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「観光振興に必要なマーケティング・デジタル人材の要件を考える」


観光振興の旗振り役として、日本に300以上のDMO/観光地域づくり法人がありますが、そのDMOにおいて、今、マーケティング×デジタル人材が特に必要とされています。

今年になり、観光庁では「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」が行われています。実施の背景として、コロナ禍後、訪日インバウンド旅行者の偏在傾向が確認され、インバウンドの地方誘客観点から課題が見られることに起因しています。本来の目的である地方誘客が進まず、むしろ、東京、京都、大阪、福岡などに局所的に集中する状態になっているということです。
その会議体の中では、地域のDMOが抱える課題について取り上げられており、以下のような結果となっています。

地域のDMOが抱える課題

上記の結果から、仮定すると、課題上位のこれらのボトルネックは「財源」であると考えられます。財源が確保されれば、人材確保や育成がしやすく、人材が整えば、マーケティングやDXが「一定」程度推進されると想像されるからです。

このような中、地方行政では、この課題に応えるように、にわかに宿泊税の導入に向けた取り組みが進んできています。(この詳細の進捗については、以下の当財団の他のコラムや観光財源研究会を参照ください。)

https://www.jtb.or.jp/project/non-profit/network/zaigen/

この背景には、すでに当財団の財源研究でも触れられていますが、地域側で自由に使える財源が乏しいことがあります。近い将来、法定外目的税としての宿泊税が一般化すれば、観光地域側、特にDMOでボトルネックとなっている財源問題については、解決されることでしょう。


宿泊税導入により、財源が確保された近未来

では、次に問題になっている人材面、マーケティング・DX人材は、財源問題を克服すれば解決されるのでしょうか。

結論から言いますと、おそらく簡単にはいかないでしょう。
直近まで、コロナ禍を挟んで4年半、筆者は広域連携DMOに在籍し、数多くのDMOと関係させていただきましたが、仮に、財源があっても、必要な人材要件をしっかり定め、中心となる人材を登用し、その人材を中心にチームとして育成を進めなければ、決して人材の問題は解決しないと推察します。

例えば、最近、バズワード化している「観光DX」を一括りにしても、戦略立案、全体デザイン設計、ビジネス課題設定(抽出)、データ収集スキーム策定と実行、データ分析(解析)、特定課題発見、施策設定と実行、などその領域は極めて広いものです。

ですので、マーケティング・DXに関して、一人長けた人材を採用すれば、「すべてうまくいく」は、まったくの幻想で、そもそも、一人で完結できてしまう人材は、極めて希少性が高く、れっきとした高度専門人材になります。
昨今、大手金融機関が20代でも年収5千万円を可能にする賃金体系の制度を整え、話題となりましたが、まさに、このような人材マーケットでの競争になります。

果たして、観光業界は、上記のような人材マーケットで戦える年収水準でしょうか。

本来求められるDMOで必要なマーケティング・DX人材の能力・スキル
少なくとも、このような高度専門人材の登用が現実的でないことを前提に、今回は、この人材が持ち合わせているだろう必要な能力・スキルを過去の実体験から、3つに分解して考えたいと思います。

    観光ビジネス構築/観光マーケティング力
観光消費額等のKGIを上げるために必要な方向性やビジョンを示した上で、戦略を立てる。その中で課題を特定し、その達成のために必要なマーケティング施策の立案と必要なタスクに対して、役割を分けて実行する力(絵を描ける力)

②    デジタルリテラシー/データ分析力
デジタルのトレンドや統計に精通し、データの扱いに関して、収集スキームおよびローデータからデータを操り、ビジネスに必要な示唆を抽出する力(データ起点の示唆を出せる人)

③    データ収集システム構築/エンジニアリング力
示された収集スキームに対して、プログラミングを施し、実際に収集する環境を整えるとともに、収集されたデータをビジュアライズ化する能力

上記の能力・スキルからポイントになるのは、何を組織で内製化しつつ、
外注するかという点です。
結論からいえば、①は内製がマスト、②内製がベター、③は外注でOKです。

①は組織の事業戦略に大きく関与するレベルのため、この素養のある人材がDMOにいないと自立した観光地経営は難しくなります。
もちろん、DMOは地域内マネジメント(合意形成力)が必須であるため、
前提として合意形成力を持つ人材は不可欠ですが、その上で、①はそれをするために必要な説得材料、説明材料を提示する人材となります。

「地域にこんな課題があり、それを解決する糸口は、このデータエビデンスからすると、この施策がもっとも有効だ。」
というようなエビデンスベースの説得材料が用意できてはじめて、地域のステークホルダーからの合意は得られやすくなるものです。

実際、筆者が在籍したDMOでも、プロパーとしてマネジメントに長けた事務局長が組織を支え、出向者や観光庁の外部の専門人材登用(以下、専門人材)で、①と②を3名程度で充当して、組織を形成し、③については、外部で地域に寄り添う協力会社をディレクションしながら、委託しました。

これによって、長らく停滞していた組織・事業のPDCAが回り始めた経験があります。ちなみに、出向者や専門人材で補わざるをえなかったのは、慢性的な財源の不足が原因でした。

特に、所属が、広域連携DMOだったこともあり、地域内に50を超えるDMOが存在する中、地域内で事業での連携をするためには、求心力が不可欠で、その求心力の源泉となったのが、各地域でも活用できるそれぞれオリジナルのデータ基盤のプラットフォーム(DMP)構築と運用であり、地域の商材が販売できるオンライン上のプラットフォームの稼働でした。(現在、組織的な事情で、オンラインの販売プラットフォームは活動を停止しています)

話を戻しますが、まずは、組織として必要な①のような人材をプロパーとして登用、確保することをお勧めしたいと思います。これは実体験からになりますが、現状、出向者や専門人材で埋めるという方法もありますが、任期が限られている点と、求めている必要な人材要件を往々にして満たせないことも起きるからです。

①に加え、②のような人材を内部で雇えるようであれば、非常に強い組織/チームとなるでしょう。
①の人材が描いたことをデータで裏付けたり、①の描いた方向性での施策に対して、データで検証したりするなど、内部にいることで、高速に事業のPDCAが回るので、事業のスピード感は圧倒的に増すからです。

もし、組織の中にいない場合は、専門人材登用等でぜひ登用を試みたいところです。仮に週1回程度でも、自組織を支援してもらえれば、組織力としてパワーアップすることでしょう。

③については、理想的には内部にいることがベストですが、現状のDMO組織では難しいところかと思います。自組織に寄り添える能力の高いベンダーを探した方が早いと言えます。地域のために、一緒に汗を流してくれるベンダーを探していきましょう。


 おわりに
最後になりますが、今、コロナ禍を経て、訪日インバウンドが増加し、より一層地域間の競争が激化しています。このような中、マーケティング・デジタル人材確保・育成の重要度は益々増していくことでしょう。

地域として必要なことはまずは必要な財源を確保することです。
その上で、地域の競争力の源泉である人材を資源化していかねばなりません。そのために、上記プロセスを踏み、骨太な組織/チームを組成し、この過渡期に成長できる持続可能な組織を作り上げていきましょう。


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