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ウクライナにいる同僚達のこと

私の働いている会社では、海外で働くチームがいくつかある。ウクライナもその一つだ。16人のエンジニアが社内ツールの開発とQAに従事している。私も日常的に何人かの同僚と連絡し合っている。

そのためロシアのウクライナ侵攻からここ1ヶ月、心のざわつきが止まらない。それは社の幹部や同僚も同じことだ。

初期の頃は、ウクライナの同僚達も「なるようにしかならない」という感じで落ち着いていた。”兄弟国”のようなウクライナの人々を傷つけることはない、国内を荒廃させてもロシアには何の得にもならない、という楽観があったように思う。しかし、大方の予想を裏切り戦況が長引くにつれ、現地のチームも本社のメンバーにも緊迫感が増してきた。

毎日、16人の安否がチェックされるようになった。緊急の資金支援のためにウクライナチーム全員に会社のクレジットカードが配られ、人事部はウクライナ支援のための寄付サイトを連日紹介した。CEOは「我々は、ウクライナとともに立つ」と宣言し、「家族を含めた国外避難、ビザサポート等、できる限りの支援を続ける」と約束した。

ウクライナチームの殆どは男性で、首都のキエフかポーランド寄りの西部の都市に居住している。リビウというポーランド国境に近い都市に住む同僚Nに状況を聞くと、3月上旬には「家族で田舎に避難した」、中旬には「僕はまだリビウにいるが、家族はポーランドに避難した」と言った。幸い食料や水、インターネット環境は途切れず一応安全ということだ。ただ、彼は20代後半なので、他国に避難することはできない(2月24日に発令された国民動員令で、18歳から60歳までの男性は出国できない)。

フメリニツキーという西部の都市にいた同僚は、たまたま疾病治療で滞在していたベルリンに足止めされている。「今は、そこに居て。戻って来ないで」という私に対し、彼女は「そうするつもりだが、ウクライナの家からそう遠くない空港が爆撃された」と言い、夫と二匹の猫を残してきたことを心配していた。

3月の4週目に開かれた全社集会で、CTOが「ウクライナチームの16人のうち現在7人がウクライナ国外に避難した。国内にいる9人の無事も確認している。16人ともこんな状況の中でも通常勤務(一日8時間)を続けている」と言った。

「こんな状況で...、フルタイム勤務??」と驚く社員達に、「こちらは、(給料の保証はするので)自由に休んでいいと告げたのだが、本人達がそうしたいと言っている。その方が気が紛れるらしい」とCTOが答えた。こんな状況で、インターネットへのアクセスがまだあり、通常通りに(?)働いているということが、あまりに奇異で驚いた。毎日自国が爆撃、侵略され、被害が拡大していく様子を見ているだろうに... そんな中で”敢えて”仕事を続ける彼らの心情を思うと胸が塞ぐ思いがする。

国際政治学を齧ったことのある筆者は、「こんなことが21世紀の今、現実に起こっているのか」と今でも信じられない思いだ。この侵攻でプーチンは何を得ようとしているのか?プーチンは長い間「”合理的”で怜悧な計算をする政治家」ではなかったのか。自分の政治生命の最後に「(実利を無視しても)偉大な帝国を取り戻した男」というレジェンドとなろうとしているのか…。

アメリカにいて、対岸の火事を眺めているような自分の無力さが情けない。しかし、筆者にできることは、寄付をすることとウクライナの同僚とそのご家族の安寧を祈ることだけだ。幸い、会社の方針には希望が見える。先日の全社会議の匿名Q&Aコーナーで「このまま戦況が膠着状態になったらどうするのか」という質問に幹部はきっぱりと答えた。「これからも、できる限りの支援を継続する。幸いウクライナにいるのは16人であり、160人ではない。会社が自由裁量でできることは沢山ある。我々は、彼らとともに立っている(We stand with our colleagues in Ukraine)。


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