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映画感想文【砂の器】

年の始めに腰を据えて、重厚なものが観たいと思った。
2023年一発目のnoteはこれである。
1974年(約50年前!)公開、松本清張による同名小説の映画化作品。

出演者に丹波哲郎、加藤剛。脚本は橋本忍、山田洋次。
あまり芸能人の名前を覚えない自分でも知っている、日本映画界の重鎮。端役も渥美清に笠智衆、緒形拳という豪華さ。
既に鬼籍に入っている人も、その若い姿にびっくりした。加藤剛ってすっごいイケメンじゃん…!!

<あらすじ>
東京・蒲田駅で死体が発見される。一見して轢死だが、それに見せかけた殺人事件であることが判明。被害者は身元がわかるものを何も所持しておらず、捜査は難航する。
しかし乏しいヒントを手に、刑事たちは東へ西へ翻弄されながらも執念でもって着実に事件の謎を解き明かしていく。そこには殺人という罪とともに、戦後の日本社会が目をそらし続けていた暗いもの、貧しさと病と差別の闇が横たわっていた。
ハンセン病に侵された父とその息子。
ハンセン病は当時不治の病であり、また未知であるゆえに伝染病とされ患者は皆厳しい差別を受けていた。
苦難から逃げるように父と息子はお遍路として旅歩くが、旅の末にとうとう父は倒れ、幼い息子は別離を強いられる。
どんなに抗っても抗いきれない宿命を経て、息子は過去を捨てた。苦労に苦労を重ねた末、やがて彼は時代を代表する作曲家へと成長していた。

原作を読んでいない上で語るが、捜査の手が徐々に伸びていくさまはこれが松本清張というものなのか!と痺れた。
当初、カギは東か?と思いきや空振り、思わぬ発見により西かもしれぬと飛んだ先でも目ぼしい成果は上げられず…。亀の歩みほどにゆっくり、ジワジワと事件の核心に近づいていくのがとても面白かった。文章になるとどんな味わいになるのか、是非原作も読みたい。
ただ犯人の愛人(?)の行動、存在は少し説得力に欠けるというか、映画の中では蛇足な印象が強い。この点ももしかすると小説を読めば解決するかも。

そしてミステリー作品という以上に、当時の、昭和10〜20年代の日本の暗い面を取り扱った社会派ドラマだった。
2時間22分という長丁場のうちラスト30分、謎解きとともに犯人たる彼、つまりハンセン病に侵された父と生き別れとなった息子の苦難が滔々と映像で語られる。驚くべきことにその間はずっと、オーケストラの壮大な演奏が流れている。そしてそれは、彼が作曲家人生を賭けて生み出した作品である。
演奏は彼の人生そのものであるから、スクリーンに映し出される過去にはもはや言葉など無用だ。
父と子を見舞った病と貧しさ、苦しさ、しかしそれ故に生まれた強い絆。
親子がお遍路として旅する海、山、田畑のの美しさと厳しさ。
そして苦悩の末に子を思って別れを選んだ父と、承知しながらも父に追いすがる息子のシーンは涙なしには観られない。
とうとうコンサートが終わって万雷の拍手の中、彼が作中唯一見せた満面の笑みは彼の達成感と作曲家としての大成功を象徴していながら、同時に転落と破滅を連想させる。物語の中の物語のような彼の生き様に、観客は言葉を失うだろう。

とある宣伝文句に『清張の原作を超えた傑作』とあった。未読でありながら、確かにこれは別次元の感動を呼び起こさせるだろうと思わせる完成度の高さ。特に、ただ一途に子を思う父、加藤嘉の演技は脱帽であった。


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