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【映画】怪獣と常識を始末し続ける河崎実監督「三大怪獣グルメ」

・はじめに


とある特撮怪獣映画の話題が凄い今日。一般人と特撮オタクがブチ切れて酷評し、耐えられるのはサメ映画(B級以下のボンクラ特撮映画)ファンだけとかの噂だが……サメ映画は好きだが……。

まだ件の映画は観ていないのだが、多分、製作の大半の人たちは理解していなかったのだろう。日本で怪獣を使ったシュールコメディを作っていい、ボンクラ特撮許可免許の唯一の所持者は河崎実監督であるというコトを。

※ もちろんそんな免許はない。

地球防衛少女イコちゃん・電エース・いかレスラー・ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一髪・地球防衛未亡人・大怪獣モノ……。

日本映画史の斜め上のどこかで、チカチカ点滅している河崎実監督が日本の、世界の食糧危機を憂いて、大怪獣の処理を想定して作った……可能性のある映画がこの「三大怪獣グルメ」である。


・あらすじ


「寿司屋の息子である田沼雄太は神社の祭事のために父の目利きで選ばれた最高のイカ・タコ・カニを自転車とおかもちで運んでいた。

しかし、謎の男が雄太にぶつかり、イカ・タコ・カニが行方不明に。その後に巨大怪獣のイカとタコ(政府によりイカラ・タッコラと命名)が海から出現して東京を襲う。

実は雄太は以前は超理化学研究所で食材生物を巨大化させる薬の研究をしていた。誰かがその「セタップZ」をイカ・タコに与えたに違いない。

日本政府はシーフード怪獣攻撃部隊、略してSMAT(Seafood Monster Attack Team)を結成。そこには雄太が憧れていた防衛省の星山奈々も参加しており、超理化学研究所時代の同僚のいけすかない男、彦馬が顧問となっていた。

そして全然関係ないが、雄太のストーカー気質のある友人、新実はゲームで超感覚をつかみ、かつ、とある装置を開発していたのだ。もちろん全然関係ないが。

彦馬が開発した「酢砲」によって酢をかけてイカラ・タッコラを弱体化させる作戦は、SMAT隊員たちの命がけの攻撃により成功した。だが、その時に海からカニの大怪獣カニーラが現れる。酢砲の効かないカニーラにより危機を乗り越えた三大怪獣はケンカしながら海に消えていく。

そんな中、カニーラに切られたイカラとタッコラの肉がとても美味しい食材として市中に出回った。大怪獣退治と共に、彦摩呂すら絶賛するその肉を手に入れる使命がSMATに課せられる。

そんな中でSMATに参加した雄太が企てた作戦は、国立競技場を器に三大怪獣の海鮮丼を作る『海鮮丼作戦』。彦馬がカニーラを倒すバズーカーを開発して万全の作戦がここに実施され……。」

そんな顛末を回顧するSMAT響司令をナビゲーターとした報道番組仕立てで見せる映画、それがこの「三大怪獣グルメ」なのだ。


・キャスト


田沼雄太: 植田圭輔
星山奈々: 吉田綾乃クリスティー
彦馬新次郎: 安里勇哉
新実善五郎: 横井翔二郎
響司令: 木之元亮


・感想


安心の河崎実監督作品であり、河崎実作品を見慣れている観客ならばすんなりと入り込める世界観。

逆に河崎実作品初見の観客は最初はとまどい、チケットの半券を口に含む可能性もあるが、後半にはクスりと笑えると思う、思いたい。

そこらの兄ちゃんが日本を救うために奮闘するのだが、今回は主人公が元超理化学研究所の天才という設定。でも、大半の時間をポロシャツ姿の寿司屋のボンボン息子の格好で過ごすため、エリート臭が一切感じられないのが素晴らしい。

話のサイドラインとして雄太・星山・彦馬の三角関係もある。このあたりの青春群像劇も河崎実作品には欠かせないものだろう。途中で気持ち良くぶん投げた感じもしつつ、ラストはさわやかに……。

特撮は特撮研究所が河崎実作品に合わせた映像を作り上げている。マンガ家、加藤礼次朗先生による怪獣デザインも往年の傑作「クレクレタコラ」とか「ウルトラマンレオのノーバ」を洗練させたような素晴らしいフォルムである。

怪獣の肉を手に入れたときの市中の人々の反応。このために村西とおる監督、泉麻人氏、吉田照美氏、彦摩呂氏、そして今は別の話題で騒動の中心にいるYoutuberコレコレ氏など贅沢な面々を起用している。これも河崎実作品の得意とする技だが、報道番組仕立てとして、謎の歪んだリアリティを形成している。今どきの市中への噂(怪獣は美味かった)の伝搬経路を上手く伝えているのだ。

そして後半に出て来る例のアレ。出現から「お前、そうだのか!」と爆笑するしかないソレは、後半に勢いをもたらす素晴らしい存在。そして人々は思い出すのだ『グルメ』を下から支え続けているあの地域の人々のコトを。

まさにナイスな特撮作品。監修に久住昌之氏を迎えて怪獣とグルメのマッチングに磨きをかけた……日本の特撮ならではの怪作!

役者たちもこの映画のコンセプトをしっかり理解した上での演技であり(多分)、ラストの余韻の中で流れるキュウソネコカミの「おいしい怪獣」も素晴らしい曲である。

コメディを隠した広告戦略の映画と「河崎実」の文字だけでバカ映画とわかる正直な映画。どちらがいいとは簡単には言えないが、河崎実監督があれだけの作品群を作り上げているのは日本映画にとって大切な、なにかの希望なのかも知れない。

※ 全然そうじゃないかもしれない。

……でも今回は、あのバカっと発進なシーンだけでメシどんぶり一杯食えた気がするよ。

実はシュール特撮マンガの巨匠、ほりのぶゆき先生のコミック版もある。これから読む(笑)


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