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知られざる1020話!100巻超えの大長編名作となる「なみだ坂診療所」


・はじめに


100巻を超えているマンガで名前も聞いたことがないマンガはあるでしょうか?ウィキペディアに「100巻以上刊行している漫画作品」という項目がありますので、ちょっと覗いてみて下さい。

どれも有名なマンガばかりですね。まず漫画好きなら名前は聞いたコトがある作品ばかりだと思います。そう、100巻越えを果たしたマンガはすべて名作であり傑作なのです。当然ですね、100巻もの長い間、商業連載を続けられる駄作などあるワケがありません


さて、タイトルの「なみだ坂診療所(宇治谷順・向後次雄)」はこれまで何度もとりあげてきた「解体屋ゲン」と同じ芳文社「週刊漫画TIMES」に「茗荷谷 なみだ坂診療所」として掲載されてきた作品です。「解体屋ゲン」とともに何度も「週刊漫画TIMES」の表紙を飾った作品です。

だがしかし、大半の人は「週刊漫画TIMES」の存在を知りません。知っていても「ラーメン屋に置いてある本」くらいの印象でしょうか。

でも、最近は「信長のシェフ」、「まどろみバーメイド」、「ごほうびごはん」、直近では「妻、小学生になる」などが実写ドラマとなっている、良作の宝庫な、3500号を超える日本初の週刊漫画誌なのです。

「茗荷谷 なみだ坂診療所」は「解体屋ゲン」と同じく、編集部の判断で「週刊漫画TIMES」の出版元である芳文社からは紙の単行本は僅かしか発売されていません。これも不遇な傑作、さらにウィキペディアにも記事がないのです。


そんな「茗荷谷 なみだ坂診療所」は2021年3月に1020話で終了を迎え、2021年4月29日にベンジャネット株式会社から電子書籍「完全版 なみだ坂診療所」として発売されています。4月29日は1~10巻を同時発売、その後は毎週1巻毎の発売…なんと毎週発売されて現在48巻(2022年1月24日)、1巻10話のペースですから、最終的には102巻となる見込みとなります。つまり、後に100巻超えの名作・傑作となるのです。

いいえ、ずっと傑作を続けていた結果の名作と成ります!


・あらすじ


「東京メトロ丸ノ内線の茗荷谷駅近くのなみだ坂診療所。地域に愛された名医である嵐山鉄寛の後を継いだ院長、織田鈴香は看護師の南条梢とともに、地域医療の核として人々を守るのである。

だが、くだらないケガから理不尽な別れまで、皆に好かれる善人から犯罪者まで、町医者はすべてを扱わなければならない。もちろん、大病や大怪我の場合は大病院に送るが、その病院の医師が信頼できる医師とは限らない。」


・登場人物


織田鈴香:なみだ坂診療所の院長。元ER出身で医者としての知識・技能は素晴らしい。反面、冗談を真に受けたり医療に関係ない話にはつき合わないために氷の女と呼ばれ、事実、患者の精神的な補助はニガ手である。彼女の特技は合気道とピアノ、重度の方向音痴で酒癖が悪い。

南条梢:大病院の看護師だったが、とある事件により看護師を辞めるところを嵐山鉄寛に拾われ、なみだ坂診療所の看護師となる。明るい性格で人気者だが、数々の不幸に晒される。看護師の腕は並み以上だが、情が優先してしまい失敗するコトもある。だが、鈴香が弱い患者の精神面のサポートとしては良い適正。基本的にフツーの人。文字どおり鈴香のナビゲーター。

嵐山鉄寛:なみだ坂診療所を開院した医師。誰もが認める名医だが、地域医療に殉じると決意した。心の傷を負った鈴香と梢を救っている。医療以外は基本的にだらしないエロじじい。

中江院長:地域の大型医療施設である中江記念病院の院長。鉄寛の学生時代の仲間だが、色々と鉄寛に弱みを握られている。後に鈴香の依頼で中江記念病院内に地域医療連携としてオープンベッド(開放型病床)を作りなみだ坂診療所の患者を受け入れる。悪い医師ではなく病院の医師から何度も鈴香を守るが、経営安定を(鈴香から)守りたい思いも。

須藤仁美:元売れっ子ソープ嬢だが、介護ヘルパーに転職。なみだ坂診療所に色々な老人を運んでくる。元職のためか会話が得意であり、介護についても後に自分での経営も見据えてしっかりと取り組んでいる。人を見る力は鈴香や梢よりもある。梢と遊んでいる時に会話がシモに向かうのが難?

室町夕紀:鈴香の大学時代の同級生。母校の北陽大学の小児科医である。親友ではあるが、鈴香の美貌と能力を愛しつつ僻んで生きていた時期があった。小児科医としては鈴香が信頼する腕を持つ優秀な医師である。同期に鈴香がいたのが可哀そう。

服部刑事:強姦事件の犯人を追ってなみだ坂診療所を訪れた刑事。その後も色々な事件の解決のため、鈴香と喧嘩しつつも協力していく。

真木慎二:啓応大のボンボン研修医。合コンで鈴香の技量を見て、鈴香を慕っている。基本的には真面目で情もあるが……。


……なにせ1020話の長編なのでメインの登場人物が多すぎるため、あとは読んで下さい。


・つらい、つらすぎるシーン


基本は鈴香と梢の2人にかわるがわる襲ってくる病魔と事故の話であるが、なにせ2人厳しい話が続く。特に梢。鈴香もだけど、まあこの人は盛大にウサ晴らししているから、とにかく普段は明るい梢さんがつらい。

なにせもう、つらい話が多々襲ってくる。途中に2コンボ決められた時なんか、ここまで登場人物を虐めるマンガもないものだと思ったぐらいに。勿論それは、時代に合わせたリアリティの高いきめ細かい描写の社会派医療マンガだからこそなのであるが、それにしてもツライ。

現実はともかく、マンガには作家という神がいる。このマンガの場合は特に原作者(と編集者)であるが、これほどの悪魔な神はいないのではないかというくらいにつらいシーンが襲ってくる。医療マンガは数多くあるけど、いや、マンガ全体としてもここまで主役級につらいものは少ないのではないか。


・医療の多彩さと時事マンガ、そして



舞台を町医者の診療所としたコトで、鈴香と梢が戦う病気と怪我の種類も、相手をする患者も多種多彩である。満足な医療機器の無い中で、患者の言葉と動きで大病院で何を診てもらうかを決めるのが鈴香の仕事であるが、抜けない指輪の処理から末期患者を発見し診とるまで、本当に多種多様なシーンが出て来る。

また、長期連載の時事マンガであるため、流行り病も登場する。SARSの登場時に患者を救急車が処理するシーンなどは、現在のコロナ患者への対応に近い。連載の後半では実際にコロナに押し潰されていく医療現場も描かれるが、歴史の繰り返しと病気の変化を思い知らされる状態だ。

そして、このマンガの特色として心を病む人々への対応が挙げられる。様々な形で心を病み、体調まで壊していくさまが描かれる。そして、それは患者だけの話ではない。このマンガに出て来る医師・看護師の心を病む多さといったら、他のマンガとは比較にならない。男だろうが女だろうが、皆潰れていく。潰れなければ歪む。そして命まで奪われる。

現実の医療現場と完全にリンクしているとは思わない。だが、常に人の死の横にいて心が潰れない人は強い人なのだろうか?


・おわりに


最初に出したウィキペディアの「100巻以上刊行している漫画作品」の中に医療マンガは無い。ネタと監修の維持とかなかなか難しいのだろう。最近はTVドラマは刑事か医者かの時代だが、TVドラマも長期が無い時代。

※ 他の長編医療マンガではとしてはゴッドハンド輝の65巻。シリーズでは「スーパードクターK」「K2」が現在合わせて85巻が一番多いのではなかろうか。

そんな中で、このまま発行されれば電子書籍ではあるが、あと52週で100巻となるのが決定している「完全版 なみだ坂診療所」。続いただけでも価値があるが、単巻でも素晴らしい読み応えがある本当にしっかりしたマンガなのだ。どの医療マンガにも引けを取らない作品なので、ゆっくりでも読んでもらいたい傑作なのである。

なお、Kindle Unlimitedなどの読み放題サービスでも発売から少し遅れて読むことが出来るので、ご利用されている方は是非!(現在発売48巻のところ読み放題45巻)






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