私たちはともだち(ハイエナ)

夢見る人たちは、ポニョポニョしている。あのアニメ映画のポニョポニョだ。ぼよん、ぶよん、たくさんの自分の分身みたいな自画像を抱えて、いつか来るだろう、ビッグウェーブに乗るのを待っている。
あるいは、乗るために、今もひた走っている。

「フォロワーが伸びない」

Aちゃんがまたつぶやく。
Cちゃんが、アタシも、と、つまんなさそうに吐き捨てた。
私たちの手には、最近の流行りだっていくから、一個600円もするカヌレが山盛りに抱えてある。

その写真をトレンドワードなんかにまぜながら、Aちゃんはインスタに、Cちゃんはツイッターに投げた。それから10分間ほどしてから、みるみる下がったテンションそのままで二人は不機嫌になっていた。

「イイネされてるけどさ。新規来ないんじゃ意味なくね?」
「わかる。っつかカヌレやっぱダメか? でもコンビニばっかだとオジサンかよッてなるでしょ? キラキラしてねぇ」
「わかるー。コンビニ界隈まじダサいわ」

「……カヌレ、食べてるところも写真にしてあげてみたら?」

B、つまり私が提案してみる。ふたりは揃って首を横にふった。

「カロリー高いでしょ? 一個でいいや。Bにあげる」
「食べないー。正直、好きじゃないんだよ。ベタベタしてるから指ベトなるし」

そ、そうっか。私は笑い、エコバッグを広げた。Aに好きなカヌレを選ばせて、残りはぜんぶ私に。

(……やった!!!!)

実のところ、高校になってからSNSに取り憑かれて変になっていく友人たち、それについていく「女子友」を偽装するための相手にすぎない私の存在意義、そんなふうな利用のされ方でも、私だって『利用してるから』AとCの友人を演っているのだ。

こういうおこぼれが、目的だ。
コロナ前はタピオカミルクティーが飲み放題も同然で、あれはよかった。二人とも味見くらいで止めて、あげる、あるいは最初から写真だけ撮って、あげる、そればっかりだった。

私の家はきびしい。おこづかいだって雀の涙ほど。でもこのふたりにくっつけば、リアルフォロワーになっておけば、残したものを食べることができる。

ラッキーな話だ。これで空腹にも悩まない。美味しいものがたくさん! やったね!

……ただ、たまに思う。

「あー、ちょっともう。コンビニ大盛りスイーツのやつのが話題なってる。コンビニ界隈まじ乞食すぎてやんなるな」
「ツイッターなんか漫画だわ。金曜はダメだね。トレンドもぐっちゃぐちゃ。更新するだけで変わるの」

「「さっさとフォロワー増えろよ」」

「あはは……。大変だねぇ」

私は、エコバッグのカヌレの量にウキウキしている。ふたりとも、リアルフォロワー、ここにいたりして?

卑しいな、ハイエナみたいだな、AとCの言葉を聞いてるとそう思うことがある。

でも、リアルハイエナが、いる。

ここに。私のなか、私自身、ハイエナか、死体にむらがるハエみたいな私。
卑しい人間って意味で、私たちは同じ穴のムジナで、ちゃんと『ともだち』だった。

早くフォロワー増えろよ、早く次の買い物いってこいよ、ほら。
私たち、同じ気持ちだね。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。