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こんにちは鎌倉文華館鶴岡ミュージアム

改修後の鎌倉文華館鶴岡ミュージアムに先日行ってきました。2019年4-5月に建築公開のイベントがありましたが、当時は行けなかったのでやっと念願が叶いました。
前回訪れたのが丸5年前でして、その時は改修前でした。好きな建物の一つなので自分の備忘録のためにも、当時の写真と一緒に振り返ってみます。
また、記事中の改修の詳しい情報はミュージアムが公式で出している書籍『新しい時代の始まり』から引用しています。(確か2000円前後だったのでお買い得!)

書籍『新しい時代の始まり』/編集・発行:鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム/2019年4月1日発行

1.概要

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写真:鎌倉文華館鶴岡ミュージアム
公式HP https://tsurugaokamuseum.jp/

鎌倉文華館鶴岡ミュージアムですが、2019年3月に改修竣工した鶴岡八幡宮の敷地内にあるミュージアムです。改修前は愛称:鎌近で親しまれる神奈川県立近代美術館鎌倉館でした。
元々鶴岡八幡宮の一部を神奈川県から賃貸借して1951年に建設された美術館でしたが、期間満了時には土地を更地にして返還することとなっていました。しかし、保存継承が望まれる意見が多い中、継続利用についての計画が始まりました。
当時の美術品は葉山別館に移設され、現在はミュージアムとしての機能になっています。

■改修前
神奈川県立近代美術館
延床:1575㎡
構造:鉄骨造
階数:地上2階建
設計:坂倉準三
施工:馬淵建設(株)
竣工:1951年10月
■改修後
鎌倉文華館鶴岡ミュージアム
延床:1577.69㎡
改修設計:(株)丹青研究所
設計協力:(株)坂倉建築研究所
施工:(株)竹中工務店
改修竣工:2019年3月

2.改修前後を写真で振り返ってみた

※何度か改修されていますが、ここで「改修前」としているのは2015年時点のことです

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改修前(建屋全景)
写真中央が1951年に竣工した本館。右手(本館東)が1966年に本館と渡り廊下で接続され、増築された建屋。

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改修後(建屋全景)
本館は改修、右手の増築棟は解体され、写真奥(本館北)に付属棟が建設されました。
付属棟はカフェ・ミュージアムショップの機能があります。また、2010年に倒木した御神木の保存も目的としています。

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改修前(建屋西:エントランス)
元々は西側がエントランスでした。

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改修後(建屋西)

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改修後(建屋東:エントランス)
建屋西の出入り口はなくなり、東側がエントランスになりました。鶴岡八幡宮の参道からアクセスするようになっています。
エントランスの位置が変更になっているので外構の舗装のデザインも西と東で異なります。

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改修後(エントランス横の壁面)
エントランスを入ると1階は大谷石の壁面があります。2階の壁面の工業製品(フレキシブルボード)に対してこちらは自然の素材となっています。また、建物全体は鉄骨柱が独立して線として表現してあり、ここは面として構成され対比的です。当初は開口を避けた位置にブレースがありましたが、中庭と通じる開口が多いので中庭外周側にある大谷石の壁面にブレースは設置されました。

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改修前(中庭)
エントランスを入ると中庭があります。当初は人が多く訪れた場合でも中庭に人の視線を集中させ、建物周囲の池などの自然を荒らさないよう配慮していたそうです。また、回遊性のある空間構成に対して、中庭中央にイサム・ノグチの彫刻が置かれ求心性のある空間となっていました。

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改修後(中庭の敷石)
改修後は耐震補強のため土間コンクリートを取り除き構造スラブとする必要があったので敷石を取り除く必要がありました。改修後、再び石を敷きますが、上の写真のようにスレートとするのではなく、竣工当初に倣い花崗岩としました。また、彫刻は置かず、斜めの石貼りも混ぜることで中心性のある空間ではなく自由な動線を促すようなデザインになっています。美術館からミュージアムへと展示品を規定しない機能へと変更したことで、動線も規定しないデザインにしたのかと思います。

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写真:葉山別館
ちなみに今はこのイサム・ノグチの彫刻は葉山別館に移設されています。(横顔の写真しかなかった・・・)

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改修前(縦樋・軒樋)

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改修後(縦樋・軒樋)
改修前後を比べると軒樋の形状がかなり簡潔になり、縦樋も中庭の角まで寄せて配置されています。屋根の写真はないのですが、屋根は元々ノコギリ屋根でトップライトが設けられていたのですが(今回工事でトップライトは中止)、改修時にノコギリの水下を薄くしたことで軒樋がスリムになったようです。縦樋のサイズ測り忘れました。ただ、写真で見る限りですが、近年の大雨にも配慮して樋径を太くしていそうです。

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改修後(中庭の鉄骨柱)
ちなみに何度かの改修で鉄骨柱はグレーに塗装されていたことが多いですが、当初はフランジ外がこげ茶・内は緑であったことから、改修後も同様になっています。(西側の大階段は赤です)

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改修後(階段)
中庭と池の間には回廊があり、回廊には2階に上がる階段があります。池とかっこいい階段の手摺りが見えるこの角度が本当に好きです。

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改修後(階段)

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改修前(階段)
階段は段板部分の滑り止めを撤去し、表面を補修た程度で大きな変更はありません。手摺りの取りつき方と形状が最高です。

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改修後(2階階段廻り)
階段を上った先にも部屋はあり、写真奥の部屋はかつては喫茶室、今は展示室となっています。竣工当初は壁一面にフレスコのように絵があり、本工事では白い壁面としていますが、工事中に絵の下絵が見つかったそうです。
中3階は集会室となっており、コルビュジェらしい色使いの窓になっています。

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改修前(回廊)
1階に戻り、階段奥に回廊があります。

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改修後(回廊)
改修後の天井は展示室の断熱を確保するために、断熱材等を追加しています。また、天井の照明をダウンライトとしてさりげない存在感とし、塗装し直すことで、天井面への水面の映り込みをきれいにしています。(と言いながら水面が写っている写真は撮れず・・・)

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改修前(本館と増築棟間の彫刻)
ちなみに回廊を東に進むと、かつては池の上にジャコメッティの彫刻がいました。

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改修前(渡り廊下)
こちらも補足になりますが、ジャコメッティの横にはかつての渡り廊下がありました。

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改修前(外壁)

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改修後(外壁)
(画質悪いですが・・・)改修前に比べ雨仕舞いを改善するためアルミジョイナーにパッキンを入れています。また、ジョイナーは竣工時はアルマイト処理、途中改修後は外壁同色仕上げとなっていましたが、今回工事では竣工時同様アルマイト処理となっています。
ボード厚は10→12mmとなりましたが、見つけ寸法は縦53,横48mmと同じであり、同様の見え方に近くしています。

3.建物が"残る"ということ

先日、閉館した原美術館の記事を書き、今回は保存改修された鶴岡ミュージアムについて書きました。


何気なく始めたnoteでしたが、こうして記事にすることで、モノとして”残る”建築の在り方と、自分や誰かの記憶に"残る"建築の在り方があるなと気付きました。
実際のところ、このミュージアムのように改修がされて保存される名建物は多くはないと思います。残す価値があるかどうか審議され、現代の建築法規や品質に適合せず解体されるものもあります。また、無事改修竣工しても「昔の方が良かった」なんていう意見もきっとあると思います。
建物が残ることも、残り方もハードルが高いなら、せめて建物を作る側の身としては、出来る限り設計者や施工者の意図を汲んで空間を楽しんだ感想をnoteに書きたいな、なんて思っています。

おわり

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