痛手である。

先に光が見えないわけでもない。ITやAIの利活用は今まで頑なに導入を拒んできた保守的な産業においても急激に浸透し、経済活動のありかたや人々の労働形態そのものを本質的なレベルで変容・進化させていくであろう。

ITとAIにかかわる産業の成長が急加速することは論を待たない。今、大幅に伸びているテレワークに関連した製品・サービス等の伸びを見れば理解される。しかし、IT・AI以外にも必須の産業と滅びる産業の選別が起きている。今、われわれが見ている「移動制限の下で世話になっている生活サービス・社会インフラ」はインターネット社会を支えるインフラとして今後も生き残る産業である。食料の需要も減ることはない。しかし、接触ビジネスや移動ビジネスの如く、社会の変容にともなって膨大な需要を消滅させる分野があることもこれまた事実であり、当面は全体として経済が成長する状況にならなさそうだ。

パブリックセクターの動向について。

各国政府は、新型コロナで行き詰る経済を支えるための政策と、国民生活を支援するための大規模な救済策を実施するが、長期的な視点無しの野放図な財政支出が継続する一方で、景気低迷の長期化から税収は落ち込み、結果として、国家財政は取り返しのつかない赤字水準に陥るだろう。先進国にも国家財政を破綻させる国が出てくる。無策の政府は、ポピュリズム的な傾向を強める。

世界はどう動くか。

今後、グローバリズムは急速に力を失っていくだろう。世界中で「自国のことで精一杯」「自分の国だけ助かる」的なマインドが横行し、新型ウイルス対策を名目とした保護主義的傾向が増幅されていく。排外主義的な国民の世論と『いけにえ』を求めるような好ましくない傾向(アンチチャイナのうねり)に便乗する傾向が強まる。国際秩序に反する行動をとる国家指導者が増えていくし、国民にもそれを是とする傾向が強まっていく。グローバル化を堅持しようとする声は上げにくくなる。

グローバルな一体感が失われる傾向が強まると、後発途上国の窮状は一層の悪化をたどるだろう。コロナによるダメージから抜け出せないうえ、先進国からの援助も縮小していく。中国からの援助は常に代償とリスクをともなう。

国際機関は残念ながらその存在意義を認めさせるだけの力をすでに持たない。新型ウイルス対応におけるWHOの失策が国際機関全体への信任を失わせるダメ押しとなった。地球環境問題を支える国連組織と関係する団体も常に総会屋の如く胡散臭い部分がつきまとっていた。新しいグローバリズムは国際機関や国際システム枠組みから生まれるものではなくなり、むしろ、国際機関等とは別個の動きとして、知的水準の高いインターネットの民に支えられた健全な世界市民意識のようなところに向かっていくのではないか。

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こうした外部環境の下、ポストコロナの経済では6つのニューノーマルを前提に考えていく必要がある。

(続く)


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