エスニシティとナショナリズム
はじめに
本記事では、エスニシティとナショナリズムの規定、特徴を整理し、それが、どのように食と関わっているのかを書きたい。そもそも、ナショナリズム、エスニシティが何かと聞かれて答える事ができる人はほぼいないのではないだろうか?(実は、自分も、なんとなくしか知りませんでした…)ということで、本記事では、『現代世界とエスニシティ』という本を参照して、エスニシティ、ナショナリズムについてまとめてみたい。
用語の整理
民族vs国民
民族
文化的な人間の分類。言語、風俗、習慣などの伝統的文化を共有し、「われわれ」という同族意識で結ばれた人々の集まり。
国民
政治的な人間の分類、一定の領域を支配している権力機構つまり国家を構成している人々の集まり。
まず、民族と国民の大きな違いは、民族は、文化的分類であるのに対して、国民は、政治的分類であることである。そのような違いから、国民は、国家という決まった領域に依存する一方で、民族はダイナミック(動的)である。例えば、国民国家を超えた民族紛争がある一方で、国民国家内の一部地域で分離独立運動が起こることもある。
民族は国を超える。
ナショナリズムとエスニシティ
ナショナリズム
本著書において、はっきりとした定義はされていない。なので、Wikipediaを参照すると、ナショナリズムとは、国家という統一、独立した共同体を一般的には自己の所属する民族のもと形成する政治思想や運動。
エスニシティ
「一定の文化体系のなかで、他の同種の集団と相互行為を重ねながら、なお自らの伝統文化とアイデンティティを共有している人々による集団」である民族集団とその成員の特徴。
エスニシティと国家
国家とエスニシティ
第一次世界大戦前、すべての民族がそれ自身の固化をもつべきであるという考えがあった。この考えはヨーロッパにおける考えである。
一方で、第二次世界大戦後の振興独立国の多くは、多数派の民族が中心になって国内の少数民族を吸収し、一つのネーション(民族)になることを試み、少数民族の要求は無視される傾向が強かった。
そして、現在は、国家が民族によって挑戦されている時代と考えることもできる。多くの国で民族問題がある。
第二次世界大戦後の国家とエスニシティの関係
第二次世界大戦後の国家とエスニシティの関係には、以下のような特徴がある。
多数の民族集団を抱えた新興国
既成国家における新しいエスニック・アイデンティティの顕在化
新移民の流入
民族的純粋さへの希求
難民
以上の事象から、世界の国々は全体としてますます多民族国家になってきている。
新興国と多文化主義
第二次世界大戦後の近代国家をめざした国々における多文化主義は、以下のような流れで生じている。
国の統合を図るために採用する国内の主流民族文化への少数民族文化の同化(assimilation)政策
より民主的な融合(amalgamation)政策への転換
国の基礎が確立した段階で同化や融合が必ずしも進んでいない状況が存在
マイノリティの権利を同等にみとめる思想が強化されてくる
文化多元主義、多文化主義が台頭
このように、多文化主義は、エスニシティ、ナショナリズムとの深い関係を持つ。
食、エスニシティ、ナショナリズム
さて、食の人類学的研究において、なぜ、エスニシティ、ナショナリズムが重要となるのか?
例えば、自分はタイ料理の研究をしているので、タイ料理を例に考えてみたい。
タイ料理は、タイの料理で、タイらしさをもつ料理である。このタイらしさ(=エスニシティ)とは、どのような特徴だろうか?例えば、仏教的要素や川からの食材が挙げられるかも知れない。しかし、タイ人の中には、仏教以外を振興する人もいるし、地域によっては、川からの食材ではなく、海からの食材を使用している。したがって、ここで言うタイらしさは、バンコクを中心とするタイ中部平地の人たちのエスニシティである。そして、これが、タイという国民国家の料理としてタイを象徴しているのである。
以上のように、「〜料理」は、エスニシティ、ナショナリズム、その他の要因によって社会的に造られるものである。(この考え方を社会構築主義という)
参照
綾部恒雄 1993 『現代世界とエスニシティ』 弘文社
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