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日本におけるP2P電力取引のいま: 6/7 森のエネルギー/elDesign事例(坂越氏)

森のエネルギー(elDesign株式会社) https://www.mori-energy.com/   
代表取締役社長 坂越健一氏

今年からP2P取引実証を開始致しましたが、まずは、実証実験の内容をお話させて頂く前に、実証実験の背景について事前に共有させて頂きたいと思います。今回、森のエネルギー株式会社というところでお話させて頂くのですが、森のエネルギーという会社は、elDesignグループの子会社になっております。

elDesignグループといいますと電気に関わることはいろんなことをやっておりまして、いろんな会社があり、私もそれぞれの代表をやっているので、いろんな肩書きがあるのですが、一番親会社となるelDesginは、コンサルティングやビジネスディベロップメントを実施しています。子会社であるエフィシエントは、需給管理などのBPOやVPP実証実験にも参加させて頂いておりまして、今年で4年目となります。

(下図スライド)今回の森のエネルギーの実証についても、このノウハウを活用しながら実証をやらせて頂きました。エネトレードという会社は電気の卸売りをやっている会社です。リニューアブルトレードという会社は再エネの卸売りをやっている会社です。最後に、森のエネルギーという会社ですが、本日はこちらの地域新電力についてお話致します。

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(下図)地域新電力の地域とは、長野県の富士見町という所になります。地図にありますように八ヶ岳の南麓にある町で、人口1万5千人くらいの小さな町です。ほんとに山しかないような町で、標高が平均で1000m以上なので夏はすごく過ごしやすいです。我々がなぜこのような所でやっているのかというと、(写真)森のオフィスというのもので、最近でこそコロナでワーケーションであったりテレワークをよく耳にするようになりましが、5年前からこのオフィスを貸りています。今はこちらで従業員も働いているのですが、「ここに来て働いていいよ」「休みついでに寄って来たら?」という私の趣味という意味でも使用し始めました。そして、オフィスを貸りたご縁から町の方と色々と取り組みをするようになったという経緯でした。

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(下図)オフィス内はフリーデスクになっています。我々は森のエネルギーとして新電力をこちらのオフィスの方に登記させて頂いて設立致しました。

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(下図)夏はとても過ごしやすいのですが、冬になるととても寒くて、雪が積もるので行きたくないかなという感じです。電気的に言いますと需要パターンはほぼ北海道と同じです。札幌の負荷パターンとかなり似ている地域になります。

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(下記スライド)まとめますと森のエネルギーは、自治体さんからは出資を受けていない新電力になります。先ほどのオフィスに入っている会社が共同出資をして2015年に設立しました。elDesignの持ち分は半分です。主に富士見町の中の公共施設、工場、一般家庭に販売しています。地元の企業さんが代理店さんになって頂きまして、販売を委託しています。

東京電力管内へも売っておりまして、「ふるさと応援でんき」とググって頂ければ、地元の産物と一緒に電気を買いましたといったことをしております。あとは長野県内の太陽光発電(FIT、卒FIT)をちょっとだけ買い取っています。

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elDesignグループではどういう意味があるかというと、テストベットとして使わせて頂いていることが多くて、今までもVPPやEV、見守り等の実証に参加頂いています。町の方々がとても協力的なので、今回も富士見町と需要家の皆さんのご協力をもとに実施することができました。

(下記スライド)ただ、町の課題も何か解決していきたいよねということで、今回2つ大きなことをやりたいと思っていました。過疎化が進んでおり産業がないので、新しい産業を生み出したいという狙いがありました。我々が入ったオフィスもIT企業をいっぱい誘致したくて、IT企業を集めたらうちみたいに電気に関わる企業さんがきてしまったのです。そこで電気とITで何かできないかと考え今回ブロックチェーンを使った実証に協力いただいただきました。それによってシティプロモーションにもなればいいなと思っているところです。

もう一つの問題は、増えつつある太陽光発電との共生と挙げています。かなり日射量は良い地域になります。隣に北杜市という山梨県の町がありまして、昔から太陽光が盛んな町でして、そこも含めてかなり乱開発が進んでしまっております。地元の方々から言わせると東京のディベロッパーがご無体で働くと。例えば神社の裏にある鎮守の森につけるとか、大河ドラマのロケ地の草原に太陽光を置くとかなどがあり、住民の反対運動もある状況です。

陽光は既にかなりの量がありますし、今後も、再生可能エネルギーの普及という意味では、町や県としても進めたい意向もあり、なにかの形で地元の方に還元できる方法はないかという点が課題となっております。この2つの課題は富士見町に限った話ではなくて、日本の中でも大きな共通の課題ではないかと思っております。これらの課題を解決するために、今回の実証実験の実施を富士見町にお願いしたという次第でございます。

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(下図スライド)今回P2P実証として、2つの実証実験を実施しました。フェーズ1、フェーズ2と記載しております。今年の3月に実施したものがフェーズ1、IOSTをパートナー企業として電力P2P実証をやりました。これは完全にP2Pで、個人と個人の需要家さんを結びつけるというようなことをしております。

今回は、LO3 Energyと共催させて頂いており、LO3のお話を主にさせて頂きます。フェーズ2としてやったもので、今年の5月から8月の期間で実施しました。特徴としては、プールされた電力取引市場で、発電された電気を一旦プールして、需要家がそこから買うという仕組みです。

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(下記スライド)主な特徴として、今回は実ユーザーが参加する実証実験ということです。弊社の社員も何名か参加しましたが、基本的には、町の施設や、町に住んでいる需要家、町長も参加して頂きました。そうすると、個人情報の取り扱いやどういった契約か、インセンティブの設計等もかなり意識してやらなければなりませんでした。

また、プール方式による疑似P2P取引については、LO3 EnergyのPandoというプラットフォームを使いました。フェーズ1では個人と個人を結びつける方式を試しましたが、誰から買ったかというのが本当に重要なのかという疑問もありまして、LO3 Energyと違う方式を試しました。

もう一つ、ネガワットによる市場参加です。本来であれば、プロシューマーとして発電量を供給するのは、太陽光などの発電デバイスをもって人になりますが、それだけだと参加者は限られます。特に今の住宅事情ではみんなが太陽光を設置できるわけではないです。それではネガワットでやりましょうということで、実際に節電した分を売りに出すことも今回トライしています。節電した量の出し方は、これまでVPPでやっているデータの取り方を使いながら実際に計算しました。具体的にどう結びつけるかはまだですが、将来的にネガワット取引や調整力市場も意識しながら実証を行いました。

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(下図スライド)電力データは主に2種類の取り方をしています。需要家及び発電家は全て森のエネルギーの需要家さんになります。各スマートメータからのデータはAルート・Cルートを介して速報値として毎時間取れるデータを使用しており、メータのデータを使っております。問題は、発電量のデータがリアルタイムで取れないことでした。

発電家に対しては、我々のほうでゲートウェイを設置しまして、FIT、卒FIT両方あるのですが、逆潮分のデータをB ルートを介してゲートウェイを通って我々のデータベースに持ってくるという方法で、電力データを集めました。

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(下図スライド)そして我々のデータベースの方からLO3のPandoプラットフォームの方にロードするという形を毎日して、これでデータの授受をやっていました。需要家の数は15件、発電家は6件でした。

電力データとしては30分値を取っているのですが、入札としては1日1回でした。前日の0時から24時の48コマのデータが全て出そろった段階で使います。前日分のデータをスマートメーター・託送経由で取得して、LO3のシステムにアップロードする流れでした。そして、その日の14時に各需要家さんが入札を始めるというやり方でした。

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(下図スライド)あと、ネガワットについてですが、デマンドレスポンスという形で、こちらからお願いしたタイミングでのネガワットの計測となります。参照データとしては、JEPXのスポット価格を参照して、それに対して節電指令をします。VPP実証で、去年、一昨年とやらせてもらったJEPX連動で使ったアルゴリズムをそのまま使っています。節電指令を行ったものに対してベースラインとの比較をしてネガワットを計測しました。出てきたネガワット量を計測しまして、先ほどと同じようにPandoのプラットフォームにアップロードしました。

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(下図スライド)アプリに関してはよくできていて、使いやすかったという評判でした。

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(下図スライド)実験においては、大体2000kWh以上の取引、約737件ということでかなり多くの方に参加して頂きました。

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価格としては、35円前後をつけてくれる方が多かったのですが、価格指標がよくわからないので、なんとなくでつけた方が多いかと思います。(図は当日共有のみ)

(下記スライド)課題としましては、データを取ることがとっても大変ということがありまして、西村先生からも話がありましたが、個別計量も含めて今後検討が必要と思います。あと今回、森のエネルギーの需要家同士で取引を行ったのですが、違う小売電気事業者をまたいでやることができないので、その需要家が他へスイッチングしてしまうとP2P取引からも外れてしまい、悩ましい部分ではあります。環境価値や地産地消にどれだけの価値を見出せるかが正直まだわからない部分になります。なので、プラットフォームの費用をどう負担するかがまだわからないところになります。

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(下記スライド)我々の今後のビジョンとしては、プラットフォームをもう少し広げて考えて、EVのシェアリングであったり、VPPであったりとか場合によっては卸売に関しても活用でるようなプラットフォームを作っていけたらいいなと思っております。

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以上で発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。

本イベントの記事
1/7 P2P電力取引とは(LO3 Energy大串氏)
2/7 実現への期待及び想定される課題(阪大・西村氏)
3/7 実現への期待及び想定される課題(東大・田中氏)
4/7 シェアリングエネルギー事例(井口氏)
5/7 デジタルグリッド事例(高坂氏)
6/7 森のエネルギー/elDesign事例(坂越氏)←本記事
7/7 パネルディスカッション

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