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読書記録:優しい嘘と、かりそめの君 (電撃文庫) 著浅白 深也

【居場所を互いに無くした僕らだからこそ、守れる物がある】


【あらすじ】
嫌われ者の俺と他人からは見えない先輩、ふたりだけの「戦い」を始めよう。

「ひとりぼっちな君と私、お互い救われることってあるかな?」

高校1年の藤城遠也は入学直後に、揉めごとを起こし停学処分を受けてしまう。停学明けの学校では、極悪不良という噂がたっており、クラスメイトも誰も目すら合わせてくれない。

ひとりぼっちの高校生活をすごす中、旧校舎で美人の先輩・夕凪茜と出会う。

茜と交流を深めるうちに、茜に深刻な悩みを抱えていることを知る。ある日、虚像の自分が現れた日を境に、本当の茜は誰からも認識されなくなったというのだ。唯一自分を信じてくれた先輩を助けたい! 遠也は茜を救うべく、ひとり奔走していくが――?

共に居場所を失った二人が、「あるべき場所」を取り戻す青春ストーリー。

登場人物紹介
登場人物紹介
登場人物紹介

互いの居場所を守る物語。


人は他人に認識される事で、初めて自我を確立する。
では、他人から認識されなければ、人は自分を保てるのか?
高校一年目にして、クラスで問題を起こして、孤立無援の身となった遠也は、旧校舎で魅惑的な先輩である茜と交流を深める中で、彼女の辛い絶望を垣間見る。
彼女の孤独を払い除けようと、体裁構わず不器用に足掻き走る遠也を襲う周囲からの無理解。
それでもめげずに手を伸ばし続けたが故の守りたかった物への帰結。 

自分を知ってる他人の本心、引いて言うなら本当の姿と言う物を知っているだろうか。
本当にその人の本質、実像を見れているであろうか。
勝手なイメージから作られた虚像を押し付けたりはしていないだろうか。
人と関わるうえで重要なのは、きちんとその人の実像を見る事。
その人の本質を見抜く事で良好な人間関係が築けるのである。


しかし、この物語ではいきなり、勝手なイメージから作られた虚像を押し付けられている。
それは遠也自身が原因、という訳ではない。
入学して早々、上級生に絡まれる同級生を助けたら、その上級生が外面は優等生であった為に言い分を信じてもらえず。
生来の目つきの悪さも相まって、いきなりの停学処分から極悪な不良として周囲から孤立してしまったのだ。
見た目で善悪を判断する周囲の無理解を心底憎みながら。
 
そんな彼に、ひょんな切っ掛けから訪れた出会い。それは旧校舎にいた先輩、茜。
聞き上手であり、周りと違って、きちんと本当の自分を見てくれる彼女に受け入れてもらい、彼の心は落ち着く場所を得る。

彼女の助言を元にクラスの一匹狼な生徒、奏との交流が出来る中。
学校の裏七不思議を実践した茜。
遠也には茜が二人いる、という奇妙な光景を目撃する。
無論双子の姉妹、という訳でもない。
けれどどう見てもそっくりを越えて、本人に見える。
茜本人から明かされたのは、今の自分は認識されぬ存在であり。
周囲からの期待、イメージをそっくり叶えてしまう「虚像」が今、自分の代わりに行動していると言う事実であった。

それを聞いて、冷静でいられる遠也でもなく。
生来の直情的な心が導くままに、一人でも何とかしようと行動を開始する。
だが、その行動は裏目ばかりの空回りの方向へ行きついてしまい、周囲からの信頼を失い、疑惑の目を招いていく。
それもまた仕方のない事かもしれない。
彼にはブレーン役がいる訳でもなく、彼の本来の姿は誤解されたままであり。
孤立無援の状況は変わらないからこそ、その行動は困難を極めてしまう。

その最中、発表されるのは虚像の茜による相談部の創設。
それが叶ってしまえば、いよいよ本物の茜が認識される事なく抹消される。
ならばどうすればいいのか?


今までは複雑に考えすぎていた。その答えは至って単純。
お行儀よく、なんて上品な言葉には中指を突き立ててしまえばいい。
悪役ならば悪役らしく、批難上等の覚悟で、強引にでも解決してしまえばいい。
創設のお知らせの壇上に強引に乗り込んで、茜を心配する親友である玲奈の本心を引き出して。 
一石を投じて起こした波紋は、停滞した状況をひっくり返して見せる。

誰にも打ち明けられない悩みを抱えた彼女には自身と瓜二つの虚像が現れて、彼女に成り代わって他者の悩みを解決し、彼女を慕う人達からは本物の彼女の姿を認識出来なくなるという深刻な悩みが存在していた。

仮初めのドッペルゲンガーの正体と目的とは一体何なのか?
噂と欠点に覆われた偶像を巡って、己の青春の意志は投げかけられる。
そんな意志を自分なりに示そうと、遠也は必死に彼女の為に尽くす物の、問題は思ったより根深くて。
一朝一夕に行かぬ厄介さが秘められていて、何度も不器用に壁にぶつかる。
お互いが学校で居場所がないからこそ、互いの存在が何よりも支えで、共感と哀れみで繋がった心。

孤立した彼女を救う為なら、自分が悪役になる事も厭わない。
その想いが遠也を突き動かす。
この辛く苦しい状況にも何かしら意味がある。
この苦難があったからこそ、茜と出会う事が出来た。
お互いの抱えた痛みは何よりも理解出来る。
二人は境遇は違えど似た者同士であったのだろう。
正しい事をしたのに誤解され孤立する遠也。
周りの期待に答えようとするあまり孤独になった茜。

二人に共通しているのは、困っている人の力になってあげたいという真心。

しかし、取り巻く環境は残酷で変えようと足掻けば足掻くほどに、その覚悟を潰すかのように、絶望が重くのしかかる。

それでも、嫌われ者の遠也と他人に認知されない茜達だからこそ、腐った青春に反撃する事が出来る。
普通の人が尻込みしてしまう事でも、失う物が何一つない彼らは恐れる事なく、踏み込む事が出来る。そして、居場所を失った彼らがあるべき青春の居場所を再び取り戻していく。

昨今の現代人も、見た事のない無責任な噂話に振り回されすぎている。
その噂はあなたの人生にとって必要な事なのか?
ありもしない噂話に右往左往するのは馬鹿げている。
周囲はあーだこーだ好き勝手に言ってくるが、あなたがその眼で見た物だけが真実なのである。

それがようやく理解出来た遠也は、孤軍奮闘を愚直に続ける中で、その執念が虚像と矛盾点を看破する事に成功する。
周囲に惑わされず、優しい嘘と仮初めの茜を信じ抜く事で、ようやく安息出来る場所を手にする。

その愚直さが守り抜いた絆をこれからも信じてゆくのだろう。



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