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松竹1975年「スプーン一杯の幸せ」(お題「映画感想文」より)

NHK「あまちゃん」でオマージュされた山口百恵主演「潮騒」(東宝1975年)との対決が話題になったことをご存じですか? 私が「生まれて初めて」「一人で」「映画館に入って」見た映画です。

「スプーン一杯の幸せ」と「潮騒」は、共に1975年のゴールデンウィーク向け作品として4月26日の土曜日に封切られました。

1.近代映画1975.6臨時増刊うら表紙1.39MB - コピー

2.近代映画ハロー1976夏号1.13MB - コピー

当時の私は桜田淳子(歌手や俳優など著名人の敬称は略します)のファンでした。熱烈な・・・と形容するにはほど遠いものの、桜田淳子の初主演映画はなんとか見たいなと思っていたので、公開を楽しみにしていたものです。

今となれば伝説のスター山口百恵をデビュー当時から知っているという方でないと、山口百恵のライバルだった時代の桜田淳子はご存じないでしょう。山口百恵主演の「潮騒」はNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年度上半期)にオマージュされ、さまざまな場面に登場するほど現在でも語りつがれていますが、桜田淳子主演の「スプーン一杯の幸せ」はその後あまり話題にならないまま埋没し、現在にいたっています。ですが、当時は山口百恵と桜田淳子がトップアイドルとして覇を競うかのようなデッドヒートを重ねており、この二本の映画においても、公開前は必ず並べて対戦ムードを盛りたてながら紹介されていたものです。

3.「大時刻表 」1975.4話のサロン640KB - コピー

当時私は機会を得て「スプーン一杯の幸せ」を見たのですが、正直あまり面白いとは思えませんでした。

この「スプーン一杯の幸せ」では主演の桜田淳子が高校のバトミントン部員という設定のため、ミニスカートのスポーツウェア姿にドキドキしたり、ラスト近くに海岸で朝日を浴びながら失恋のキズを癒す場面に感動したりと、それなりに楽しんで鑑賞しました。特に桜田淳子が海からのぼる朝日に向かって「お母さんのバカ~ッ、先生のバカ~ッ、」と怒鳴って失恋の痛手を吹っ切るシーン、私は好きです。

しかし、映画作品としてはどうでしょうか?

桜田淳子は実年齢で17歳になるかならないかというあたり、その桜田淳子演じる高校生が心惹かれる青年教師を演じるのは黒沢年男で、このとき31歳です。その黒沢年男演じる教師が求婚する相手は、桜田淳子演じる高校生の母親の浜木綿子で40歳でした。現実社会の中ではどんな年齢同士の恋愛も否定されるべきものではありませんが、これはアイドル映画です。この年齢設定に、思春期の私はポカンとしてしまいました。

「スプーン一杯の幸せ」は、当時文化放送の人気アナウンサーから作家に転身したばかりの落合恵子が著したエッセイ、詞、短編小説をまとめた人気書籍が原作となっているものの、事実上のオリジナル脚本です。だから年齢構成など、どうにでもなったはずです。桜田淳子が恋して失恋する相手がひと回り以上年上であり、その恋敵が自分の母親だという設定は、もう少し桜田淳子ファンの年齢層を考えてマイルドにできなかったものでしょうか。

作品の中では佐藤佑介はじめ同年代の男優数人が桜田淳子を取り巻いているのですが、桜田淳子はその誰にも恋愛感情をいだかず、最後は元気よく部活動のランニングをする姿をカメラが追って作品は終わります。つまりヒロインの桜田淳子は同年代の男の子など眼中にないわけで、これでは入場料を払ってスクリーンの前にいる男子中高生のファンは救われません。

まぁ桜田淳子ご本人は同じ芸能事務所の森田健作(当時25歳)のファンだったそうですし、山口百恵のご主人となった三浦友和も当時23歳とずいぶん年上ですから、女子高校生ともなれば同年代よりも大人の男性に惹かれることが現実には多いのでしょうけど・・・。

そうした年齢構成を無視すれば、この作品は、当時トップアイドルとして山口百恵と覇を競いあった桜田淳子の魅力をいかんなく見せてくれる作品だったと思います。「スプーン一杯の幸せ」はDVD化されていないようですが、数年前にCS放送(衛星劇場)で放映されていました。視聴できる機会は限られてしまいますが、山口百恵の「潮騒」をご覧になった方は、機会あればライバルの主演作として見比べていただきたい作品です。

※この先も続きます。お時間あればおつきあいください。

今回「スプーン一杯の幸せ」についての映画感想文を書くにあたり、長年疑問に思っていたことを調べてみました。疑問点は以下の項目です。

1. 「スプーン一杯の幸せ」と「潮騒」との対決について、映画の専門家は
  どうみていたのか?
2. 「スプーン一杯の幸せ」の評価はどうだったのか?
3. 「スプーン一杯の幸せ」の興行成績はどうだったのか?

いずれもキネマ旬報のバックナンバーに、その答えがありました。
まず1.の公開前の評価については、のちにキネマ旬報の編集長となる黒井和男が書いたコラムに記述があります。

4.キネマ旬報1975.5上1.23MB - コピー

一読しておわかりのとおり、1960年代の映画黄金期を知るベテラン映画評論家の目から見れば、テレビから出たアイドルが主演するヤング向け映画への期待というのは、作品の質をとやかく言うものではないというひと言にあらわれています。それでも山口百恵と桜田淳子の激突は業界内部でも話題になっていたのは、やはり事実のようです。また、激突の結果山口百恵の勝利を予測して的中させるあたり、さすがです。

2.を飛ばして3.の興行成績ですが、勝敗だけはWikipediaでわかります。1975年邦画配給収入トップテンで「潮騒」は5億0200万円で第6位であるのに対し、「スプーン一杯の幸せ」はトップテンの圏外ですから、興行成績は「潮騒」がリードしたのは間違いありません。
あとはどのくらいの差があったのかですが、これはWikipediaの出典となった「キネマ旬報1975年5月上旬号」に会社別のトップ6が掲載されており、それによれば「スプーン一杯の幸せ」は興行収入3億2000万円で松竹の第4位、三社総合では13位となっています。

5.キネマ旬報1976.2下p117 541KB - コピー

順位はともかく、この「潮騒」5億と「スプーン一杯の幸せ」3億ちょっとという金額は、両社それぞれ期待した数字はクリアしていたのか、そうではないのか、気になります。

また、2億円弱の差というものが大きいのか小さいのか、私にはよくわかりません。しかしパーセンテージを計算すれば、単純計算で「スプーン一杯の幸せ」は「潮騒」の約64%ですから、併映作品の影響もあるにせよ、結構大きな差であったのではないでしょうか。これは映画公開時の山口百恵と桜田淳子の人気の差とは大きく異なると思いますので、ほかに要因があるはずです。

そこで2.の批評ですが、これも当時25歳の宇田川幸洋が執筆していました。

6.キネマ旬報1975.7上577KB - コピー

6.キネマ旬報1975.7上p178 644KB - コピー

思春期の私はこれでもじゅうぶん桜田淳子の魅力をくみ取って帰ったものですが、今の年齢になって読むと、「作者には少女美を愛でるイヤラシイ視線に欠ける」という指摘には、確かにと納得させられるものがあります。

7.近代映画1975.6臨時増刊グビア2.42MB - コピー

逆に「潮騒」の作者は、山口百恵に対して原作に沿って早朝の水汲みで男に襲わせたり、吹き替えながら海女仲間に胸をさらけ出させたり、とどめは有名な監的哨跡における焚火を前にしての三浦友和とのやりとりがありました。ここが黒井和男言うところの「伊豆の踊子より脱ぐ」とされたシーンなのかもしれませんが、このように「潮騒」には作者による少女美を愛でるイヤラシイ視線が豊富だったように思います。

もっともデビュー当初から青い性路線をつき進んでいた山口百恵と異なり、桜田淳子はこの時期もまだ天使路線の延長線上にありました。しかもデビュー後のレコード売上枚数は、ほとんどの時期で山口百恵の後塵を拝していましたが、天使路線から脱線しないまま1974年12月の「はじめての出来事」(淳子)では「冬の色」(百恵)と肩を並べて40万枚以上を売り、以後しばらく桜田淳子がリードします。

つまり「スプーン一杯の幸せ」の制作時点では、まだ天使路線でいくしかなかったのでしょう。「潮騒」の山口百恵は、焚き火を飛び越えてきた三浦友和とズブ濡れの下着姿で抱きあいますが、桜田淳子にはとてもそこまでさせられず、せいぜいスポーツウェアの短いスカートの裾をゆらし、「先生ッ」と泣きながら抱きつくのが関の山だったのだと思います。(あくまでも想像です!)

しかし、それであればなおさら前段に書いたように、桜田淳子が好意を寄せる相手を同年代にしておかないと、天使路線が成り立たないように思えます。もしかすると批評のとおり黒沢年男が桜田淳子に心惹かれず子供扱いすることで天使路線を成立させているのかもしれませんが、桜田淳子がひと回り近く年上好みというのは、ずいぶん大胆な設定にしたものだと思います。

桜田淳子のシングルレコードは「スプーン一杯の幸せ」の公開後の6月5日に「十七の夏」を発売し、8月25日に「天使のくちびる」を発売します。この天使路線の曲のイメージと、ひと回り以上年上の男性に思いを寄せるというのが、どうしても結びつかないのです。

・十七の夏
http://music.oricon.co.jp/php/lyrics/LyricsDisp.php?music=40557&ref_cd=PC1001
・天使のくちびる
http://music.oricon.co.jp/php/lyrics/LyricsDisp.php?music=66043&ref_cd=PC1001

「スプーン一杯の幸せ」の公開後も上記2曲のような路線で行くつもりであったなら、やはり思いを寄せる相手役は同年代の少年であり、最後に失恋するのであれば、その恋敵は自分の母親ではなく、青い性路線が似合う積極的な少女・・・というのが、おさまりが良いと思うのです。

私が企画担当者だったらそうしたのになぁ・・・と、いまさらながら思います。ホントいまさらですが。。。

#映画感想文 #映画 #ネタバレ #スプーン一杯の幸せ #桜田淳子 #潮騒 #山口百恵 #秋田

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