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【障がい者支援】障がい児✖️サーフィンでみえてきたこと

地元、茅ヶ崎の特定非営利活動法人(NPO法人) Ocean's Love(オーシャンズ・ラブ)のボランティアサーフィンスクールの見学と意見交換会に参加した。所属する公益社団法人神奈川県社会福祉士会湘南東支部で、地域の社会資源を知り、学ぶための企画だ。Ocean's Loveは障がい児のためのサーフィンスクールを各地で開催している。
現地での見学と、その後行われた主催者との意見交換会で、得られたことをお伝えしたい。

Ocean's Love代表のアンジェラさんのご紹介


当日ボランティアの人数に驚く

茅ヶ崎パーク(ヘッドランドビーチ)は、茅ヶ崎のシンボルともなる、えぼし岩の正面にあるT字型の岬のビーチで、SUPやカヌーなども楽しめるサーフィンスポットである。ここで開催される「知的障がい児・発達障がい児のサーフィンスクール ~海から陸へのノーマライゼーションの社会づくり~」と称する Ocean's Love(オーシャンズ・ラブ)のイベントに、社会福祉士会湘南東支部で、地元の社会資源として、その取り組みを深く知るために企画された、見学会&意見交換会に参加した。
見学会当日は、天気も良く風もほとんどない過ごしやすい陽気だった。波もちょうど乗りやすそうな具合だった。会場に着いて、まずはOcean's LoveのTシャツを着たボランティアの多さに驚いた。およそ100名近くはいたと思う。知的障がい、発達障がいの当事者の子どもたち参加者は10名程度で、親御さんととも参加していて、地元以外からも来られているという。親御さんたちはテントで見学のみで、ボランティアが子どもたちの担当となりサーフィンを教える。一人の子どもに、それぞれ5〜6名のボランティアがついていた。

活動の見通しが持てるスケジュール

スタッフの挨拶から始まり、今日の活動スケジュールが説明された。スケジュールは大きなボードのようなものに、わかりやすく時間と活動内容が示されている。自閉症支援に使われる「構造化」といわれる視覚スケジュールで、たとえば一日の流れの見通しを示し、その流れがどのように進行するかを明確に示すことで、子どもたちの行動を支援するものだ。
ラジオ体操から始まって、実際に海でのサーフィン、お昼ご飯、振り返り、ゴミ拾い、など絵を交えてこれから行うことがわかりやすく描かれていた。
そして、サーフィンボードに乗るために、スタッフが実際にボードを使い、どのように動いてボードに立つのか視覚的に理解できるよう、わかりやすく最終的なゴールを示していた。

それぞれの個性に合わせて

チームで関わるボランティアの動きは、それぞれが役割をもって意識的に動いているように見えた。中には、聴覚刺激が苦手な自閉症スペクトラム症と思われる比較的重度の子どももいて、しばらく砂浜のボードの上で耳ふさぎをしてうずくまり動けずにいたが、それでもボランティアはチーム全員で寄り添い、本人のタイミングをみながら時間をかけて関わっていた。最後には、支えられながらも波にのるところまでできていた。表情にはあらわれなかったが、その子にとってこのチャレンジによって、なにかの結果を得て喜んでいたように思うし、それがボランティアたちにも伝わっていたように思う。
他にも、バランス感覚が良く数回ボランティアに支えられて乗ったあと、自分でボードに立ち波に乗っている子もいたが、それぞれのレベルにあわせて、少しずつ上達できるように支援していた。
成功した時にはボランティアがみんなで喜び、本人の喜びを全員で分かち合いチームの一体感を得ているように見えた。ただできるようになった、波に乗れるようになったということだけではない、ボランティアの人たちにとっても、特別な体験になっているように思える。

意見交換会でわかったこと

ゼネラルマネジャーの伊藤良師さんが意見交換に参加してくれた。伊藤さんはスポーツマネジメントを専門に、有名選手のマネジャーなどの仕事をしてきた方で、スポーツを世に広く普及しスポーツによる人間形成に取り組んでいる。Ocean's Loveでは、障がいのある子どもたちにスポーツにより、チャレンジすること、できることを経験してもらうことによって生活のクオリティー(QOL)を向上することを目指し、実践している、社会起業家だ。茅ヶ崎では、放課後デイサービスも運営していて、そこでも障がいのある子どもたちにサーフィンレッスンや就労支援などをおこなっている。当日にボランティアがみな着ていたスポンサー入りのロゴデザインTシャツは、仕事体験で作成したもので、ボランティアは参加費として1,000円で購入しているという。
サーフィンスクールは全国展開していて、障がいのある子どもたちの支援とともに、参加するボランティアの育成、意識変化を目指している。ボランティアの中で、障がい者にたいする支援者、福祉職の人がどのくらいいるのか聞いてみると、95%の人が支援者以外、つまり5%しか専門職がいない。ほぼ初めて障がいのある方に関わる方がほとんどだという。
自分自身の福祉職の経験の中で、発達障がい、自閉スペクトラム症の方の支援では、過去15年ほど行動障害従業者養成研修にファシリテーターなどで関わってきていて、特に外出支援などで関わるヘルパーの育成を通して理解啓発に努めてきていたとともに、自閉スペクトラム症の特性の理解を深めてきた。というのも、20年ほど前にヘルパーとして最初に関わった自閉スペクトラム症の子どもの援助で、目を離したすきに衝動的に裸足で走りだし足にケガをさせてしまった経験があるからだ。そのことから特性の理解の必要性を強く感じ、それ以降、研修などでたくさんのことを学び、得たことを支援者に伝えていくことを意識している。
ひとつの失敗経験がトラウマになり、場合によりパニック(パニック自体が自閉症の特性ではない)や二次障害を作り出してしまうこともあり、特性理解のないままで関わることの怖さも知っている。
95%の障がいの方と関わることも未経験のボランティアの関わりについて、どのように取り組みをされているか、伊藤さんに質問してみた。ボランティアにたいして、事前にきちんと障がいの理解を得るためのレクチャーや、ライフセーバーによる救急救命講習などを受ける機会を設けていて、それに参加してから当日を迎えているという。ただ、話しを聞いていて、障がいの理解があっての関わりが全てではないのではないかという思いも湧いてきた。専門職として当事者への関わりとしては、知識やスキルを持っていることはもちろん大事であるが、彼らボランティアにとっては最低限の注意点は必要だが、それよりも子どもたちのチャレンジをどうサポートしていくか、ということの方が重要であるように感じた。彼らはそれをチームで取り組んでいくわけであり、そのチームでの協力も必要だ。
今、障がい者支援も高齢者支援も、福祉、介護人材の不足は一番大きな問題であり、社会的課題にもなっている。個人的には、福祉の仕事は自分にとって人の役に立てる、またたくさんの学びがある、他のどの職業よりも魅力的な仕事に思うのだが、虐待ニュースや処遇の低さなどネガティブな情報で、3K(きつい、きたない、きけん)労働に入れられてしまう不人気な職業になってしまっている。しかし、なぜこのOcean's Loveの取り組みに、このように多くの若者から年配者までが1,000円払ってまでボランティアに来るのか、参加の動機が何か、それは単純に障がい者支援活動に来ているのではないのではないか、ということに気がついた。

「自立支援」に足りないこと

伊藤さんは、ボランティアに意識変化があるということを言っていた。伊藤さんが目指すスポーツの持つ力で何かを変えることができるということ。そのことは、障がいのある子どもたちにサーフィンというスポーツを通して、チャレンジすること、できることの喜び、心を強くすることを経験してもらうということとともに、ボランティアが経験するそれを支える喜び、チームでそれを成し遂げ分かち合うこと、ということができるのではないだろうか。
そのことは、私たちの福祉・介護の理念である「自立支援」であり、それを支える「チーム支援」でもある。しかし、その取り組みを掘り下げて考えると、何かが介在してそれを行う、ということに欠けていると思った。
Ocean's Loveの場合、サーフィンというスポーツを通してということになるが、それが、「音楽」であっても、「芸術」でも「料理」でも、あるいは「ビジネス」でも良い。人の生活の中では、潤いを感じることができる、プラスアルファの要素があって初めて生活の質が上がるのかもしれない。その何かがなく「自立支援」は行えないかもしれない。我々が行う「自立支援」は「目的」よりも「能力」に目が向けられてしまっているように思う。
福祉・介護業界の人材不足にたいする取り組みで、この仕事のやりがいを伝えることの中で、プラスアルファの何かがある支援ということが大事であり、より魅力が伝わるのではないか、というヒントをもらった気がする。

障がい理解啓発について

伊藤さんが伝えてくれたことは他にもある。放課後デイサービスのプログラムの考え方で、「日常の安定感があることでの非日常を楽しむことができる」ということ。サーフィンの体験など、非日常とも言える出来事は、日常の生活の安定感から、またそのギャップから楽しむことができるのであり、そのための環境をつくることは大事なことだと思う。家族の役割ではできないようなこと、ソーシャルスキルトレーニングや就労への取り組みなど、幅広く障がい者支援を考えて実践している。
また、スポーツ、またボランティア育成を通して、「人づくり」「社会づくり」に取り組んでいるという。スポンサーともなる企業に対しては、新入社員研修のプログラムの一部として、「チームワーク形成」をテーマに、初めて会うメンバーとともに、障がいのある子どもたちにサーフィンを教えることで、社内プロジェクトなどを推進するときの意識づくりにも貢献できる。
平成25年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称:障害者差別解消法)が施行された時に、支援者の一人として、その理解啓発、普及に、研修会の開催、その他「合理的配慮」のガイドブック作成などに取り組んだが、研修や講演に参加される方は、ほとんどが支援者や当事者ご家族であったりして、しばらくすると、その法律の名前すら忘れられてしまうくらいの一般の方の関心の低さに残念な思いをした。
しかし、Ocean's Loveの取り組みは、ノーマライゼーションの社会づくり、障がいの理解啓発活動などの実践として、福祉業界ではなかなか発想が及ばないようなスポーツの持つ力や機能を使いおこなっている。その結果はボランティアの参加者数からも表れている。今回はボランティア参加者からの直接的な意見は聞くことができなかったが、ボランティア参加の機会で、多くのものを得ていることはよくわかり、理解啓発活動にもなっている。
ソーシャルアクションとしての実践のあり方、アプローチの仕方に、社会福祉士として大きな刺激をもらったことと、福祉の業界に必要なことに気づかせてもらった貴重な経験だった。

この場を借りて、今回この機会をいただいたOcean's Loveのゼネラルマネジャー伊藤良師さんに感謝いたします。ありがとうございました。

Ocean's Loveのエグゼクティブアドバイザー辻秀一氏(スポーツドクター)
の紹介動画です。より活動の意味が深まりました。ぜひご覧ください。

発達障害についてや、自閉スペクトラム症の支援にご興味があり方は以下をご覧ください。

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称:障害者差別解消法)「合理的配慮」について、知りたい方はこちらをご覧ください。


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