#夢日記 いい夢を見たなあ、と目が覚めた

夢の中で私は、山に近い田舎の、古い工場の中に居た。
埃っぽくて武骨な建物に工具や機械が雑然と存在している、ガス屋で配達やってた時によく見た昔ながらの工場だった。私はそこの従業員で、しかもそのガス屋時代の記憶があった。
工場内の鉄骨にチェーンで固定した(これは正しい措置だ)7㎥のアルゴンガスのボンベにはTIG溶接用のメーターとホースが取り付けられていて、終業時の点検でガス漏れしているのを見つけた私はとりあえず応急措置を試みていた。ネジが緩んでるのか、パッキンがダメなのか、ホースバンドの湖底部分が破れてるのか…
「あダメだ、ガス止めるね!」
私はそう言って、T字ハンドル(ガスボンベのバルブを閉めるのに使う工具)を探したが見つからない。探しているうちに私のことを呼ぶ人が居るが、作業中なので後にしてくれ、と言ってもしつこい。
傍にいた同僚らしき男に「ごめん、もしダメなら明日ガス屋さんに言っといて」と後を頼み、ソイツの後についていく。私をしつこく呼んでいたのは、小中と同級生で仲の良かったカワサキ君だった。
夢の中でもカワサキ君は私と仲良くしてくれているようで、私もしつこく呼ばれたことに苛立ったり怒ったりせず、なんだよぉー!とおどけていた。
カワサキ君は、どうも何か失敗して工場長が怒っているという。一緒に謝りに行こうと事務所に向かった。工場の裏手の狭い、両脇に草の生い茂った屋根付きの渡り廊下に縞板(シマイタ)が敷いてあるうえを二人で歩いて行くと、事務所のアルミサッシとちょっと建付けの悪くなったドアが見える。その向こうで椅子に座っていた工場長は、何故かプロレスラーのTAJIRIさんだった。
作業着に帽子を被った、完全に(しかも色褪せたりアチコチほつれたりした年季の入った)鉄工場コスチュームのTAJIRIさんに声を掛けようと思ったらカワサキ君が居ない。
もうガチャっとドアを開けて事務所に入ってしまったのでTAJIRI工場長と目が合った。仕方が無いので
「あ工場長、カワサキ君、来てませんか?」
と尋ねるとTAJIRIさんは
「おお。いや来てないよ」
と愛想よく答えてくれた。アレ?怒ってないじゃん、よかったなーと思って
「そうですか、わかりましたー」
と言って事務所を出た。

そのまま帰るつもりで工場を出ると、何故か私は高校生ぐらいに戻っていた。
そして出口で私を待っていたのは、黒くつやつやした髪の毛が肩ぐらいまで伸びた背の高い(160センチぐらい)の女の子だった。色白で大人しそうだけど目はわりとくりっとしてて、顔たちが整った、とても可愛い女の子だった。
彼女は、なんとカワサキ君が好きで告白したいのだという。カワサキ君はとっくに帰ってしまったようだよ、と言うと急いで追いかけることになった。
田舎の鉄道らしい単線で柵の低い線路脇の細い道を、彼女は自転車に乗って、私はその横を走って追いかけた。息切れするどころか、走りながら私とその子は仲良く話したり、周りの景色を見て
わーー凄い田舎だ
と思ったりした。小さな商店の色褪せた看板や、サビの浮いたバス停、低い屋根の連なり、迫る山肌。グングン走ってゆくと、やがて駅が見えて来た。
小さな駅舎に屋根付きのホームだけがある駅で、そこにカワサキ君が立っているのが見えた。
隣に彼女らしき女の子を連れて、仲睦まじい様子で。

私の隣で、女の子は泣き崩れた。私は黙って、駅の花壇に腰かけて彼女を抱き寄せた。
暫く彼女は泣いていたが、やがて泣き止んで顔を上げた。駅舎は随分と混み合ってきた。小さな駅だったのが少し広がって建物も立派になっていた。私はお役御免となるはずだったが、彼女と一緒に駅の二階にある待合室に入ることにした。
扉替わりの半透明で分厚いトタン板のようなものを、目印になる少し捲れたところからグイっと曲げて入ると、中は十二畳かもうちょいくらいの、黄色くなった薄い畳が敷かれ、低いテーブルと湯呑とポットが置かれた、実に田舎っぽくておじさんくさい場所だった。
私は彼女といられることで上機嫌だった。トタン板と壁の隙間に挟まって
「おコンバンワ!」
と映画シャイニングのジャック・ニコルソンの真似までしていた。

学生服とセーラー服で、のんびりとお茶をすすっていた。
実は財布の中に300円しか入ってないことに此処で気が付き、電車に乗れないと思っていた。歩いてさっきの場所まで戻り、そこから自転車で帰らなきゃ。
「電車の時間だから、降りるね」
彼女がそう言って席を立った。僕もホームで送るつもりで後を追い掛けたが、人いきれの中で見失ってしまった。明日も会えるし、いいか。と思って駅舎を出たあたりから意識が曖昧になって、気が付いたら夢から覚めていた。

明日も会えるといいなあ。
ああ、なんかいい夢を見たな、と満足した。
いつもの支離滅裂で奇妙な、悪夢ギリギリの夢に比べると、平和で穏やかな、かつ密度の濃い夢だった。もう一つの世界の自分の生活を覗き見たような気分だ。
田舎の駅とか、古い鉄工場とか、見て来た景色が頭の中に残っているんだろうな。
いい夢だった。

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