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地域から耕作放棄地を出さないー農村の豊かな景観を次の世代に【愛媛・東温市】ジェイ・ウィングファーム

2022年8月 の「地元を愛す。」プレゼントの賞品にセレクトしのは 、東温 市の農業生産法人、ジェイ・ウィングファームの「媛甘露と焼き菓子の詰め合わせ」。ジェイ・ウィングファームでは石鎚山を望む約60ヘクタールの農地で米やはだか麦などを栽培している。13年前に京都から移住し、地域の農業の担い手として奮闘するジェイ・ウィングファーム取締役の大森陽平さんに お話を伺いました。

道後平野の真ん中、重信川の扇状地にあるジェイ・ウィングファーム。 石鎚山から吹き下ろす乾燥した風と瀬戸内海からの海風がぶつかる 場所で、あらゆる農作物の栽培に適する恵まれた土地。

東温市北野田の農業生産法人、ジェイ・ウィングファームは、昭和53年( 1978年)に牧秀宣社長が創業、平成5年(1993年)に法人化し、米や麦などの生産から加工・販売までを一貫した経営で行っている。現在、約60ヘクタールの田畑で麦と米の二毛作のほか、キャベツ、大豆などを生産している。
ジェイ・ウィングファームの取締役・大森陽平さんは広島で生まれ、大阪や京都など関西圏で育ったが、26歳の時、父親の故郷である東温市に移住した。

(大森陽平さん)
 大阪の大学を卒業後、京都の不動産会社で営業の仕事をしていました。長男ですし、両親もすでに東温市に帰っていたので、自分もいずれは東温市に移るのかなとは思っていたのですが、会社を定年してから知り合いもいない土地に移住するよりは、若いうちに地盤を移した方がいいと思い、結婚するタイミングで東温市への移住を決めました

 移住を決めて何度かこちらに来る機会があったのですが、その時に子供の頃、年に数回帰省した時に見た景色とずいぶん変わっていることに気が付きました。僕が子どもの頃に比べると荒れた田んぼが増えてしまい、近所の人
に話を聞くと、「この辺りも10年後には農業をやる人がいなくなるよ」と。帰省するたびに田んぼで遊ぶのが楽しくて、大好きだった景色が失われるのが残念で、それと同時に、「だったら僕がやったらいいんじゃないか」と思ったのが農業を志したきっかけです。僕はこちらに誰も知り合いがいなかったので父に相談したところ、父の同級生である牧社長がおもしろいことをやっているから、というこで入社することになりました。

現在、ジェイ・ウィングファームで管理している田畑は約700枚。高齢などを理由に手入れに困っている地元の地主から管理を依頼され預かっている農地ばかりで、三角形の田んぼなど非効率な農地が多いという。

 農業を始めた当初、いろんな本を読んで勉強していたんです。その中で、これからの農業は大規模化とか組織化というのを目指すべきだと書かれていて、自分も共感していました。でも実際、うちが管理しているのは、三角の田んぼとか、小さい田んぼとか、条件の悪い田んぼがほとんどだったんです。当時は何もわからなかったから、牧社長に「なんでこんなところまでやるんですか?」と聞いたんです。すると社長は、「うちは地域の受け皿としてやっている。条件が悪いからと言って断っていたらうちの存在意義がないんだよ」と言われてハッとしました。

 地域から耕作放棄地を出さない、農村の景観を守っていくという思いからスタートした会社ですから、地主さんから預かった農地きれいに管理して地域の人に喜んでもらえるようにスタッフ一同頑張っています。僕がそうだったように、年に数回帰省 した時 にやっぱりきれいだなと感じられるのは、その土地の農家一人一人の思いがあるから。畦道をきれいにしてもお金にはなりませんが、田んぼが荒れると農村は荒廃していきますから。

農地のあちらこちらで使い古された農機具が景色に溶け込む。スタッフ が沖縄から連れてきた馬が草を食む姿も。

農業を身近な選択肢に
この地域で自分たちがやるべきこと


東温市に移住して13年が経ち、現在は小学1年生の男の子の父親でもある大森さん。休みの日には家族で公園や温泉に出かけのが楽しみの一つで、「子どもの成長を見るのが趣味」と話す。

 ここは子育てをする環境としてはめっちゃいいと思いますね。例えば、自然の景色を見てきれいと感じる感性は、そういった景色を見て育っていないと生まれないと思うんです。都会にはない感性が磨かれるし、観察力 や 人間力 も 田舎じゃないと育たない。僕が育ったところはアスファルトだらけだったので、もちろん都会にしかない魅力もあるんですけど、ここは自然が身近にあって、子どもがいろんなものに興味を持てる環境だと思います。…たまに用水路に落ちて帰ってきたりもしますけどね(笑)。それも含めていろんなことが身についてくれたらいいなと思います。
 僕は仕事ももちろん大事ですけど、仕事のために家族を犠牲にするのは違うなと思っていて、何のために働くかというとやはり家族のためですよね。その点、うちの会社では子供の授業参観とか病気になったりとか、そういう時には社員同士でカバーし合いながらやっていけるのがいいところだと思います。

 子どもの成長は本当に早いですけど、一方で僕の農家 としての成長はと言うと、挑戦して失敗しての繰り返しですね。元々僕は実家のある東温市下林地区の田んぼをやりたくて、そのための勉強と思ってこの会社に入社したんです。 3年あれば一人前 とまで はいかなくても半人前くらいにはなって、 1 人でできるだろうと思っていたんですが、実際 、 3年やってみても何もわ
からなかった。何でこんなにわからないんだろうと思ったら、全部たった3回ずつしか経験していないんですよ。しかも毎年条件が違って、去年はうまくいったけど、今年は同じようにやってもうまくいかないということもある。思っていたように独立できないということで悶々としていました。そしてその思いを牧社長に相談したら、「広い視野を持ってここでもう少し頑張れば、ここだけじゃなくて下林 まで カバーできる力がつくぞ」ど言ってもらいました。そこから死に物狂いでやりました。農業はなんとなくやっていたらあっという間に時間が過ぎてしまいます。目的意識を持ってやらないと積み上げることができないと実感しています。

最後に、大森さんの今後の目標を聞いた。

 僕らの世代にとって農業は身近にないんです。今、うちの会社で常勤で農業をやっているスタッフも全員農家出身ではないんですよ。非農家出身の人が農業をやりたいと思っても、様々な制度上の問題で農家になるのはめちゃくちゃハードルが高いんです。でも、時代 は 変わって、代々農業を親から「受け継ぐ」という形から、数ある職業の中から農業を「選択する」という時代になりかけていますから、やりたいと思った人が気軽にできる仕事でありたいなと思うんです。お金を稼ぐ手段としては効率が悪いのでそこでやめてしまう人も多いんですけど、景観を守り、農村の集落機能を復活させていかなければいけない。少なくとも僕たちはこの地域でそういう存在になりたいと思いますし、その魅力ややりがいを伝えていきたいと思います


ジェイ・ウィングファーム 取締役 大森陽平さん
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