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日本におけるP2P電力取引のいま: 7/7 パネルディスカッション

■議題:実際の社会実装における課題へのディスカッション

(西村)みなさんのお話を一旦整理させて頂きました。P2P取引の背景にあるのは、電気事業が、バルクで作ってバルクで売るという昔ながらの姿から変わりつつあり、下図でいう「Alternative」という意味ですが、P2P取引、分散化、多元化に進んでいます。現状(図の左上)は個人間の電気や環境価値の取引実証をやっており、トレーサビリティだけをやっているものも一部あります。

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今制度設計でやっていることは大きく2つあって(図の右から2番目)、いろいろな小さなDERのプレーヤーがいろんなビジネスができるようにいろんな制度やライセンスを作る話です(図の右から2番目の最下段のピンクの枠)。もう一つが、本日冒頭で述べたP2Pの類型整理をした後で、エネ庁のプラットフォームをさらに踏み込んでP2Pの為に何かできないかと、探しているということです(図の右から2番目の最上段のピンクの枠)。これが制度上の話です。

これらの事業を後ろ押しするものとしてPVの価格低下が劇的に進んでいて、ユーザーも増えていることがあります(図の右から2番目の、上から2番目の紫の枠)。家庭用で標準化していく面があって、業務・産業建物用も猛烈に増えています。蓄電池も増えていき、RE市場(環境価値の市場)もゆっくりであるが拡大しています(図の右から2番目の、上からそれぞれ3番目・4番目の紫の枠)。こういうバックグラウンドです。

右側のビジネス(図の一番右の列、黄色の枠)は、皆さん(事業者)自身のビジョンになりますが、小売BGやアグリゲーターとのパートナーシップがやはり必要で、環境価値を売買するにもkWhを売買するにも、託送制度上、今は小売電気事業者しか最後に顧客に電気を渡すことができないので、こことパートナーになっていないと、今の制度だとP2Pの取引はできません。

容量拠出金の支払いは小売電気事業者がやることになっています。小売と容量市場をキャンセルしようと思ったら蓄電池と再エネも容量価値にしなければいけないですが、ここは割り引かれるかたちになるので、ビジネスが上手くできるかということが課題になります。

2つ目の顧客ソリューション(図の一番右の列、上から2番目の黄色の枠)、EVのバランシング、卒FITのような再エネとのバランシング、今日たくさん示唆をいただきました。モデルとしては1対1なのか、多対多なのか。コミュニティ型のモデルというのはヨーロッパにもありますし、日本でもこの2つの可能性があるということです。

一番最後に、託送約款も含めて、P2P取引が本当にできるところは世界中にまだありません。本格自立型P2P(図の一番右の列、最下段の黄色の枠)と書きましたが、kWhにしてもRE(環境価値)にしてもフレキシビリティにしてもこれを本当に扱おうとすると、託送約款を変えなければいけない。例えば近隣だったら低圧託送部分だけの料金でいいんじゃないといった話がこの時点で出てきます。

アグリゲーターライセンスの具体設計というのをエネ庁中心に必死にやっていますが、これと同じように、P2Pが、再エネ大量導入に合わせていかにしてよりビジネスをしやすくするかという議論が、いろいろな所に論点出しをして、学識者・事業者みんなで議論して、より中長期でやっていかなければいけないことです。この右側(ビジネスビジョン)にどんなアイディアがあるのかというのをお聞かせ頂くと私も田中先生も大変参考になるのではと思います。

(田中) P2Pという切り口でいろんなビジネス的な用途が増えてくると思うのですが、それに合わせて制度も妨げにならず加速するようなかたちで変えていく必要があると思います。西村先生の論点整理で非常にすっきりしたのではないかと思います。

kWhでブロックチェーンを使っていると少し時間のラグとかが生じるので、事前予約型でkWhを取引することが一番テクニカルでやりやすいかなと思っております。さらにより自律的ところを使っていくことによって将来、再生可能エネルギーが余剰で余ってしまうとか、時間や場所によっては全然足りないとか出てくるものを緩和できるのではないかと期待しております。

(坂越) 西村先生が仰ったように、我々もグループ会社の中で、バランシンググループの運営をやっていたりだとか、いろんなことをやっているのですが、ビジネスモデルとしてP2Pが本当に何ができますかについてはすごく悩んでいる部分ではあります。

特に、今回の我々の実証もそうなのですが、お客さんはこれにお金払うの?ていうところが正直、今のところ、解としてはないです。例えば、メルカリみたいなものってあるじゃないと言われたのですが、あれは自由に価格を決められているという世界なので、安くはなっているのでしょうけれど、付加価値が増えているかというとそうでもない。でも電気は現状最低限のコストはかかっている状況なので、その状態でP2Pというのはとっても難しい印象があります。シェアリングエネルギーさん・デジタルグリッドさんは事業者としてどう思われますか?

(井口) 弊社というよりパワーレッジャーと議論したり資料を読んだりする中での感触としてお話できればと思います。P2P取引の大前提となる問題意識は何かというとダックカーブ(太陽光発電の導入が進むと、昼間の需要が減少し、夕方に急激に負荷が増加する現象で、その曲線の形状が鴨のように見えることからダックカーブと呼ばれる)を無くしたいことがあります。このダックカーブによって、電気的あるいは経済的な悪影響を及ぼすことが問題です。具体的には、日中の過剰な供給と夕方以降の供給不足で、それらを解消していく必要があります。一つ目の日中の過剰供給でいうと、P2P取引によって送電網の混雑を緩和できるのではないかと思います。つまり需要家の消費行動パターンを変化させていくことを意図しているのかと思います。2つ目は、VPPを通じて蓄電池の投資回収期間を早めていく、それによって夕方に逆潮して、供給不足を解消するというところでパワーレッジャーは取り組んでいます。

パワーレッジャーは実際に参加者にアンケートを取ったのですが、P2Pを継続したいかというアンケートの結果としては、節約になるか、余計なコストがかからないのであれば継続するという回答が78%、つまり23人中18人という結果でした。コストがかかるのであれば続けないということですので、やはり経済的なメリット、インセンティブは必要だろうということから、法改正も視野に入れなければいけないとなかなか普及していかないということになります。

(坂越) 高坂さんはいかがですか?

(高坂) 我々のプラットフォームに参加してくださっている方が仰っているのは、自分が欲しい電気を選んで買えますというのと、発電側はより信頼のおける需要家さんに安心して買ってもらえるところが上手くマッチングしているという点が価値としてあると思いました。

また、プラットフォームを使うにあたって、売りたい価格、買いたい価格、プラスちゃんと利益も積んで、プラットフォーム手数料等も各種手数料を積んだ上で利益がでるという値段設定をして、それを発電側と需要側がお互いに納得した価格ということで実際に取引をするというかたちにはしてあります。劇的に安いということではないのかもしれないのですが、お互いが納得した値段で買え、且つ市場競争力もある価格での取引ができていると思っております。

あとはもう一つ、どうしてこんなプラットフォームを作ったのかですが、不安定な分散電源を取り込むことと、系統を安定させるということの相反する考え方をどう実現できるかということが課題と思っていて、まだまだ成熟していないものですが、その課題意識を持ってプラットフォームを作ったということがあります。プラットフォームが上手くできたあかつきには、再エネが入ってきても需給調整がしっかりできている状態を目指しています。

(坂越) 一方では、大串さんの方は、プラットフォーマーとしてビジネスをどうしようかというのがあると思うのですが、それはどう考えられていますか。
(大串) 我々のお客さんは小売電気事業者、配電事業者、垂直統合の電力会社なのですが、小売電気事業者さんにこのプラットフォームを提供して、その小売り電気事業者さんが新規性のある、価値のあるサービスを末端の需要家に、特にDERが普及した時代に、末端の需要家に提供できれば良いと思っております。一言でいうと、「エンゲージメント」と呼んでおりますが、顧客との繋がりを強めるのにこういった需要家間の取引が有効なのではと考えております。

(坂越) 僕の意見なのですが、P2Pというものと、小売というところが、どうしても切り離せない状況になってしまっているのですが、本来であれば自由化する前に全部電力会社さんが小売をやっていて、P2Pのプラットフォームは別ですよと言われた方が実はやりやすかったのではないかと少し思うんです。西村さん、これはやりすぎですか?

(西村) 託送約款に従ってくれというルールになってしまっているので、託送約款で同時同量をする為には電源ないし量がいりますよね。それがあまりP2Pに向いていなくて、では近隣のP2Pだけ別枠でやりましょうと言った時に、エネ庁が言ったのは、そんなことをやれば脱法的にみんなP2Pに行くでしょと。託送会計が崩壊するので考えさせてくれということになってしまいます。

なので、結局P2Pをきちんと法的に位置付ける時に、「何ができて、何ができなくて、これやってください」を作るには、そこまで成熟していないんですよ。なので、「こういうビジネスをやりたいからこう変えてくれ」と声をあげていかないと、例えば、P2Pライセンス作ったけど使えないという風になってしまうので。アグリゲーターライセンスを作るまでに2年かかったんですよね。P2Pのライセンスが国民にこのくらい役に立つよという説得ができないといけないですよね。

(坂越)はい、お話も尽きないのですが、こういう議論を今後とも繰り返させていただきながら、制度設計にも、ビジネスの方にもどんどんフィードバックさせていただきたいと思いますので、今回に限らず、またぜひご参集いただきたいと思います。今後ともみなさん意見交換含めてよろしくお願いいたします。

本イベントの記事
1/7 P2P電力取引とは(LO3 Energy大串氏)
2/7 実現への期待及び想定される課題(阪大・西村氏)
3/7 実現への期待及び想定される課題(東大・田中氏)
4/7 シェアリングエネルギー事例(井口氏)
5/7 デジタルグリッド事例(高坂氏)
6/7 森のエネルギー/elDesign事例(坂越氏)
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