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ウィリアム・モリス「世界のはての泉」上・下巻を読む

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訳の基になった本は1913年らしく、日本で言うと大正2年…108年前。かなり分量があります。ウィリアムモリスは3作目、だいぶ読み慣れてきました。でも分量ある!

登場人紹介 上巻

◆アプミーズとその周辺の人々

・ラルフ
・ピーター王
・王妃
・ブレイズ
・赤のリチャード(リチャードザレッド)
・足長のニコラス(ニコラスロングシャンクス)
・商人(チャップマン)クレメント
・デイム・キャサリン

◆丘陵地とハイアム周辺の人々

・ボートン・アバスの娘 ⇨世界のはての泉を求めて旅立つ ←タイトルにもある地へ行く人みたいだけど…名前、無いの?

◆乾きの木(ドライトウリー)とそれに関わる人々

・豊穣の女王(レイデイオブアバンダンス)←主人公の最初の恋人

・太陽の騎士(ナイトオブザサン)

・黒い騎士(ブラックナイト)

・縄◯いのロジャー(ロジャーオブザロープウオーク)

・正体不明の大男

 さて上巻をほぼ読みました。くじ引きで後継者になったのに、家出のようにして故郷を出るラルフ。(また超絶美形)

 彼が旅の途中で出会う女性たちと闘いの物語、ああ、つまり男の一生的ラブロマンスなんですね、と納得。

 やたらと「ナントカの女王」が出てきます。

不老不死の妙薬を求める図式

「世界のかなたの森」で描かれた不死の国のように、本作にも不老不死とまではいかなくてともそこの水を飲むと長く生きられる水が湧く泉、を目指す旅。
 さまざまな国を経ていきます。

「塔の基礎に人間?」→「橋のたもとに人柱」的記述

 上巻の400p以降に気になる記述。
『だがうわさではゴールドバーグのどの塔の基礎にも、その水(世界のはての泉の水)を飲んだ若者と乙女がいっしょに眠っていて、刃によってでなければ死ぬという』

 『ゴールドバーグが崩壊すれば世の中が一変する』という言説が信じられている世界。

 こういう設定、イイですね。

 上巻でいうと、冒頭すぐに出てくる名付け親のデイムキャサリンに関する記述は、実母よりも細かくてグッとくる。
 主人公の親世代であるキャサリンは自身のこどもはおらず、旅立つラルフを見送ると机に突っ伏して泣いてしまう。それを慰める夫の優しさ。
 ウィリアム•モリス自身は娘がいるようですが、身近に子供を持たない既婚夫人がいたのかもしれません。なんとなくそう思いました。

 そのデイムキャサリンが渡した首飾りとソックリなものが、後に登場。ここの胡散臭い司教見習いとの主人公のやり取りには苦笑。宗教とその周辺に生息する人間達への辛辣な見方を感じます。

芝居のシーン

 『あらわれたのは、銀地に赤十字の紋章の盾を手にした勇敢な騎士であった。かれは剣を手に竜に打ちかかったが、竜もまた勇士に飛びかかった』

『これは聖ゲオルギウスと竜の戦いのお芝居だと、ようやくラルフにわかった。ーーー勇士は竜の頭を切り落とし、乙女のところに行ってくちづけをして抱擁し、怪物の頭を示した』

『乙女の父母である王と王妃。美しい祭服を着た司教、騎士たち。彼らが聖ゲオルギウスと乙女を囲むと、吟遊詩人が竪琴とフィドルを弾き出し、ほかの人々は讃える美しい歌を歌いはじめた』

『聖アグネスの野外劇』

 読み終わりました。主人公とアーシュラ(上巻では単なる娘としか書いてなかったのに下巻では名前がありました)が泉の水を飲み、その後どうなったかについては
ぜひ本書をお読みいただきたい。

訳者解説も面白い

 若き日のトールキンとルイスが、オックスフォード大学で文学を語り合う「インクリングス」というサークルを結成。メンバーのいくつかの傑作が朗読され批評されたんだとか……なにそれ「同人」だよね?

『トールキンがモリスの『ウォルフィング族の家」を読みふけったエピソードを紹介してある伝記作家はこう書いています。

『きわめて個性的な文体、古代の伝説の霊気を再創造するための擬古体と詩的倒置法……。トールキンは、こうしたことをしっかりと心に刻み込んだ。

『想像上の風景をきめ細かく、立体的に描くこと、登場人物の心の動きにしても、自然描写と変わらず、近代小説的な心理描写によってではなく、事物に即して伝えること、ーーーこれがモリスの散文物語の文体です』

 老境に差し掛かったモリスが、多忙な毎日の中で散文ロマンスをせっせと書き続けていて その多くに不老不死や長命を叶えてくれる存在が出てくる。
 
 世界のはての泉、というとフランスのルルドの泉を想起させる。

 イギリス人のモリスは、その舞台をどこにもない空想世界に設定した。

 不老不死の妙薬を探しに日本にまで使者を遣わしたと言われる秦の始皇帝。

 古今東西、不老不死や永遠の若さは『手に入らないからこそ人々の夢がある』アイテムなんですね。いつの世も。

 お読みいただきありがとうございました。

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