外出自粛の中、「延々と話し続けるパートナー」という苦しみ

おはようございます。『「脳コワさん」支援ガイド』(医学書院)刊行から5日?6日? 徐々に届いてほしい人たちのところに届いてくれている実感を感じている鈴木大介です。

さて。首都圏など特定警戒都県においてはまだ新型コロナウィルス感染抑止のための自粛要請は続いていて、今後第二波三波による外出自粛があるかもしれませんので、パートナーのいる脳コワさんの外出自粛について、ありがちなお困りごとについて書いてみたいと思います。
脳コワさん関係ない、ごく一般の方にも少しお役に立てる記事かもしれませんので、ぜひぜひお読みください。

※脳コワさんとは……
発達障害・認知症・高次脳機能障害・うつ病など精神疾患全般の
あらゆる「脳に機能不全を抱えた」ことで不自由を抱えている当事者さん
(念のため・僕は高次脳機能障害の当事者5年生です)

外出自粛下の妻が糞うるさい!

さてさて、実はこれまでの闘病記にも書いていることなのですが、我が家の妻は子ども時代から発達障害特性がかなり強く、30代前半で右前頭葉の超でっかい悪性脳腫瘍を摘出した経験もある、脳コワさんの大先輩です。
 僕自身が高次脳機能障害という中途障害を背負って彼女が子どものころから抱えてきた不自由に酷似した不自由を抱えるようになった際、彼女が僕から何の説明もしなくても「それはできないよね」「それは苦しいよね」と理解してくれたことは、本当に助かったのです。です。です、が!!!!

「新宿のホストクラブがカフェやるんだって」(へー
「車に変な液体かける被害だって。変な液体ってエロくね?」(ない
「猫って洗濯ネットに入れたらどうなるの?」(知るか
「伯爵の子孫がやってるチェーン店行きたくない?」(なんの伯爵!?
「最近アメフラシ握ってないなあ」(握るな!)
「ねえ、庭に狸来た」(マジ来ます)
 う、う、う、うるさいわ!!

 茶の間にいるときの妻は、時に言葉が止まらなくなってしまうことがあります。猫やテレビに向かって独りで話しかけている分にはまだいいのですが、最も困るのは、スマホのニュースサイトを見ながら気になる記事を全部報告したり、何かの検索が止まらなくなってその結果を朗読したり、前後の脈絡の説明なく「これどういうこと」といった質問が止まらなくなってしまうことです。

妻の言葉の洪水におぼれる

もともと文筆業という在宅ワークだった僕ですが、平素は仕事部屋、近所のカフェ(田舎なので歩いたら1時間かかるけど)、ちょっと離れたカフェ(徒歩二時間)、庭の机(毛虫落ちてくる)などといくつかの仕事拠点をその日の気分や仕事の内容で巡っていましたが、コロナ自粛でさすがにそれもできなくなって、この「妻の言葉のオーバーフロー」にかなりつらい思いをすることになってしまいました。

 一番困るのは、茶の間のノートパソコンで仕事のメールへの確認や短い返答をするとか、ちょっと原稿の書き出しやプロットを考えているような、「脳の片隅に仕事の思考活動が残っている」状況で、妻のスマホ朗読会が止まらなくなってしまうことです。
 妻には一度自分がインプットした情報を全部口にしてアウトプットしてしまう特性があって、例えば車の助手席にいるときに道端の気になる看板を一つ一つ読み上げて止まらなくなってしまうことがあります。
 その特性の底には、衝動性の強さと、子ども時代から少し低いワーキングメモリを「音読することで記憶を強化する・補助する」という自助的習慣でカバーしてきたことの両方があるようなのですが……。
 でも僕も脳コワさん=脳の情報処理に問題を抱えた当事者ですから、正直それは混乱の引き金になります。
 話しかけられた途端に脳内で思考していた内容がすっ飛んで消えてしまうのは、脳内で思考用の記憶を保つのが困難な「ワーキングメモリ低下」と、並行していくつかの思考をすることが困難な特性がまだ僕の中に残っているから。
 一度すっ飛んだ思考を思い出せないということもつらいし、それが「二度と出てここない原稿の書き出し」だったりすると、もう怒りになっちゃう。まあ、そんなグレイトな思考をしてんならお前仕事部屋に戻れって話なんだし、戻ったところで大した原稿にゃなんねえのだけどな。

あとなにか作業しているときに、延々と横で話しかけられていると、たとえ「聞き流して」いても徐々に脳の情報処理力が削られていき、ふと気づくといま何をしていたか、これから何をしようとしていたのかが分からないという、軽いパニックに陥ってしまうこともあるのです。

でもこれきっと、外出自粛の中で、まだ衝動性のコントロールができないお子さんがずっと家にいるようになったご家庭や、パートナー間で言語のアウトプット量が違う人たちのおうちでも、比較的普遍的に起きている苦しさじゃないでしょうか。

悪いのは「不要な情報」に満ちたリビング

けれど我が家は夫婦そろってW脳コワー!
なので、ここで大事なのは、「お互いが楽になる」ことです。ということで、W脳コワ夫婦5年目が至ったライフハックは簡単なことだったのでした。

換気扇を消す。
猫に餌をやる(餌くれ鳴きを止める)
つけっぱなしのテレビや音楽を消す。
机の上を片す。
窓のブラインドを下す。
部屋の照明を落とす。

以上。

実は脳コワさんって、健常者が意識しないような生活環境上の視覚・聴覚情報に脳の認知や思考の資源を削られたり、無視してもいいはずの情報を無意識に処理し続けていたりして、それで本来やるべき思考を妨害されたり混乱に陥ったりすることがすごく多いのです。
だったら、処理すべきじゃない情報を徹底的にカットしてやればいい。

茶の間の僕の場合、処理すべき情報は、脳内の思考、手元の作業、妻の話への対応。もちろん僕が高次脳機能障害になってしばらくの間は、この三つをこなすことも困難でしたが、いま脳の機能を再獲得して、こうしたタスクが何とかこなせる状況になったからこそ、無意識化で脳に加わっている不要な情報処理タスクを減らす工夫が一層必要になってきたようでもあります。

そして面白いのが、こうして情報を制限して妻のスマホ朗読会に耳を傾けると、なんと妻は黙るんですね。
もちろん、「聞いてもらう」ということで、ストレスが緩和されるということもあると思う。けれどたぶん、脳コワさんである妻にとって、脳に入った情報をそのままアウトプットしているとき、それは脳の情報処理になっていないということもあるようなんです。だからいくらでも言葉が出続けてしまう。
でもここで僕が返答し、会話になると、それは妻にとってのしっかりとボリュームのある情報処理。情報を解釈したり自分の中で理解して記憶に固定したりすることで、妻の脳はそれなりに活動し、疲労し、満足して言葉が止まるという流れです。そこそこ短時間で。

 そして大事なのは、結局僕自身にとっても、こうして環境を整えたうえで妻のあふれる言葉が止まるまで聞いてしまった方が、全然楽だということでしょう。
 僕にとってきついのは、こうした工夫をせずにあらゆる環境情報と妻のあふれる言葉の洪水におぼれて、自身がパニック=情報処理の破局状態になってしまうこと。そして最もきついのが、妻に「ちょっと黙れないの?」「ずっと話してる」「もうやめて」とキツイ言葉を投げてしまい、その時の妻の不満そうな寂しそうな表情を見ることだし、「うるさいよ」の捨てセリフで茶の間を去ってしまった後の自己嫌悪です。

世の中も家庭も、世界は音、光、色、言葉、もうあらゆる情報にあふれていて、すべての情報を受けていると脳コワさんは破綻してしまいます。大切なのは、「自分に一番必要な情報は何か」を考え、それを選択的に得るために余分な刺激を抑制する工夫だと思うのです。

『「脳コワさん」支援ガイド』では、脳コワさん当事者を支えるご家族もまた「理解する・知ることで楽になる」ことを目指しています。


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