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かみさまへ

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2年前に書いた小説です。 加筆しながら改めて投稿してみようと思いました。
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2019年4月の記事一覧

かみさまへ8

かみさまへ8

「記憶なんて本当にあいまいなものだね。」智弘が言う。

「何?急に」

「んー例えばさ、一年生の時の担任の寺本先生について 覚えてることって何?」

「そうだなぁ。なんか怖かったかなぁ。声が大きくて はきはきしていて。でも結構好きだったのかも。先生のおうちに遊びに言った記憶があるもん。」

「俺は 面倒見のいいおせっかいなおばちゃんだなって感じ。でもこれはきっと一年生の俺が感じたことではなく 今の

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かみさまへ9

かみさまへ9

「あいつ何本気で歌ってんの?」

「おっかしいのー。」

 一年遅れで学校に入学したミキは クラスの中でも目立つ存在だった。

なぜかは知らないがらこのくらいの頃からミキはわたしのことを もとちゃんから もとこちゃんと呼ぶ様になった。

中途半端が嫌いな彼女は何事にも全力で挑む。曲がったことが嫌いで、遊びにも全開の力を使う。いつでも生きてることに真剣なのだ。
 
 そんなミキをやっかみ、いろい

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かみさまへ10

かみさまへ10

 相変わらずきれいに整えられた庭。

 小さな花壇には季節ごとに花を咲かせる植物が植えられて 
洗濯物はそで口までパリッと気持ちよく干され、
窓はサッシまで磨かれている。

 お母さんの仕事はやっぱり隅々まで風通しがいいなぁと思う。
小さい頃から当たり前にあった風景。
 丁寧で角までしんとしていて 少し強くそして優しくて
見る人もしゃんとさせるこの風景を守るためにお母さんはどれだけの時間を使ってき

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かみさまへ11

かみさまへ11

夢を見て泣いた。

涙がこぼれたのに気付いて起きた。

真夜中。

なんて強烈な夢だったのだろう。

まだ鼓動が早い。

子どもたちが二人とも学校に上がっていなかった寒い夜。

私は死んだのだ。

もちろん実際には死んではいない。それくらい鮮明にリアルに自分が死んだ世界を体験したのだ。どんなふうに死んだのかはよく覚えていない。なにかの病気だったような気がする。

病院のベッド。
智弘と舞花と瑞木に

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かみさまへ12

かみさまへ12

かみさまへ

わたしは どうしたらやさしいにんげんでいられるでしょうか?

この世での いのちを終えて あの世に戻った魂たちは 

こぞって

「あの’切ない’って感情は何とも言えないね。」

「ここじゃ絶対に体験できない感情だ。」

「本当に。切ないってやつは最高だった。」

と 地球での切なさ体験が
どれだけ素晴らしいものだったかを語り合うそうですね。

わたしは 天国に還ったときに 
みんな

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かみさまへ13

かみさまへ13

 なかなか赤ちゃんを授からなかった智弘とわたしは、夫婦だけの毎日でも、仕事も遊びもそれなりに楽しくて問題なく過ごしていた。それに、あの頃のわたしはもう自分が妊娠するなんて想像もできなかったし 自分に子育てが出来るなんてふうに ちっとも思ってもいなかった。

 自分を労わるなんてこともしたくなかったし、肉体も精神も酷使してなんぼと思ってたし、人とうまくやることだけにエネルギーを使っていたので 妊娠し

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かみさまへ14

かみさまへ14

休みの日は家から出たくないと言い、
こたつに入りゴロゴロとしていた舞花に

「ママ、今週忙しくて二人とあまり一緒にいてあげられないね。さみしい?」
と聞いてみた。

「いつも、あんまりいないじゃん。」

ショックだった。
子どもたちとはなるべく一緒にいてあげようと思ってきたし、
仕事も遊びも子どものいる時間は避けるようにしてきたはずだった。

これじゃまるでお母さんと一緒だ。

同じ空間にいるのに

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