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書評 消失の惑星

 カムチャツカ半島である姉妹が事件に巻き込まれた、らしい。

 双子について述べられた短い第一章からはじまり、カムチャツカ半島の人々の暮らし、先住民族と白人との壊し難い壁、自分達の言語やアイデンティティを疎ましく思ったり、従来の人間関係に引き戻されて、それでもこれでいいと思ったりする若者たちが描かれる。

 最初は、これは何の話だろう、と戸惑った。サスペンスなのかもしれないが、サスペンスっぽくない。読み進めるうちに、そういう作品かと分かる。こういう速度の日本語の作品は、日本じゃウケなくなっているのかなと思ったりもする。

 文学は辺境に新しいものを求める。これはそのお手本のような本だと思う。最近私はロスト・テクノロジーという考えに惹かれているのだけど、これはロスト・カルチャーかな。冒頭の少女だけでなく、何もかもが消え去っていく土地についての質感が文章から読み取れて魅力的だった。

 著者はこの地の出身ではなく、アメリカ出身でロシア研究をしてきた人だそう。少し前に、誰か作家の対談で、震災について、東北出身者以外が、現地での被災経験がないのに書くのは騙しだ、詐欺だと読者に言われかねない風潮だ、みたいなことを読んだ。この文章からは著者の出自が読み取れなかった(もっとも、ロシアの現地の人が読めば、作り物くさいと思うのかもしれないが)。この作品にも、噛みつく人は噛みつくのかなということを思った。

 noteで試しよみできます。私がこの作品を知ったのはこの記事からです。


 追記 既存の作品に赤を入れてみるというトレーニング方法が面白そう。元がいいので、自分の浅知恵でひとついじるとどんどん瓦解していくことを一度は経験してみるとグッと伸びるのだとか。早速やってみたいけど、どの作品がいいかな。もし瓦解に気付かなかったらどうしよう(笑)

 

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