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生保業界と電子カルテの未来

生命保険業界と医療の世界は切っても切れない関係だ。

内容や金額にもよるが、保険金支払いのために医師が証明した診断書が必要になることがあり、医療事務の一部を形成している。

医師の負担軽減のために診断書による証明を効率化しようという議論は昔からあったが、実現にはさまざまな障壁があるのが実情だ。

あまり知られていない事実だが、生命保険業界は診断書の電子化に一枚噛んでいる。生命保険協会認定の診断書システムを導入した病院に補助金を出す取組をしていたのだ。

業界を揺るがせた不払い問題への対策の一つである。

1000を超える医療機関に導入決定したところで補助金は打ち切りとなったが、日本には令和3年1月時点で約18万の病院と一般診療所がある。

そのため、認定された電子診断書ソフトは医療業界全体を覆い尽くしているとは言えず、標準化が十分になされているとはいえない。

一方、医療業界では電子カルテのインフラが悩みの種のようだ。こちらの本から事務目線で興味深いと思った箇所をご紹介したい。

・電子カルテのシステムは用途がレセプトの出力しか想定されておらず、苦労して入力してもデータ分析に活用できない

・ビッグデータ分析のためにはクリーンなデータ収集が必須であり、そのためには入力の制限がなされていなくてはならない

・叙述式の記録様式は、書かれた内容をいくらデータマイニングで分析しても解釈の幅がありすぎて分析の役に立たない

・1人の患者の経過を追いかけるために、医療機関や科を越えてカルテを紐づけるための配番がなされていない

・医師の勤務時間のおよそ2割は記録業務に費やされている

診断書は「保険金を支払うために必要な情報を過不足なく取得する」ことを目的とし、カルテは「患者の問題解決のために経緯も含めて臨床の記録を残す」ことが目的である。

どちらも医療情報を記載する媒体だが、それぞれの目的を鑑みると、カルテの方が記載対象の範囲は広い。

そのため、医師の声をどんどん反映して電子カルテサービスは進化を続けている。最近ではクラウド型の電子カルテサービスが価格も安く、カスタマイズ性もあってシェアが高いようだ。

各社が一生懸命診断書システムを作り込むより、シェアの高い電子カルテサービスに保険金支払で必要な項目を組み込んでもらったほうが実は標準化の近道なのかもしれない。

カルテを元に、関連する証明項目を抽出して診断書が完成するならば、生保業界にとっても医療業界にとってもWinWinである。

それどころか、もはや書面形式にこだわる必要すらなくて、CSVファイルで直接送付してもらえばいきなりシステムに取り込みもしやすい。

各社の診断書項目には、商品特性に紐づいた独自の証明事項がどうしても残る。ここは電子カルテのベンダーにお金を払って対応してもらわないといけない。

その他で苦労が予想されるとすれば、送られてきたデータを取りこむ時の項目の整合性である。

これらは結局のところ費用対効果の問題だが、診断書を紙出力して郵送して届いた内容をまたパソコンに打ち込んで・・・といった手間を考えれば十分に勝算があるのではないだろうか。

ある意味、証明項目を変更する主導権を他社に握られることになるかもしれないが、斜陽産業なのだから全てを自社で抱え込むのは現実的ではない。

自社に抱え込むべきコア業務は何なのかを、シビアに考えるべきタイミングに来ていると思う。

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