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[5月第2週] DAOレポート Vol.18

イントロ

先週、Makerの創業者のルーン・クリステンセン氏が、Makerの最終形態を指すエンドゲーム(Endgame)に向けて5段階のステップで進んでいくことを提案した。新しいトークンの発行やチェーンの構築など目を見張る提案がある中、フェーズ3として同氏が掲げた「AIを使ったガバナンスの改善策」に注目したい。DAOとAIの相性の良さを指摘する声は昔からあるが、老舗DeFi系のDAOがどのようにAI採用を進めていくかは観察する必要があるだろう。

クリステンセン氏が、DAOにおけるAIの役割として期待していることは、Maker古参勢と新規勢の知識ギャップを埋めることだ。以下のように述べている。

「AIツール使用によって昔から深く関わるインサイダーと周辺部にいるコミュニティメンバーの競争条件を平等にすることを目指す。必要な情報やニュアンスがすべてまとめて、インサイダーによる意思決定をリアルタイムで検証することができる」

AI使用の具体例については書かれていないが、おそらく、DAOにおける情報収集の壁を突破することが第1の関門だろう。

現在、主要なDAOであっても参加メンバーは決して多くない。それにもかかわらず、昔からの会話の流れというのは確実に存在し、議論と提案の場であるフォーラムでは日々新しい会話が生まれている。新参者がいきなりフォーラムに入って複雑な状況を把握し、今後の方針について的を得た提案をすることは難しい。

(参照:Flipside Governance「15のDAOの参加者数」)

世界のどこからでも参加できるはずのDAOであるにもかかわらず、Makerでさえも参加者数は800人というのは決して満足できる現状ではないだろう。しかし、先述の通り新規参入の障壁は高い。ここで解決策として期待されているのがAIだ。

Bankless DAOのメンバーであるJengajojoは、以下のようにDAOでAIを使うメリットを説明する。

「(AIは)複雑な文脈を消化しやすい塊に変える能力がある。毎日DMのスパムで目を覚まさないで済むし、(DAOの動きについて)毎日140字のツイートでまとめてくれる。何が起きているかついていける人が増えるだろう」

また、DAOのガバナンス事業を手掛けるAragonによると、AIには以下の役割も期待できる。

  • フォーラムのモデレーション・・・例えば、問題ある発言やコンテンツにフラグを立てたり、フォーラムを関係ある話題にのみ集中させる働き。

  • DAOトレジャリーの自動運用・・・伝統的な金融業界においても資産運用の自動化は進んでいる。

  • 提案のスコア化・・・DAOで出される提案についてトレジャリーに対するリスクや規制リスクなどのリスクをアルゴリズムでスコア化できる。

  • デリゲートとしてのAI・・・AIが代理となって投票することも期待できる。人間や組織のデリゲートに混ざってAIがデリゲートをする日も来るのだろうか。

AIを使った様々なアイデアがあるが、まずはクリステンセン氏も強調するように、古参と新規の壁をなくすことだろう。一般的には多くのDeFiプロトコルは、現在、古参メンバーを重宝しエアドロップ等で利益を還元するなど「古参重視」の傾向にある。しかし、ある程度のフェーズからこの方針は変わらなければならない。Makerほど成熟したプロトコルにおいては、いかに新規に入ってきてもらうかが課題だ。

言い換えると、古参のコミュニティメンバーも一人一人が分散化への意識を高めて「内輪ネタ」を減らし「情報の門番」にならないように努めることが重要だろう。「いずれはAIに取って代わられる仕事」に終始するのではなく、AIにできないクリエイティブな仕事を行うのが古参に求められることになるのではないだろうか。AIがDAOの底上げに大きな役割を果たせるのか注目だ。

今週のプロポーザル

  • Maker エンドゲームまでの5つのフェーズ | The 5 phases of Endgame

    • エンドゲームは、ガバナンスの効率性、耐性、参加率を向上させるために設計されたMakerDAOの主要なアップデート。AIツールを適用することも視野に入れている。

    • 3年以内にDAIを最大のステーブルコインにすることを目指す。

    • フェーズ1はBeta Launch、フェーズ2はSubDAO Launch、フェーズ3はGovernance AI Tools Launch、フェーズ4はGovernance Participation Incentive Launch、フェーズ5はNewChain Launch and final Endgame Stateとなっている。

    • フェーズ1「Beta Launch」:数ヶ月以内にリブランディングをする。MakerとDAIの2つのブランドが混在している現状を問題視。 双方を新しいバージョンにアップデートする。

    • フェーズ2「SubDAO Launch」:MakerDAO内で専門分野に分かれた組織を指すSubDAOを6つ立ち上げる。主な仕事はユーザー獲得と分散化の維持。6つのSubDAOはさらにFacilitatorDAOとAllocatorDAOに分かれ、ガバナンスとプロダクト・グロースで役割を差別化する。

    • フェーズ3「Governance AI Tools Launch」:ガバナンスの改善のためAIを導入する。古参勢と新規勢の知識ギャップを埋めるのが狙い。

    • フェーズ4「Governance Participation Incentive Launch」:ガバナンスへのさらなる積極的な参加を促すフェーズ。新たなガバナンストークン(NewGovTokens)のロックアップやデリゲーションに対してインセンティブを与える。複数政党制の民主主義において一つの政党を選挙で選ぶプロセスと類似した体験を提供する。

    • フェーズ5「NewChain Launch and final Endgame State」:新しいブロックチェーンの導入し、エンドステートへ。エンドステートでは主要な変更ができなくなる。新しいチェーンは、SubDAOトークンエコノミーとMakerDAOガバナンスセキュリティの「すべてのバックエンドロジック」を持つことになる。

      ✅ 投票開始: 未定
      ⏰ 投票終了: 未定
      ⚡ 投票: 未定
      💬 議論:https://forum.makerdao.com/t/the-5-phases-of-endgame/20830
      ✍ 提案者: rune

  • Uniswap プロトコル手数料について| Making Protocol Fees Operational

    • すべてのUniswap v3プールにおいてプール手数料の1/5に等しいプロトコル手数料を導入し、Uniswap v2の手数料スイッチをオンにすることを提案

    • 獲得した手数料を請求するシステムを導入し、UNIコミュニティが指定した資産に対して手数料を信頼性の高い方法で売却することを提案。

    • UNIコミュニティが財務に蓄積された資産をどのように管理、配分、分配、または利用するかを決定することができるのは、今後の提案で取り決められる。

      ✅ 投票開始: 未定
      ⏰ 投票終了: 未定
      ⚡ 投票: 未定
      💬 議論:https://gov.uniswap.org/t/making-protocol-fees-operational/21198
      ✍ 提案者: GFXlabs

  • 助成金プログラムにおけるOP使用の効果を分析 May 2023 - Governance Call OP Rewards Analytics Update

    • 助成金プログラムのパフォーマンスと分析を毎月共有することを目指す。

    • 今回は、5月の月次デリゲートコールのためのデータとケーススタディの更新を提供することが目的。

    • 今後の課題として、1) 助成金を評価するための最適なメトリックは何か?2) 今後適用できるプロアクティブな基準/助成金構造はありますか?3) 開発者の成長や将来のアプリケーションにつながる活動は何か?4) 例えば、より多くのTVL、主要なペアDEXの流動性、その他の何が必要か?

      ✅ 投票開始: 未定
      ⏰ 投票終了: 未定
      ⚡ 投票: 未定
      💬 議論:https://gov.optimism.io/t/may-2023-governance-call-op-rewards-analytics-update/5974/2
      ✍ 提案者: chuxin_h

話題のTweet

ついに認めちゃいました。
米議会のアンチ仮想通貨で有名なブラッド・シャーマン議員「米国は何もないところからお金を作っている」と発言。

データ振り返り

DeepDAOによると、5月5日時点でDAOトレジャリーの総額は211億ドル。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が181億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が36億ドルだった。 アクティブDAOユーザー数は、690万人。ガバナンストークン保有者数は、210万人だった。

オススメの読み物

DAOの未来はAIにかかっている?Powering the Future of DAOs with AI (著者: Tally) 
分散型の意思決定とAIの相性について網羅的に分析している。今後の課題については、すべてのDAOが高度な専門知識を持てるか不透明であること、AIの機械学習は偏った情報から偏った判断を導き出す可能性があること、規制状の懸念があることががあげられている。

DAOの未来はAIでさらに明るくなる The Future of DAOs is Powered by AI(著者:Aragon)
AIとDAOの相乗効果が高いことを主張している。どちらかが単独で存在するより双方が共存することで最大限の効果が発揮できると訴えている。まずはDAOのガバナンス活動の効率化だ。DAOの問題の一つはリソース不足。これを提案の執筆や決定の要約、新たなメンバーのサポートなどAIで自動化できる。

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