新刊『「脳コワさん」支援ガイド』 あらゆる援助職と脳機能不全の当事者が楽になるための提案です。

こんにちは。あと10日ちょっとで高次脳機能障害当事者5年生になる文筆業の鈴木大介です。

本日、拙著最新刊『「脳コワさん」支援ガイド』が医学書院の「シリーズケアをひらく」より刊行になりました。
今回の本は、脳に機能不全を持つ当事者として、「あらゆる脳機能不全の当事者を支える」援助職全般や、ご家族や周辺の方々などに向けて書かせていただきました。

「脳コワさん」支援ガイド

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脳の機能不全による不具合・不自由は、他人の目からは見えないものがほとんどです。ぱっと見、五体満足、下手したら健康な方に見えるかもしれないけれど、すごくしんどくて不自由で苦しい思いをしているのが、脳にトラブルを抱えている僕らです。
けれど、そんな僕らを助けてくれようとする人に、どうしてもお願いしたいことがあるのです。

見えない段差につまづく僕ら

僕はよく脳の不具合を「歩くのが苦手・足のケガ」に置き換えて比喩するのですが、たとえるなら僕らは普通の人なら平地にしか見えない場所にあるごく小さな段差で、つまづいて派手に転倒してしまいます。
健常な人からすると、その段差があるかどうかわからないぐらいなので「なんで転んだの?」となります。
「ほら、段差なんかないから歩いてみようよ、一緒に歩いてあげるから、家から一歩出てみよう」
そんな風に手を取って優しく連れ出されても、毎度大転倒。それは見えない段差かもしれないけど、本人にとっては結構耐え難い痛みを伴う転倒です。
そんなことを繰り返すうちに、当事者の中には「もう家から出るのは嫌だ!」「(つまづいてしまう、痛い思いをしている僕を)分かってくれないあなたには、もう頼れない!」となってしまう人も多いでしょう。援助職や家族に心を閉ざしてしまう大きな要因にもなります。

けれど、こうして引きこもってしまうことは、当事者にとっては取り返しのつかない損失になりえます。場合によってはその足のケガが回復する機会を失うことにもなってしまうし、なにより外の世界に広がる景色や季節の風や、人生を豊かにするものをごっそり喪失することにもなってしまうからです。

脳は情報処理の臓器。だから…

援助者の皆様にお願いしたいこととは、「この段差を知ってください」ということです。
脳の機能不全によるお困りごとは、それこそ環境や当事者本人の特性・経験などによって百人百様ですが、実はこの「つまづく段差」は多くの当事者に基本的な共通点があります。それは、僕のような高次脳機能障害のみならず、認知症、発達障害、うつ病を始めとするその他あらゆる精神疾患の当事者=「脳コワさん仲間」に、共通するものです。
なぜ僕らには共通した苦手があるのか。それは、脳は「情報処理の臓器」だからです。胃炎でも胃潰瘍でも胃にトラブルを抱えたら消化に不具合が起きてくるのと同じで、診断名や発症の機序が違っていても、情報処理の臓器である脳に失調をきたした僕らは、基本的に脳の情報処理に共通した問題を抱えています。なので、その不自由の底には「共有する段差」が存在するのです。

読者様の訴え・願いを一冊に込めました

これまで、『脳が壊れた』『脳は回復する』『されど愛しきお妻様』という三冊の当事者本を書いて、読者様からのお手紙やSNSのメッセージや講演会などを通じて、多くの共感をお寄せいただきました。やはりそれは、高次脳機能障害だけでなく、あらゆる脳の情報処理に問題を抱えた脳コワさん仲間からの共感です。
本書では、そうした読者様との交流の中で知り得た
・ 僕らに共通する段差とは何か
・ どうすればつまづかなくなるか
・ 再び歩き始めることをどう支えればよいか

といったことを、一冊に展開しました。

みんなで楽になるための一冊です。

当事者読者のみならず、これまでの著書には多くの援助職の皆さんからの「苦しいよ」の声も届きました。なんとか当事者を楽にしてあげたいと願っている援助職やご家族の皆様もまた、そのお気持ちが真摯なら真摯なほど、理解してあげられないこと、力になれないことに、無力感と大きな苦しさを抱えていると思います。段差を知ってもらうこととは、そんな皆さんが楽になるための第一歩でもあると信じています。

そして脳コワさんにとって手助けをお願いしたい(段差を知っていただきたい)援助職とは、心理職やリハ職・看護職・介護職といった枠を大きく超えて、福祉分野や教育分野、また行政窓口の方々などまで広がります。本書は、脳コワさんが接することのあるあらゆる対人職の方々をターゲットにしています。

「見ないでもわかってよ」「察してよ」とは言いません。僕らに共通する不自由、たくさん書きました。一生懸命分かりやすく言語化してみました。僕自身が在野ですので、お読みいただくのに専門的な医療的知識なども不要です。当事者を支える皆さんに、そして僕ら当事者自身も、楽になるための一冊になることを、丁寧に書きました。

日々、僕らを支えてくれて、本当に感謝しています。
ぜひお手に取ってくださいましたら幸甚です。

2020.05.18 鈴木大介

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