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読書感想:傲慢と善良 (朝日文庫) 著 辻村 深月

【大人になって普通の恋愛する事が、ここまで苦しくなるなんて】


【あらすじ】
婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。

Amazon引用

婚約者の真実が姿を消した事を心配した架が、居所を探す内に彼女の過去と対峙する物語。


結婚するのも独りでいる事も本来は個人の自由な筈なのに、環境がそれを良しとはしない。
誰かと一緒に生きて、家庭を築きたいと心の底では思っている。
婚活をして、相手を選ぶ内に心が少しずつ摩耗する。
子を支配したい親の傲慢さと、己は善良だと思い込む業。
将来のビジョンが無いからこそ、それに捉われる。謙虚な一方で自己愛が強い真実の過去を知った架。

自分の目に見える範囲にある情報全てで、その情報同士を繫ぎ合わせる事には一生懸命だけど、そこ以外の別の価値観や世界がある事に気付きもしないし、興味もない。

自分の意思がない。婚活するのも、結婚しない道を選ぶことも自分ではできない。
家族に守られてきた環境の中でしか過ごした事がないから他人が怖い。
傷つきたくない。
そこに自分の意思や希望はないのに、好みやプライドと、小さな世界の自己愛があるから、自由になれない。
いつまでも苦しいという現実の容赦ない洗礼を受けて矮小な心はどこまでも歪んでいく。

ほとんどの人が良く似通った境遇の仲間内で集まる方が安心出来る。
その境界線を越えて、異種の人々と出逢うと始めは分かりあえないし、怖いのも当然だ。
でもそれで、逃げていたら、人生はつまらない。
知らなかった人達の価値観に触れて、心を通わせる事でもっと視野が広がって成長出来るのだろう。

「自分」を生きているようで、結局は周りに影響された「自分」でいるのは、酷く虚しくて悔しい。

謙虚と自己愛の強さは両立するのだ。
子供の頃から「良い子」と言われ続けていると、大人にとって都合の良い子にしかならず、大人になった時に自分じゃ何一つ決められない人間になってしまう弊害をまざまざと見せつけられる。

誰かにとって都合のよい人間を演じるのではなく、自分自身が本当に納得出来る答えなのか、よく精査するべきなのだろう。

人に誇れる学歴や職業、恋愛遍歴、固い友情関係がかえってその人の自由を奪う事に繋がるかもしれない。
それは、他者に対しての傲慢と、自分に対してのプライドが作用している。
自分はこんな経験をしてきて、これだけ苦労してきたのだから、それに釣り合う人間でないと、バランスが取れないと、無意識に他者を減点方式で見てしまう愚かさと狭量さがあった。

他人と比較して己の価値を決めているような、そして自分と比較して他人の価値も同時に決めているような、主軸がいつも他人に向いている、自分の意志という物が全くもってない。

それは、ひとえに素晴らしい体験をいちいち、SNSに書き込むような、自己顕示欲が現れていた。
素晴らしい感動や経験をしたなら、自分の想い出として大切にしまっておけばいい。
それを、いちいち他人にひけらかして、共有して、反応を貰わないと気が済まないような、現代社会の隠されてきた闇と本質が暴かれる。

いちいち他人の言動を気にしすぎなのである。
自分の価値は自分で決めていい筈だ。
他人には、あなたの本当の素晴らしさは分かる筈もない。

狭い世界で否定されずに「謙虚でいい子」と判定される善良な生き方をしたが故に、自己愛が高くなった井の中の蛙が、己につける値段が高くなり傲慢となる。
そこに、自分の意志があろうとなかろうと。
自分が「選んだ」相手が、 自分を「選んで」くれる事がどれだけありがたくて奇跡的な事なのか、もっと噛み締めた方が良い。
他人を取捨選択出来るほど、自分は完璧な人間なのか?
付き合う人間は好きなだけ選べばいいが、全て自分の心のフィーリングと噛み合うような相手を探していては、永遠に孤独なままだ。
どこかで、妥協する事も覚えなくては駄目だ。

「自己評価は低いくせに、自己愛が半端ない」
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
「上手くいくのは、自分が欲しい物がちゃんとわかっている人です」

これらの文中の言葉に、幸せになれるヒントが隠れている。
恋愛が難しいのではなく、自分の考え方が恋愛を複雑怪奇な物にしているのだと気付くべきだ。

見栄、他人から受ける屈辱、自分自身に感じる恥辱。
小さい世界の小さい人間関係に埋もれてしまうと自分の感情が迷子になりがちで。
人はみんな「自分という軸」を本来持っている筈なのに、大人になるにつれ、その大切な軸が流されてしまう。 

婚活アプリで知り合った真実と架。
真実は進学も就職も結婚も母親の奴隷。
自分では何も決められない人生を歩んで来た。
架は自己評価が以上に高く鼻持ちならない人間。
そんな危うい関係の二人が、結婚前を期に、二人にとって正解を模索していく。
そこで、相手の過去の明暗を知り、苦難を傷付きながら乗り越える中で出した答え。

この人と一緒に生きられるなら、別に不幸になったって構わない。
むしろ、自分と生きる事でこの人が幸せになれるように、自分が努力していこう。

それに気付けた真実と架は、二人で生きる事を正解にして行くのだ。










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