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日本におけるP2P電力取引のいま: 3/7 実現への期待及び想定される課題(東大・田中氏)

東京大学大学院 工学研究科 技術経営戦略学専攻 准教授 田中謙司 氏

皆さんこんにちは、東京大学の田中でございます。西村先生と同様で肩書がいくつかありまして、プラ研も参加していてそちらの立場もありますが、今日は西村先生にお話いただいたので、どちらかと言うと検証しながら実際にやってみて、いろんな感想を持ちながら今後の課題とP2P電力取引の期待をお話出来ればというふうに思っています。

まず、制度の方の感想から言いますと、やはり昔制度を作った時点では、集中型を前提とした、いかに安定した電力を安くあまねく供給するかと言う前提で作ってあります。P2Pを排除しようとかそう言う想定で作ったわけではないのですが、結果的にちょっと合わない状況があると思います。

これはまた前提が変わってくる規制とかルールが変わってくるものだと思っていて、委員会に参加している感じからすると、新しいことをやりたければ、それを出してくれば、前向きにちゃんと変えますよというふうなスタンスではあると思います。

一方で今日の講談にご参加いただく事業者さん側からすると、あまりにルールが想定と違いすぎて少し困るかなと言うところがあると思いますが、これは上手くマッチングしながらゆければと思っています。そう言った実証をする視点から話をして行きたいと思います。先ず、私がP2Pに凄く期待しているところから始めます。

(下図スライド1)先ほどもお話しがありましたが、今まで、電力業界は巨大な発電所から巨大な電力小売に対してほとんどホールセールと言うか、集中型の市場だったと思うんです。他の業種もそうなんですけども、だんだんですね、再生可能エネルギーが入るに連れて分散化が進んでいると言うふうに思っております。
他の業種で見ると、テレビも一方的にブロードキャストをするものがYouTubeのようにYouTuberが発信するようになって、最終系はC2Cと言うかP2Pでどんどん通信をするような形になっています。

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小売を考えてもですね、イオンのような巨大に均一化した商品を流通するものからメルカリのようにC2Cでやり取りする時代になって来ていると思います。同様に電力も、今までの集中型市場にプラスして少し伸びる部分で末端のところと言うのが入ってくるのかなと思っておりまして、その点ではP2Pと言うのが非常に有効ではないかと思っておりまして期待しているところでございます。

(下図スライド2)大学としては、いろいろな再エネとか分散ユーザーが入って来るにつれて、これが全体最適に動いてくれたりくれなかったりします。いろいろな協調メカニズムを導入して、一方的に従わせるオーケストラスタイルもありますけれども、どちらかというと経済的インセンティブを含めながら、P2Pも含め、協調を促すようなメカニズムというものが出て来てくれば良いかなと思っております。

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その点ではP2Pの仕組みは、個別にインセンティブを設計出来ますし、個別にやりたいことをサービスとして作れるので、この点ではテクニカルに非常に面白いじゃないかなというふうに思っております。技術的な課題と、将来それをクリアして規制とかビジネス的な課題があると思いますが、現時点ではその前段の技術的な課題は徐々にクリアしつつあって、次は規制とかビジネス的な課題に入ってきているのかなとか思っています。

(下図スライド4)重要なのは何をしたいかというところだと思いますが、例えば、これから二つ三つほど研究室で紹介したものを紹介したいと思いますが、再生可能エネルギーが余剰となる将来にユーザーが協調できるかというような観点で、今日ご登壇いただくデジタルグリッドさんと一緒に、浦和美園と言うところで実験を行いました。これはブロックチェーンを使ったP2P電力取引で価格によって協調のメカニズムを作ってやり取りします。

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(下図スライド5)例えば、太陽光が余剰になると価格が下がるんですけれども、下がってくると蓄電池のところが買って充電をして、高くなると放電する。と言うものを自動で更新するような仕組みを実験しています。

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(下図スライド6)さらには、先ほどご紹介ありましたけれども、関電さん、ユニシスさん、三菱UFJ銀行さんと別のP2Pの実験をやっておりまして、いろいろな角度からマッチングの仕組みを見ています。技術的な課題に関してはほぼ問題ないかなというところです。

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(下図スライド8)他にも、今後入って来る電気自動車に関しては、VPPにもご協力いただくと電力系統にも良い事があります。一方でドライバーの視点から参加すると、いつ出発するかとか制限がかかるので使いにくいという点があります。「ドライバーの視点で、電力供給はインセンティブ得ることが出来るのか?」をテーマにした実験をトヨタさんと一緒にやっておりまして、電力のエージェントが、自動車の走行特性を分析しながら自動で売買する実験が進んでいます。

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(下図スライド9)例えば、事業所のピークシフトが通勤ユーザーとは相性がいい事を、確認出来ました。下図は東富士事業所で、従業員の方に運転してもらって、充放電している図です。自動で放電をしてピークシフトに協力することが、それぞれドライバーの経済的インセンティブによって行われる、と言うようなことができてきています。こう言った末端の方の取組、サービスの設計の取組にP2Pが非常に良いと考えています。

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(下図スライド10)こういったところを考えて今実証実験をやっていますが、大学側では技術的な先進性をどんどん追及して実証出来るかどうかを検討しています。一通りこれをやって、今後の可能性や展開を考えていくわけですが、例えば自動車以外でも色々なものが考えられております。

下図はデータセンターですが、首都圏で見ると一割ぐらいはデータセンターの電気事業で、増加しているもののほとんどがデータセンターと言うことです。再エネとの相性から考えていくと、Googleのように24時間再エネを使おうとして、自分のAIの学習の計算を再エネが余っている時間帯に学習のアルゴリズムを回そうとか、いろんなフレキシビリティが出てきます。こういった物を巻き込んでいくのは今後あり得る課題になると思っております。

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(下記スライド11)最後、ちょっとまとめですが、現状、技術的には、ほぼやろうと思ったことは大体実現可能になりつつあるということが分かっております。ただ、P2Pと言うのは手段であって何を実現しようかというところが一番重要ですので、再エネ価値の市場か、電力取引なのかも含めて、業界横断的に今後考えて行くのが今後の課題なのかなと思って講談を楽しみにしているところでございます。

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(下記スライド12)時間がそろそろ来ましたので、最後こちら私の勝手な期待ですがお見せだけして終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

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本イベントの記事
1/7 P2P電力取引とは(LO3 Energy大串氏)
2/7 実現への期待及び想定される課題(阪大・西村氏)
3/7 実現への期待及び想定される課題(東大・田中氏)←本記事
4/7 シェアリングエネルギー事例(井口氏)
5/7 デジタルグリッド事例(高坂氏)
6/7 森のエネルギー/elDesign事例(坂越氏)
7/7 パネルディスカッション

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