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大江健三郎「ヒロシマ・ノート」

本書は、大江健三郎が1963年から1965年にかけて広島を訪れて、原爆に関する見聞をまとめたものです。
原水爆禁止世界大会の分裂や被爆者の状況などが、きめ細かく描かれています。
さすがに小説家だけあって、登場人物や情景の描写はリアルです。

わたしは、実は大江健三郎の作品は苦手であまり読んでいません。
しかし、本書は抵抗なく惹きこまれました。
それは被爆者や医師(被爆者でもある)に寄り添う大江健三郎の気持ち、尊敬と愛情が本書に一環して流れているのを感じるからです。

原爆投下に関する事実を少しでも得ることを目的として本書を繙きました。
もちろん本書だけでは不足していますし、今後も引き続いて関連の資料などを読みたいと思っています。
そうしたこととは離れて、いままで苦手意識のあった大江健三郎という小説家への足掛かりとなればとも思っています。

本書から小説家としての視点を記述した以下を引用します。
(大江 健三郎. ヒロシマ・ノート (岩波新書) . 株式会社 岩波書店. Kindle 版.) 

僕は昨年出版した小説『個人的な体験』の広告に、《すでに自分の言葉の世界にすみこんでいる様ざまな主題に、あらためて最も基本的なヤスリをかけようとした》と書いた。そして僕はこの広島をめぐる一連のエッセイをもまたおなじ志において、書きつづけてきたのであった。おそらくは広島こそが、僕のいちばん基本的な、いちばん硬いヤスリなのだ。広島を、そのように根本的な思想の表現とみなすことにおいて、僕は自分が日本人の小説家であることを確認したいのである。

文中の「小説家」は、それぞれの人によって他の言葉に変えることも可能かもしれません。



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