王様の恋の死者

帰らずの使者を待っている。不老不死の霊薬を手に入れるとアレは約束した。アレは、拾いものだが、よく働く。もしや誰よりも私を好いているのでは、そう感ずるほどに私を神のごとく信じている。

そう、これだから。
これだから、貧乏人は拾いやすい。
私はアレが頬を染めて声をはりあげて頭を下げたり上げたり慌ただしく動きまわるたび、これだから拾いものは安上がりだなと満足した。それが事実だ。

すこし、やさしくする。
すこし、温情らしきものを、与える。

それだけでべったりと心を寄せてくる。実の両親よりも私を信じ、私を愛し、私のためならば命をも捨てるだろう。
実に安上がりな捨て駒である。拾った者のなかでも素質があるならば私はそうするが、なかでもアレは私を強烈に信奉していた。私も、私なりのやり方でアレを大事にした。アレを拾った理由の、とおりに。

「わたくしにお任せください。不老不死の霊薬、必ずや見つけて参ります」

病にふした私は、そのとき、胸がきしむ音を聞いた。私としたことが心細くなっている。

そして、アレに、傍にいろ、そう命じようとする、己のくちびるに気がついた。
私は末恐ろしくなった。馬の骨どころかブタの骨、親にも捨てられた野原の野生児を拾っただけであるのに、この高貴なる私の心臓にアレが近づいている、この実感が恐ろしくなった。

私は、アレを認めたくはない。私には並ぶべき伴侶がやまほどいるのだ。

「はっ! 必ずや」

私の命令に、アレは丁寧に頭をさげて、そして楚々と退出していった。
その後ろ髪を思い出す。

あの後ろ髪を思い出す。
拾った頃と全く違う、黒髪の艶。うなじの絹の色。いつでも私に命を捧げるべく戦うため、短く切りそろえてある後ろ髪。女を捨てた女の後ろ姿。

はたして、数ヶ月後に使者がやってきた。遠く南方の国からの使者だった。知らぬ国であるが、ある者と盟約を交わしたために私の国まで出向いたと言う。

「ほんの、かぜ薬です。我々の島のみに伝わる、珍しいものではあります。ですが、これをある女が……」

「……女は、最期にせめてこれだけでも届けてくれと言い残した。ゆえに、届けに来た。しかし、我々の島では、かぜ薬にすぎぬシロモノ。責任などはすべてあの女に……」

女は、どうした、尋ねる道理はなかった。しかし、私は尋ねた。

そうして私は枕もとのかぜ薬を眺めながら今、これまでに感じたことのない感慨と胸のざわめきに震えている。

明日にも、私も死ぬだろう。
もはや希望は無い。

アレが、帰って来ないのだから。


END.

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