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【第1回】授業で学生の注意(関心)を引き出すには?① 3つのヒント

~教育学者から、看護教員へ~

 今回は、学習意欲を高めるための4つのカテゴリーの1つ目、「Attention(注意)」がテーマです。

 注意という言葉には、色々な意味が含まれています。例えば、興味、関心、好奇心、覚醒、集中などです。授業の導入で学生を引き込むにはどうしたらいいだろうか?、授業を展開しているときに学生の集中力をきらさないようにするためにはどうしたらいいだろうか?、もっと学生がイキイキと授業で学ぶようになるにはどう工夫したらいいだろうか?と思い悩まれる先生も多いのではないでしょうか。
 学習意欲を高めるARCSモデルが示す「Attention(注意)」は、以下の3つのヒントを与えてくれます。

ヒント1「知覚的に興味を引き出す」
ヒント2「探求心を喚起する」
ヒント3「授業に変化をつける」

 これらのヒントは、実際の授業にどのように生かせるでしょうか。1つ1つ解説していきましょう。

ヒント1「知覚的に興味を引き出す」

 ”知覚的に”ということは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などのいわゆる五感に働きかけて、興味を引き出せないか?と考えることになります。

 例えば、視覚です。学生に見せたり、配布しているレジュメや資料は、まさに視覚に訴えかけるものです。その中でも、一番最初に目に入ってくるものが「タイトル」です。

 この記事のタイトルは「看護の授業で学生の学習意欲を高める12のヒント」でした。これが「看護教育におけるARCSモデルの有用性に関する一考察」や「看護学における講義と学習意欲の関係」だったら、どのように感じるでしょうか。一番、読んでみたいなと思えるタイトルはどれでしょうか。(もしかすると、もっと読みたくなるようなグッドタイトルを思いつかれた人もいるかもしれません)

 では、学生に配布している資料やスライドのタイトルは、どうなっているでしょうか。「第1回」「看護学概論」などで終わっていないでしょうか。わかりやすさは重要ですが、「おっ」と学生が思えそうなサブタイトルをつけてみてはどうでしょうか。

 他にも、視覚上の工夫は沢山できます。フォントサイズを工夫したり、色をつけたり、写真やイラストをつけることも大事な工夫です。恥ずかしいかもしれませんが、板書として絵を黒板(ホワイトボード)に書いても良いでしょう。「先生、へたくそ~」と笑われるかもしれませんが、学生の注意は惹きつけられ、また記憶にも残りやすくなるでしょう。

 次に「聴覚」はどうでしょうか。先生は、声に”抑揚”をつけることを意識していますか?大きな声、小さな声、高い声、低い声、ゆっくりとしたスピード、早口!これらを上手く組み合わせることで、学生は教員の話にのめりこんでいくでしょう。
 ””も有効です。大事なキーワードの前後に適度な間を持たせることで、そのキーワードが大事だと印象づけることができます。あえて沈黙の時間を作って学生の注意を惹きつけてから話し始める先生は、まさに無音を生かして意欲を引き出しているといえます。

 「味覚」「嗅覚」「触覚」は講義科目で扱うことが難しいものですが、演習や実習では学習意欲向上に役立っていることでしょう。実物をさわってみる、ロールプレイをしてみる、現場に行ってみるという体験を伴う学びは意欲につながりやすいものです。講義科目だから無理と思わず、講義のなかでもちょっとした実物に触れさせたり、簡単なロールプレイをさせたり、授業外で何か体験してくるような課題を出すという工夫もありえるでしょう。

ヒント2「探求心を喚起する」

 探求心と聞くと、難しそうで、時間がかかりそうと思われるかもしれません。もっと単純に、探求心の出発点となるものは何か?と考えてみてください。

 その1つは、疑問です。これはどういう意味?なぜこうなる?どうすればいい?などです。たとえば、授業の予習課題として、「教科書●ページ~●ページを読んで、疑問に思ったことを1つ以上提出してください」など、事前に学生の疑問(質問)を集め、その疑問に答えながら授業を進めていくというのも方法です。

 しかし、いきなり疑問(質問)を考えろと言われても学生は困ってしまうかもしれません。そこで、日々の授業の中で教員から学生に積極的に発問してみてはいかがでしょうか。誰もが答えやすいような単純な発問、ちょっと考えないと答えられないような発問、答えるのに知識が必要な発問など、いろいろな発問を投げかけます。
 本来の発問の意図は、学生自身に回答を考えさせることにありますが、発問のもう1つの意図として「問い方を学ぶトレーニングにもなる」と学生に伝えると良いでしょう。子どもたちがそうであるように、沢山の疑問を持てる人は、良く学べる人です。「先生の発問から、どのように問えばより良く学べるかを学んでほしい」と伝えながら発問していけば、その後事前課題で出てくる問いの量や質が改善されていくでしょう。

 探求心のもう1つの出発点は、自己決定です。人に言われたからやるというのではなく、自分で選んだという自己決定が意欲につながります。
 学生自身にレポートのテーマや試験問題を学生自身に考えさせるのもよいでしょう。しかし、自由と言われると逆に困ってしまう学生も多いでしょう。教員からしても、「こんなはずじゃなかった」という成果物を見ることになってしまうかもしれません。
 そこで完全に自由にやらせるのではなく、いくつかの選択肢を提供し、そこから選んでもらうのはどうでしょうか。たとえば、課題やレポートを課すにも、複数のお題を提示して、その中から自分がやりたいものを選んで達成するというようにしても良いでしょう。

ヒント3「授業に変化をつける」

 誰しも変化のない単調な話は聞き飽きてしまいます。人間が深く集中できる時間は15分、集中できる限界時間は90分ともいわれます。遠隔授業対応のために授業動画を作る際も、90分1本の動画より、15分×6本程度の動画の方が学びやすいという声が聞かれました。どのように授業に変化をつければ、学生の集中力を維持できるでしょうか。

 1つは、内容に変化をつけることです。たとえば教科書を説明するだけであれば、単調になってしまいます。そこで、教科書の内容を補足すべく、それに関連する最近のニュースや、最新の研究知見、教員の体験談や、先輩の事例などを加えてみてはどうでしょうか。学生にとっては集中力を維持できるだけでなく、教科書の内容の意味や意義を理解する手助けにもなるでしょう。

 もう1つは、方法に変化をつけることです。ずっと教員が話しているだけでなく、教員から学生に発問し、それについて個人で考えたり、書いたり、学生同士で話したり、クラス全体に向けて発表してもらったり、あるいは問題を解いてもらうといったこともできるでしょう。長時間の講義になってしまう時は、2、3分の休憩時間(ストレッチをする等)でも構いません。「聞く」ということ以外の学習活動を、授業のどのタイミングで、どの程度の時間取り入れることが最も効果的か、考えてみてください。

次回は…

 今日ご紹介した3つのヒントを元に、看護教員の先生方に「(無意識に)できていること」、「質問」、「これからやってみたいと思うこと」について書いていただきます。きっと、読者の皆さんに近い立場から、事例を共有していただいたり、率直な疑問をなげかけていただけることと思います。お楽しみに!

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