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ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート -マエストロ・ムーティのスピーチ 書き起こし-

その音源が手に入ったことで、マエストロの感動的なスピーチの全貌を見てみようという試みです。

世界一有名なニューイヤー・コンサートといえるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートですが、今年は異例の無観客で開催されました。そのコンサートの中で指揮者リッカルド・ムーティさんが感動的なスピーチをされ、コロナ禍の今、音楽が社会で果たす重要な役割についてのメッセージを世界中に発信しました(オーストリアでは視聴率54%だったとか!)。筆者もそれを聞いて心を打たれ、また多くの音楽家や音楽ファンが感動のツイートをするのを目にしました。

そんな折、そのスピーチまでもがApple Musicにアップされていたのを見つけて(後日発売するCDにも入っているようす)この感動を共有したいと思い、書き起こしをしてみました。CD(音源)が公演からほんの1週間で全世界に配信されるのは、これもまた異例なことのようです。

スピーチ音源

日本でも生中継されたテレビ放送では同時通訳され、今はネット上で素晴らしい日本語訳を見ることができます。筆者はその後ろに聞こえていた英語でのスピーチを一言一句聞いてみようと思ったこと、そして自身のライティングの良い練習になると思ったことがきっかけで記事を書いています。聞こえた言葉を文法的正しさより口語的だとしてもそのまま生かしたいというスタンスで書いているため、筆者の怪しい文法力も含めた不思議な表現などもありますが、どうぞお付き合いください。


スピーチ原文

We are playing this new year's concert in a very unusual situation. We know that we are playing for many millions of people around the world, practically more than 90 different countries. But it's very strange for us to play in such a beautiful historical hall completely empty. But the orchestra played wonderfully not only because they wanted to convey to you the message of music, but because always Wiener Philharmoniker are surrounded by the sprits of Brahms, Bruckner, Mahler that are in this hall and many other composers and interpreters in this hall made history. They feel all just about the fact that, of course, we all had very very difficult year, actually (※) in Latin I would say. But we are still here believing in the message of music. 
Musicians have their weapons - flowers - not things that kill. We bring joy, hope, peace, brotherhood, Love - with capital L. So music is important not because it's entertainment, many time we see very well, musician is considered as entertainer. Music is not only profession but it is a mission. That is why we do this work. So mission for what? To make the society better, to think about new generation that one complete year has been deprived from deep thinking. Thinking all the time about health. Health is the first, most important thing but also the health of mind. Music helps. So my message to the governors, presidents, and prime ministers everywhere in every part of the world consider culture always as one of the primary elements to have better society in the future. 
With this message, we will now play famous "blauer Donau" and I hope that on the waves of this beautiful music full of joy, sadness, and life in that. We can hope for better year. This is why I would like to ask all my colleagues here to say happy new year in their wonderful language. So I would say,
From Wiener Philharmoniker,(※2)! 
Grazie

※ 英語の"tremendous"に近いようなラテン語を2つ挙げていました
※2 ドイツ語であけましておめでとうと言ったと思われます

日本語訳

私たちはここにいて、音楽が運んでくれるメッセージを信じて演奏しています。音楽家には武器があります。これは人を殺さない、音楽という武器です。音楽は喜びや希望、平和、兄弟愛、そして何よりも愛をみなさんに届けることができます。

私たち音楽家にとって、音楽は仕事ではなく、使命なのです。その使命を伝えるために音楽家は働いているのです。では何の使命か?それはこの社会をより良いものにする、という使命です。

新しい世代の若者にとってこの1年は、物事を深く考えられないままに過ぎてしまいました。自分の健康のことを始終考えていなければならなかったからです。身体の健康は大切ですが、精神の健康も同じくらいに大切です。音楽はその精神を健康に保つのに必要なのです。

世界中の知事、大統領、首相のみなさん、将来社会をよくするためには、音楽という文化が欠かすことができない要素であるという点をどうかお考え下さい。この思いを込めて『美しく青きドナウ』を演奏いたします。この美しい曲の音の波の中に、喜びと悲しみが、生と死がいっぱいに詰まっていることをお聴きください。

ウィーン・フィルからみなさまへ、あけましておめでとうございます!

ありがとうございました。

                  (BARKS 2020年1月8日

美しく青きドナウのメッセージ

テレビ放送のキャプションで説明されていた曲の背景も書いてみます。演奏にはマエストロの熱い想いがこもっていて、さらに観客を勇気づける曲のメッセージに魂が揺さぶられます。筆者はこの後30分ほど涙していました(泣きすぎ?)

もともとは戦争に敗れ、うちひしがれた人々のためにヨハン・シュトラウスが書いた合唱曲だった。「ウィーンっ子よ 楽しく過ごせ」という歌詞で人々を力づけたこのワルツ。今ではオーストリアの「第2の国歌」と呼ばれ愛されている。

音源はこちら

最後に

困難な中の2度とないかもしれない(ないと願いたい)無観客でのコンサート、そしてこの感動的なスピーチにより、2021年のニューイヤー・コンサートは歴史的なものになったと思われます。コンサートにスピーチが入ることも異例だった上、そのままCDになるのは珍しいことですよね。

世界中に生放送された場でこのスピーチをするマエストロは、勇敢で頼りがいがあり、市民革命のリーダーかのように見えました。そんな風に芸術家が導く社会があるのならきっと平和で幸福感に溢れ、また特に言語を必要としない器楽などは世界のボーダーも容易に越えて、争いも減ることでしょう。人間にとって価値のあるものが変わって欲しい、そんな社会を生きたいと願ってしまいます。

加えて個人的に、改めて同時通訳や翻訳の凄さを目の当たりにして、お正月から背筋が伸びる思いです。やっぱりプロは凄い…。




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