好きの枯渇と干からびる僕

これ絶対泣けるから!! 意気揚々とカラオケにいれてアイドルの応援歌を歌いあげた僕を、彼女はなんか、汚い虫でも見るような目で見てるな、とようやっと気がついた。

ジャジャーン!! 曲が終わって、同時に流れたアイドルたちが水着姿で泡の出る水鉄砲を手にきゃっきゃとはしりまわるPVも終わる。そんでどうやらもしかすると、僕まで?

「すばるくんって、そういうタイプなんだ~」

おいおい、どういう感想なんだよ、それって?

「ええ? 別に? あたしだって別にジャニ好きだし。韓国のアイドルの曲とかも聞くしー? 別にすばるくんの好きだっていいと思うよ、うん」

おい、なんだその上から目線の批評ってか同情ってかあきらかに嫌悪してないかお前!?

「でもそぉっかー。ふうーん」
「みやこも、歌う? ぼくが入れておこうか」
「じゃ。うただひかる」

指名は、デビュー曲でもある超有名なやつだ。地下アイドルの応援歌などをセレクトする僕とは、まさに、歌手の格がちがう。しかも、みやこ、歌めっちゃうまい。英語の発音がうまいのは知ってたけど、うただひかるの邦楽をまるで洋楽のように歌ってみせる特徴がぴたりとハマっていた。
男友達とカラオケにくるノリで、僕はつい、タンバリンなんて手に持ってしまったけど、うただひかるを前にしてタンバリンは行き場をなくした。すっかり持てあまされて、一度も鳴らされることなく、歌が終了した。

「はぁ~っ。この曲、いいよねぇ。だいすきなの、あたし」
「て、定番だよな」
「はあ。ま、そりゃ。歌手だしね」

おいおいおいおい、僕の歌ったアイドル連中は歌手じゃないって?

そこはかとなく、険悪なムードが店内にながれる。大学でよく一緒の授業になるみよこ。ゼミが一緒になったみよこ。彼女をおもいきってカラオケに誘って、そしてこれって僕の惨敗だ。当然ながら、当然なのか? 当然なのかこれ? 疑問に思うが、当然ながら、カラオケ代金は全額僕のおごりになった。だって、みよこ、財布すら出さない。

「じゃねー。またねー」
「お、おう、またな」

楽しかったー、なんてお世辞もないのか! それだけか!

胸中でツッコミするけど、これを声にする度胸がない時点で……、ああもう僕の完敗だった。僕、終了。みよことの縁はこれっきりだろう。
大学に行けば、彼女なんて自然にできる、なんて誰が言ったんだ?
大学に来てから、僕は、人と人との摩擦を感じてばかりだ。ざらりとして不快な舌ざわりが、しゃべるたびにくちのなかにただよう。砂粒が残る。なかなかに痛いのだった、これがまた。

みよこと別れて、大学近くのぼろアパートにとぼとぼ、歩いて帰る。なんだか彼女が電車で通学していることすら、僕をみじめな気分にさせた。彼女は実家がよいだそうでさらにみじめだ。所詮、僕なんて、田舎者……。

ああ、でも田んぼとか、あぜ道とか、恋しいな。
「は~あああ」
溜め息を漏らし、鈴虫の声すら、虫の声すらろくにしない夜道を歩く。都会の人間は毎日こんなところを独りで歩いて帰ってるのか。寂しくないのか。人との摩擦に、消耗しないのか?

誰か、誰でもいいから、ここに僕の居場所をつくってほしいな、自然とそう思えて仕方がない。都会暮らしにも上京にもそうしたら理由ができる。理由ができる。じゃないと、じゃないと――

「あーあ、帰りたいなぁ……」

こんな虚しさが、僕に襲来する。故郷にかえりたい、とはちょっと違う。でもどこかに帰属したくて僕はムズムズする。

帰る場所はアパートだけど、本当の意味ではアパートなど僕の帰れる場所ではなくって、僕は早く、一刻も早く、この都会にスキになれる居所をつくらなきゃ、生きてはいけない気がして、仕方がない。息ができない。誰か、あるいはどこかが、僕を好きになってくれなくっちゃ、僕は生きてけない。なにかが、生きるための大事ななにかが、圧倒的に枯渇している。

溜め息しながら、アパートのドアを開ける。
これが日常だなんて、なんて世の中だ。



END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。