宇佐見りん『推し、燃ゆ』
第164回芥川賞受賞の話題作です。私自身、絶賛推し活中ということもあり(笑)、ずっと気になっていた作品で、やっと手に取ることができました。(ネタバレありです。)
作品紹介では、
とあったので、いわゆる「推し活」の話で、タイトルの「燃ゆ」は推しが炎上することを指しているのだとばかり思って読み始めたのですが、読み進めば読み進むほど、そう簡単ではないかも……、と用心することになりました。
というのも、主人公の高校生あかりの印象がどんどん変わっていったからです。当初、「推しを愛でる会」の中で「落ち着いたしっかり者というイメージ」で登場するので、
という彼女を、内省的な人物なのだろう、くらいに捉えていたのですが、どうやら、発達障害を抱えていて、現実的に「何気ない生活もままならない」状態であることが分かってきます。そして、学校も中退することになった彼女にとっての推しは、
まさに唯一の自己の存在意義とでもいうべき深刻性を持つものとなっていくのです。
しかし、物語は彼女に推しに「注ぎ込み続ける」ことを許してはくれません。炎上後の推しは引退し、一般人となってしまうのです。
結末に用意された、「人」となった推しを確認しに行くエピソードこそが、まさに、彼女が自分の「背骨」であった「推し」と決別する(=火葬する=推し、燃ゆ)行為だと理解しました。彼女にとっては、「大人になんかなりたくない」ピーターパンそのものであった推し。その推しを燃やすことで、彼女自身、ピーターパンの世界から飛び出し、大人になることを選んだのでしょう。まだまだ「人間の最低限度の生活が、ままならない」彼女ですが、逃げるのではなく、「これがあたしの生きる姿勢」だと認めることで、「長い道のり」をスタートさせたのです。