松山無声映画上映会 -貴重なフィルムと生演奏が織りなす贅沢なひととき-
こんにちは!note更新担当のたぬ子です。
(公財)愛媛県文化振興財団では、県民の皆さんが、日ごろの成果を発表するためのイベント経費(一部)を助成する『文化活動活性化支援事業』を実施しています。
令和3年度は新型コロナウイルス感染拡大により、中止とする団体がある中、イベントを開催できた団体に取材を行い紹介していきます。
今回は、『第4回 生演奏付・松山無声映画上映会』を開催された、松山無声映画上映会 実行委員会 代表の田中淳さんに、お話を伺いました。
映画好きの映画好きによる映画好きのための会
―松山無声映画上映会 実行委員会は、どのような団体ですか。
このイベントのために、無声映画好きが立ち上げた会ですね。
正直、「こういうことをやりたい!」という有志が集まっているものなので、特別な思想や目標がある団体ではないんです。
シネマルナティックさんあっての上映会
―イベントの開催場所として、シネマルナティックを選ばれた理由はありますか。
まずルナティックさんは、映画館にしては珍しく舞台があるんです。
スクリーンの前に、ほぼフルバンドが乗るぐらいの広く大きな舞台があるので、楽器を置いても映画を観るのにそれほど邪魔にならない。
それと、支配人の方がほんとに良くしてくださってて。
うちの場合は、音楽が映画と同じぐらい重要になってくるので、2本だての上映で演奏楽器を変更するプログラムなら、サウンドチェックの時間が2時間ぐらい必要なんですけど、そういう部分も含めて場所を使わせていただけるというのが大きいですね。
無声映画をライブ感覚で楽しむ
―無声映画について教えていただいてもいいですか。
映画は19世紀末に発明されたんですけど、30年ぐらいは技術的に音楽やセリフがつけられませんでした。その時代にできた映画が無声映画です。
無声映画は、トーキーが作られ始めた1920年代の末あたりから消えてしまうわけなんですけど、映画の原型はこの時代にもうすでにできていたんです。
娯楽的にも、芸術的にも、作品のクオリティーやスタイルが1番良いところで突然消えてしまった。瞬く間にピークを迎え、絶頂期に消えてしまうなんて、とても儚いですよね。
―では、今観ている映画との違いは“音の有無”だけですか。
それだけかと聞かれると、ちょっと違いますね。
無声映画は、あの時代に地方で生演奏や生音楽に触れる1番身近な機会であり、生演奏に加えて内容を説明する弁士がいましたので、今でいうライブに行くっていう感覚だったと思うんです。
なので、映画を観に行くという意味合いから、昔と今では違うのかもしれませんね。
僕は、そういう世界を映画館という空間で再現したいんです。
即興で奏でる伴奏音楽
―無声映画と生演奏はセットなんですか。
フィルムを持って巡業している業者と、楽隊や弁士さんが一緒に地方を周っていたので、かなり初期の段階から伴奏音楽はついていたと思います。
―音楽は、演奏者の方がその場の雰囲気で演奏されるんですか。
上映会によって様々ですけど、うちの場合は打ち合わせ無しの即興でやっていますね。
当時「この映画には、この音楽を付けてほしい」といって、映画館に譜面が配られる映画もあったので、その譜面が残っていればそれを使って演奏する場合もあります。
―演奏する楽器は、どのように選ばれるんですか。
ギターやキーボードといった馴染みのある楽器に、ちょっと馴染みのない楽器を組み合わせたらどうなるだろうって、僕自身興味があるのでそういう意外な組み合わせを意識しています。
日本独自のスタイル、活動弁士
―日本の無声映画だと弁士さんがいるイメージなんですが、外国の無声映画にはいらっしゃらないんですか。
当時、英語やドイツ語といった制作国の言語字幕はついていましたが、翻訳字幕をつける技術は無かったので、字幕の内容を説明するために日本の興行に関しては、弁士さんがついてたと思います。
このスタイルは、日本独自の文化で世界的には珍しいんじゃないのかな。
―映画館以外で、無声映画を上映することはありますか。
博物館や美術館で上映される機会が多いですね。その場合は、まったくの無音で上映することも多いです。
僕も、何度か無音上映を鑑賞しましたけど、あれは独特で贅沢な世界だと思っています。最初に観たのは高校生ぐらいの頃ですけど、いまだにその時のことは覚えていますね。
消えてしまったフィルムに想いを馳せる
―どのジャンルが、1番多く作られてたんですか。
まず、無声映画ってほとんど残っていないんです。
日本なんかは壊滅的な状態で、全然ない。制作年代によっては、全体の1%も残ってないそうですよ。
世界的にも、制作された9割くらいが消えてしまったんじゃないかなあ。
―では、今残っているものは大変貴重なんですね。
今回上映したものは、わりと完全な形で残っているんですけど、作品によっては断片しかなく、数分・数秒しか残ってないこともありますね。
―それは、フィルムが途切れてしまってるということですか。
昔はテレビやビデオがなかったので、映画は完全に消耗品で扱いが雑だったんです。1度映画館で上映、もうそれでおしまい。
ハリウッドでもトーキーが発明されると、もう無声映画は商売にならないし、持っておくと保管に経費がかかったり、資産になって税金を取られるからって、大量に捨てちゃってたんですよ。
だから、無声映画のスタイルが完成して、すごくいい映画がいっぱい作られた時期の作品が、ほぼ壊滅的にないんです。
―今となっては、とてももったいないですね。
ほんとにもったいない。
僕が上映させてもらってる作品も、個人のコレクターさんが集めていたフィルムを元に復元されたものもあります。
とは言え、何千本単位ではあるんですけどね。
ただ制作された全体の数からすると、残っているフィルムがとても少ないのが現状です。
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