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読書感想:僕らは『読み』を間違える (角川スニーカー文庫)  著 水鏡月 聖

【捻くれて物語を読むからこそ、青春と恋路は複雑に絡まり出す】


【あらすじ】
学生という生き物は、日々「わからないこと」の答えを探している。
明日のテストの解答、クラス内の評判、好きなあの子が好きな人。
かく言う僕・竹久優真も、とある問いに直面していた。
消しゴムに書かれていた『あなたのことが好きです』について。
それは憧れの文学少女・若宮雅との両想いを確信した証拠であり、しかしその恋は玉砕に終わった。
つまり他の誰かが?
高校に入学した春、その“勘違い”は動き出す。
「ちょうどいいところにいた。ちょっと困っていたとこなんだよ」
太陽少女・宗像瀬奈が拾い集めてくる学園の小さな謎たち――。
それらは、いくつもの恋路が絡みあう事件《ミステリー》だったんだ。

Amazon引用

学園にまつわる謎を文豪達の話に絡めて解き明かす物語。


日本には数々の文豪達が生み出した傑作の物語がある。
その物語に対する見解は千差万別。
読み進めるごとに意見が幾重にも分岐し、謎は深まり出す。
しかし、考察が違うからこそ新たな視点が生まれて更に物語に没頭出来るのも事実。
消しゴムの恋文の謎に直面した優真は、憧れの文学少女、雅に告白する物の敢え無く玉砕する。
捻くれて失意の中、瀬奈が持ってくる学園の複雑怪奇の謎を解き明かす事で。

古今東西の名作をモチーフに自分の見解で考察していく。
たとえば、『走れメロス』においてメロスを足止めした山賊は誰に雇われた者なのか?だったり、太宰治の死は本当に自殺だったのか?だったり『藪の中』の真犯人は誰?など。
文学における感想を語り合いながら、秘められた謎を解明する中で、一つの恋が花開く。

学生というのは、日々なんにでも答えを求めるお年頃。
様々なものが気になるし、色々な事が引っ掛かる。器用貧乏を自称する濫読家の少年、優真もまた気になる事に心を揺らしていた。
その心とは何か、それは消しゴムに書かれていた告白の文章。
それは、一体誰からの告白であったのか。
器用貧乏なりに答えを見出し、初恋の相手であった文学少女、雅に告白するも見事に玉砕してしまう。失意のあまり高校受験も失敗してしまった彼は、雅とは違う高校で新たな生活のスタートを切る。

新たな日々の始まり、それはミステリーが舞い込む奇妙な物となる。
ひょんな事から仲良くなった、まるで太陽のような少女、瀬名。
彼女が持ち込んでくる学園の小さな謎達。
それに器用貧乏なりに視点を当て、小さな推理を重ねていく中で。
ふとした切っ掛けから、事件同士は繋がりを見せ、少年達の想いが巡り出す。
古今東西の文豪達の想いに思考を馳せながら。
その裏で、現実に立ち塞がる、咲かない桜と謎の鍵が導く伝えられなかった誰かの想い。
そこに絡むのは部活の先輩である栞。
お互いに一目置く親友、大我。
氷の美少女と呼ばれる更紗。

一つの時間軸の裏、そこで各々の視点が廻り。誰もが誰かに言えなかった想いが交錯し、そこに付随していくのは青春を拗らせた者達の想い。

幾人もの思惑が入り乱れた先に生じた少年少女の関係性を本人達が意図しない形で、期せずして無意識に解消されていく。

捻くれた人間はその意図を悪い方に悪い方に解釈する傾向のある。
青春真っ只中の高校生活は、全員が大なり小なり加害者で、被害者で、目撃者で、野次馬なのだろう。

現実にもよく分からない難問が多々ある。
それを解決してくれる名探偵はいないのだから、自分なりの解釈で、読み取らなければいけない。
それが、見当違いで明後日の方向で間違った物だとしても、自分の力で導いた答えならば、納得も出来る。

それぞれの視点での「もしかしたら」と「どうしてだろう」が、交錯する中で発生する勘違いとすれ違い。
相手に対する感情が絶妙にすれ違う事で、人間関係における読み違いが発生して、その結果として緊張感に苛まれるが、それこそが学生ならではの青春の王道とも言えよう。

人である以上、見える物が同じでも、感じ方はまるで違う。
たとえば、夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したように日本語を英訳してて表現に妙な納得感があったり。
意表を突いた表現や痒い所に手が届いたような安心感が、それぞれの感じ方を知る事で生まれていく。

読みを間違えてしまうなら、もっと腹を割ってきちんと話した方が良い。
たとえ、互いを傷付けあう形になったとしても。
憶測で相手の心を測っても、自分のバイアスがある以上、相手の本当の気持ちとは言い難いから。

それぞれの見解をぶつけ合えば、秘められた恋が語られ、他者の視点からの物事の見え方を知る事が出来る。
ありふれた日常もまた、誰の視点で見るかによって変わっていく。
全ての事象はどの視点で見るのか、どう受け取るか、価値観やタイミングで。
様々な理由で少しずつ変化する物を、確かな正解を読み取れる事など、そもそもが不可能なのだ。
広大な砂漠の地で、一粒のダイヤを見つけ出すような途方もない確率なのだろう。
その中で唯一、間違えなく言えるのは、自分がそれを見てどうしていきたいかを決める事だ。
当然、隣の芝生は青く見えるし、立ち位置が変わると見方が変わるのも事実だ。

他者と関わる事で生まれる自己評価と他者評価のズレとディスコミュニケーション。
しかし、青春とは未熟な遠回りする時間とも言えるので、沢山間違えても良い。
その間違いから、何かを学べればそれで良い。 

行き場を見失った想いを抱え、それでも何かに手を伸ばす。
その中で見つけていく、卑屈になっていた自分に示された新しい生き方。
それがこわばる背を押し、ちょっとずつ変えていく。
その中で、少しずつ芽生えていく確かな想い。
それはいつか、恋と名付けられるかもしれぬ、今はまだ名前もない想いの芽。

考えた以上に狭い世界で、想像以上に繋がっていて、勘違いを拗らせ、間違えた続けた事で掴み取った答え。

そうして、間違え続ける事によって、どの様に彼らの関係性を変容していくのか?

その等身大の答えを、迷宮のような恋路の指針にしていくのだ。





















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