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【これが愛というのなら】悪魔な美少女




「見た目は少女、心は少年」


望は小柄、華奢で、カラーもしてないのにさらさらの茶色の髪を持っていた。

大きな瞳はいつもきらきらしている。

「なぎさーん」

仕事で困ったことがあると、大声で私を呼ぶ。

私は医事課の嫌われ者だったので、私になつく望も巻き込まれるかもしれないと心配していたが、望はそのような事は気にしないようだった。

心の機微に疎いというより、「儚い美少女の見かけ」に反して、望の性格は男の子っぽかった。

「なぎさん!あの車珍しいですよ!!追っかけていいですか?」

「最近のロボットアニメのオススメはー」

「最近スカッシュ始めました!ランニングが大変」

守ってあげたくなるような見た目で、意外とアクティブ。

また、車は本当に大好きなようで、当時普通免許も取得してない私に延々と車の話をしてくるのはちょっと困った。

医事課の最古参、カルテ搬送係のリーダーががっちり守っているので、望に理恵は攻撃しにくいようだ。

望を私から切り離して、丸め込もうとした事もあったが、望はきょとんとした顔をして

「え?私そのお話よくわかりません」

と、理恵の誘いを断った。

悪魔座


私は残業が多く定時に上がれることは少なかったが、定時上がりの時は望がよく自宅まで送ってくれた。

望の家の前を通り越して40分ほどのドライブになってしまうので、何度も断ったが、

「私、車の運転好きなんです!」

そう言ってくれる。

好きな音楽やマンガの話。

仕事の愚痴はお互い言わなかったと思う。

ある日、望が

「この間読んだ本で、私『悪魔座』だったんですよ!」

と、唐突に言う。

「悪魔座?」

「なんか、闇の星座占いみたいな本がありまして。望は悪魔だったんです」

「ちょっと面白そう」

「本屋行きましょう!」

もうわが家は目の前だったが、望は躊躇なく引き返してその「闇の星座占い」を置いている本屋に連れて行ってくれた。

「ほら!」

どういう占いがベースになっているかよくわからないが、望は確かに『悪魔座』だった。

「意識しなくても、私が嫌いな人は勝手に不幸になるんですって」

はしゃいだ声で言うことではないような気もする。

「なぎさんは…盗賊座」

『その名の通り、関わる人からなにもかも奪う』

そんな事が書いてあったような気がする。

望があまりに楽しそうだから、私はその本を買ってプレゼントした。

「彼氏」


18歳の望には、23歳の彼氏がいた。

当時31歳の私から見たら23歳など小僧だが、18歳の望が彼氏のとこをとても好きで、甘えている様子は分かった。

「結婚したらー」

休憩室で話していた時いきなりそんなことを言うので、飲んでいたお茶を吹き出すかと思ったが、望は真剣だった。

「お付き合い=結婚」

そんな風に思っているらしい。

「まだ若いし、他に出会いあるかもよ?」

「でも、彼氏さんもトラウマあって、もう新しい恋をしたくないって」

23歳の恋愛のトラウマ。

21歳の時に付き合ってしまった彼氏に殴られ従わされ、その家族からも暴力を受け、妊娠した子供もその暴力と放置で流産して、7年間で600万円貢がされた私の話でもする?

言わなかったが。

「でも5歳年上って、なに話すの?」

その場にいた別の子が話しかける。

「なんかなー?彼氏さんは仕事が大変そうです」

聞くと、私が知っている企業の課長クラスの人だった。

「あそこは若い人に大きな仕事を振るから、やりがいはあるあろうね」

「はい」

望はにこにこしていた。

「年上」「仕事が出来る」「甘やかしてくれる」。

望が彼氏に求めることは、これだった。

ちょっとだけ、恋愛観歪んでるかも。

そして、それは私に似ている。

13歳年下の望に、さらに興味がわいた瞬間だった。

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