健全なおクスリ

高校生までに想像していた大学生は、きれいめな服を着てオシャレをしていて、自分がやりたいことに打ち込んで、額に流れる汗すら美しい、きらびやかなイメージだった。
 それが実際なってみるとどうだろう。完璧なメイクなんて毎日やる気が起きるわけがなく、最低限ファンデーションとパウダーをつける。前髪だけどうにか巻いてダッシュで電車に乗り込み、開始5分前に教室に滑り込み、授業を受ける。授業はやりたいことができているからいいものの、流れる汗はさほどきれいではない。きらびやかには程遠い。
 そんな限界大学生の送る夏休みなんてたかが知れていて、バイトに勤しむことだ。稼ぎ時大チャンス。これを逃すわけにはいかない。

そんなバイト大好きっこの私は、こぢんまりとした遊園地でバイトをしている。
地元の遊園地であるため、息がつまるような人の数はいない。家族連れメインの優しい遊園地だ。接客業を自ら選んでいるものの、人と対するのがそこまで得意ではない私にはちょうど良く、楽しみながら仕事ができている。

その楽しみの大半が、小さい子とコミュニケーションをとることだ。
定番である「ありがとう」といってもらえるのも嬉しいのだが、個人的には手を振ったときに手を振り返してくれたり、お誕生日の時におめでとうと伝えると何歳になったと教えてくれたりする、あの瞬間の方が嬉しい。
言葉のキャッチボールを滞りなくできたときや、個人的なことを話してもいいという雰囲気づくりができた気がすると、達成感がある。

だけど最近、それは私の力ではない気がした。なぜなら、話してくれる子はみんな、話しかけたいと思えるような雰囲気をまとっているからだ。
話しかけるのに緊張する私がいけると思う時は、答えてくれそう、嫌な顔をしなさそう、優しい雰囲気があるということだ。ほかの人とは何が違うんだろうと考えて、共通点を見つけた。
それは笑顔だ。

穢れの知らない心で、干上がってカラカラになった私の心に無償で水を注いでくれるようなあの笑顔。もはや殺人級である。可愛すぎる。天使。神。あんな顔されたら癒される以外何もない。もっと働けちゃう。
だけど、それなら小さい子ではなく大人でも同じだ。実際、笑顔で穏やかな雰囲気のあるグループには、いつも以上に、楽しんでもらいたいという想いが湧く。笑顔にはこちらが何かできないかと思わせてくれる力がある。よく考えればすぐに分かることだったのに。
私は笑顔の人が好きなんだなと再認識する。
 
笑顔の人を見るとこっちまで笑顔になる。たいしたことは何もしていないのに、ふふふって言ってしまう。さっき考え込んでいたのは何だっけと少しの間忘れさせてくれる。会話が楽しくなる。なんだか明日もいい日になりそう。なんてちょっぴりクサいセリフを吐いてみちゃったりなんかして、なんだか得した気分になる。
すべてを赦してしまいそうになる、笑顔の魔法って怖い。

 鉄仮面だった過去の自分はさっさと取っ払って私も笑顔でいよう。笑顔が似合う人間になれたら少しはかわいげが出て、きらびやかな大学生に近づけるかもしれない。
明日もバイトだ。私も笑顔で「こんにちは~!」って言おうっと。

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