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生命保険と「お知らせ」にまつわるさまざまな課題

30年ほど前、私の親戚の者ががんを患って亡くなった時点では、患者本人にがんを告知しないケースが多数派だった。家族内でも、子供には知らせないとか、老人には隠しておくという話がいくらでもあった。

それが現在では、ほとんどの医療機関で、患者本人にがんを告知する流れになっている。

このようにわれわれががんの告知を恐れなくなった理由には、たとえば、手術や抗がん剤による寛解の可能性が高まったことや、緩和ケアや副作用コントロールの技術が飛躍的に確立されつつあることが大きいのだろう。

世の中には"お知らせ"が溢れている。

SNSで日々流れてくるつぶやき、企業のプロモーション、雑誌や書籍などの紙媒体、ポストに日々投げ込まれる広告。それぞれの思惑をもとに、膨大なお知らせが日々発信されている。

しかし、生命保険の"お知らせ"は一味違う。病気や事故というかなりセンシティブな要素を含んだ情報を取り扱うため、何でもかんでも知らせることは必ずしも正解にはならないのである。

家族に内緒で契約した生命保険が通知物からバレてしまった、本当は隠したかった病気のことが筒抜けになってしまった、などがあると大変なことになる。

営業目線からいっても、お知らせしてしまったことで顧客の感情を逆撫でし、苦情に発展するのではたまったものではないだろう。

法律の観点からすると、生命保険は契約者のものなので、契約者以外に内容を知らせることは御法度である。(お知らせ可能な人を事前に同意取り付けておく場合もあるので、会社によるが)

日本は家族内だと財布の紐も含めて境目が曖昧になることがあるが、財産の権利関係は家族であっても他人は他人だ。相続時に凍結された銀行預金は、然るべき手続きを経ないと家族であっても引き出せなくなってしまうが、生命保険契約の所有者も同じ考えである。

また、受け取る権利を持つ人間が亡くなっていた場合は、その遺族が受け取ることになるので、生命保険は家族を巻き込む性質も備えているともいえる。

高額なお金が受け取れる保険は、悪意を持った人間が受取の権利を主張する場合もあるので、相手の言葉を鵜呑みにするわけにもいかない。

というわけで、家庭の事情に配慮しつつ、誰にどんな手段でお知らせするかを慎重に判断してゆく必要がある。

お知らせを紙媒体でやる場合、宛先の住所をどうするかは大きな問題だ。商品によって権利のある人間は異なるし、住所が最新でない場合もありうる。

古い住所に送り、不在で送り返されてきたらどう対応するかなど、とにかく人による微妙な判断を要する場面が多くなりがちだ。

冒頭に挙げたがん告知の意識変化や、成人年齢を18歳にする、生きている間の保障をする保険商品(権利者は大抵が被保険者)の増加、といった世の中の変化は、通知を送っても良い人間の拡大を意味する。

これらは"通知を出してよい権利者問題"を捌きやすくする作用をもたらすのだ。

仮に紙媒体がこの世からなくなったとしても、「誰にどうやってお知らせするのが適切か」という問題は残り続けるだろう。

そんな時、家庭事情や宛先の属性について配慮を促す生命保険は、私に考えるヒントを与えてくれるように思うのだ。

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