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「魔法の飲み物なのよ」私が泣いた時、母はいつもココアにマシュマロをいれた

少女は目を覚ました

温かい湯気と甘い香
母はココアをいれる
少女のために、毎朝

母と話しながら父が
オムレツを作るのだ
今日はハムと挽肉だ
サラダはレタスと卵

少女はパジャマ姿で
ふたりに飛びついた

母は、危ないわよと
カップをテーブルに
逃がすように置いた

そして少女をそっと
抱きしめた温かい腕

トーストにはジャム
それともチョコかい

父は2人を見つめる
口ひげにコーヒーの
湯気が似合う父親の
まなざしは限りなく
深く優しい、力強い

顔を洗ってきなさい
朝ご飯が冷めてるわ

母の慈愛に満ちた声

母に抱きついたまま
少女は母の胸の中で
ココアの香りのする
部屋の中で、泣いた

怖い夢を見ていたの
お父さんとお母さん
ふたりがいなくなる
そんな夢を見たのよ

お父さんは顔がない
お母さんの腕がない

誰もいない家の中で
ずっと泣いていたの

母の手は少女の髪を
そっと優しく撫でる
父はテーブル越しに
少女の頬に触れてた

冷たい、かたい感触

母は少女のココアに
マシュマロを入れる

焼けたオムレツの上
赤い線で絵を描いた
父の姿は消えていく

待って、待って、嫌

少女の叫びに両親は
悲しい微笑みで返す

少女は、泣きながら
目を覚ましたひとり

誰もいない白い壁の
部屋の中はつめたい
秋の空気で満ちてる

鏡のなか話しかける

いつもの朝の孤独を



【自己お題】TM NETWORK

「Human System」の歌詞を使って

少女は泣きながら目を覚ました
ひとりぼっちで
鏡に話しかけてる



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