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【高齢者支援】戦争体験を聞いて考えてみた


デイサービスの生活指導員だった。当時はまだ相談員という名称ではなく指導員といわれていて、そのことからも当時の高齢者に対して制度の考え方が表れていると思う。今では考えにくい高齢者に生活指導をするという💦生活指導員がデイサービスや特別養護老人ホームには配置されていた。

デイサービス利用者からの戦争の話

その頃、戦後50年くらい経っていたがデイサービスの利用者はほとんどの方が戦争の体験をされており、それぞれに壮絶な体験であったためか自ら積極的に戦争体験をお話しされる方は少なかったと思う。そんな中でAさん(女性)は、広島で被爆された経験を、割にたんたんと話された。「隣のうちの塀が倒れてきて、片腕で支えて子供を助けたのよね〜。火事場のばか力なのよね〜。」と。
長崎に住んでいたというBさん(女性)にも同じように教えてくれるかと思い聞いてみると、とたんに顔を引きつらせ、手が震え出して声を詰まらせ、何も話しができないような状態になってしまった。とんでもない質問をしてしまったことに気づき何度もお詫びしたことを憶えている。

そんな中で、Cさん(男性)という認知症(当時は痴呆症という、今ではありえない名称だった💦)の方がデイサービスに来られていた。Cさんの認知症は軽〜中程度の理解力、判断力で、会話のやり取りはできたが難しいことの理解や直近の記憶力に欠けていた。認知症の方は長期記憶といわれる過去の記憶は失われにくく、若い頃戦争に駆りだされた時の記憶は鮮明に残っているようだった。ある時、戦争は嫌だったという話しにでてきたのは「南京事件」「南京虐殺事件」のことだった。

Cさんの話しは具体的で、Cさんが当時そこでどのようにことを行ったか、それは通常であれば口に出すことも憚れるような話しだった。Cさん自身は直接的に人を殺めることはしなかったというが、その場の役割を上官から与えられ嫌々その任務をおこなったという。
戦地から日本に戻ってきて、その内容から考えると、おそらく家族にくわしく話すことはなかったのではないかと思う。いやだれにも話すことはなかったのかもしれない。もしそうだとしたら、その記憶を胸に秘めてどのように過ごしてきたのだろうか。想像することはむずかしい。認知症により頭の中でなんらかの抑制が外れたのかもしれないが、「いやだったんだよ〜。」と涙を浮かべて話すCさんは忘れられない。

戦争はどう伝えられているか

そんなことがあって、その話しの南京で当時起こったことを考えてみると自分がそれをあまり知らないことに気がついた。学校で戦争で起こったこと、してきたこと、失ったことなどをどのように教えてもらったのか。また伝えられていたのだろう。日本の歴史教育、戦争を伝える教育はどのようにおこなわれているのだろう。

教育について専門外なので、ここで詳しく書くほどの知識はもっていない。ネットを検索して知れる範囲では、日本では、戦争は歴史教育として扱われその史実が伝えられるくらいでそれについて深く考える機会になってはいないようだ。自分自身、南京事件/虐殺についても、従軍慰安婦についても記憶に残るほどの教育を受けているとはいえないかもしれない。

ドイツの教育について

戦争と虐殺について自分がイメージできるのは、ナチス・ドイツのユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)だ。ドイツでは戦後そのことをどのように伝えているのだろうと考えた。ドイツでは戦後から様々な変遷を得て、「ナチスの犯罪」から「ドイツ人の責任へ」一般のドイツ人が自分たちがどうであったかを知りその責任として学ぶこと、そしてなんのためにそれを学ぶのかを考えるようになっているという。
ドキュメンタリー映画「世界侵略のすすめ」(マイケル・ムーア監督)に、ドイツの教育に潜入する場面がある。「ごまかさず、なかったことにもしない、“生まれる前のこと”と片づけない」負の歴史をしっかりと授業で教えている。しかも子どもたちが知識だけでなく擬似体験をもちいて主体的に考えることができるように。それに対してアメリカはどうだろうか。黒人差別や奴隷制度のことは教えているのか。今でも差別がなくなっていないのは?と問う。そして、私たち日本はどうなんだろう。このエピソードだけでなく他にもとても考えさせられる良い映画だ。

戦争、虐殺、虐待、暴力、いじめ、自殺のことなど、日々人の命に関わるニュースに溢れている。現実を知ることだけに意味があるわけではない。戦争に関する歴史教育は、何が起こったかということを知るだけではなく、戦争の悲劇を忘れずに平和を願うことだけではない。自分たちがどうすべきか、日常をどのように生きるかを考えることができるようにすることなのではないかと思う。子どものころの教育に大事なのは、学力や知識の習得だけではなく、当事者意識をもち主体性を育むことなのではないかと。

戦争・暴力がなくなるように

Cさんの話しが聞けたことは、自分がこの仕事で経験したことの中でも貴重なものとなっている。高齢者支援をしていることの意味を考えると、自分たちが支援していることと同じくらいなにかを与えてもらっているように思う。
介護保険事業者は虐待防止の推進が求められていて、委員会、責任者の設置や研修開催など義務化された(2024年4月より)。障がい者支援事業でも同じように求められているが、それらをかたちだけ導入しても意味がない。障がい者関係では、神奈川県では大きな事件(相模原障がい者施設殺傷事件2016年)があり、今なお虐待事件があとをたたない。
養護者を含め虐待を起こす側の問題、その予防などを考えると、社会の問題であるとともに、子どもの頃からの教育や経験でなにができるのかを考える必要があると思う。戦争、暴力を考える機会が何かを与えてくれるのかもしれない。

長くなってしまいましたが、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

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