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小説 再会

 夕暮れ、マンションに戻ってくると、ドアの前に元カノの葵が居た。私はびっくりして、スーパーの買い物が入ったエコバッグをどさっと落とした。

「葵……ど、どうして……」

「ごめんね、びっくりさせて。どうしても会いたくて、来ちゃった」

「来ちゃった、って……」

 葵はそんなことをするような子ではなかった。それとも、私が葵のことを見誤っていただけなんだろうか。家に上げるのも危険ではないかと思うけれど、あまり刺激してもいけないのかもしれない。

 私が自然な風を装って「まあ、上がれば」と告げると、葵は小さく

「良かった。もし断られたらどうしようかと思ったの」と言い、顔をそむけた。

 付き合っていた頃なら、ここで赤く染めていたであろう葵の頬は、しかし陶器のように青白い。

「何か……飲む?」

「ううん、飲むとあまり良くないみたいだから、やめとく」

「そっか」

 二人ともぎこちない。当然だ。だって葵は一昨日交通事故で死んだのだから。私は自分の呼吸音が大きくなりすぎていないか気にしてしまう。臭いを嗅がれていると、葵に思われたくない。しかし何か処理を施されているのか、あるいはまだその時期ではないのか、葵の体からは何も臭わないどころか、ふんわりと花の匂いさえしている。

「あのね……急にあんなことになって、本当にごめんね」

「うん……」

「うんとね、落ち込んでるかもしれないなと思って……」

 葵はいつも以上に、言葉をえらびえらび喋っているようだった。私には分かる。葵はきっと、自分のせいで私が落ち込んでいるかもしれないなんて、おこがましくて言えないのだ。それでもどうしても心配になって、いてもたってもいられなかったのだろう。でも、葵は即死だったと聞いている。ゾンビ化は、きっと本人の意思ではない。


「……そうだよ。なんで死んじゃったんだよ」


 私達は喧嘩の真っ最中だった。仲直りするつもりだったんだ。一緒に人生を歩むなら君だと思っていた。これまで散々君のことを傷付けてきた私が言えたものではないが、君のことを、自分の人生から完全に弾くつもりなんてなかった。

「うん……ごめん……」


 長い沈黙。どこかから、虫の声が入り込んでくる。


「きみは私のこと、忘れて幸せになって」

 葵は鞄から果物ナイフを取り出し、平然とした顔で二の腕の肉をさくりと切り取った。


「でもね、最後にわたしのこと食べて。大丈夫、ほんのちょっとくらい、食べても構わないみたいだから」


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