見出し画像

剥製(短編小説)

「急に呼び出してごめんね。大したものは用意してないけど、まあ楽しくやろう。」

「全くだぜ。何年ぶりかって話だ。最近はどうなんだ?」

「ぼちぼちとね。あ、そういえば最近これくしを始めたんだ。」

「コレクション?凄いな。コレクターになれるなんて、随分と金があるんだな。」

「まあね。これでも売れっ子作家ってやつだから。家から出ないから、コレクションくらいしか趣味にできないのさ。」

「ふうん。公務員の俺には無縁な話だな。家もでかいなあ。迷ってしまいそうだぜ。」

「貯金しても税金取られるだけだしね。でも広さは大した事ないよ。その分構造を工夫して、広く見せているのさ。」

学生時代の友人に招かれて、夕食をご馳走になる。髭禁止、フォーマルな服装など厳しい規定があったのでパーティーだと思っていたが、どうもそうではないらしい。

「ああ、ごめん。普段パーティーの招待状もよく書くからさ。癖が出ちゃったね。」

「…随分評判の良いパーティーらしいな。楽しすぎるくらい楽しいって聞いたぜ。」

「…うん。ありがたい事にね。お腹は減らしてきたかい?」

「もちろん。楽しみだぜ。」

「食事はもうすぐ来る。食前酒でも飲んでおくと良い。」

言われた通り、食前酒に手を伸ばす。飲むと、豊かな味わいが口の中に広がる。これは中々上等な、さ、け….。

…。

「お目覚めかな?」

「泣かせるねえ。旧友のためにこんなサプライズまで用意してくれるなんて。」

「僕が何をコレクションしているか知ってるかい?」

奴は部屋の電気をつけ、自分のコレクションを見せつける。奴のコレクションとは、人間の剥製だ。パーティーに来た人間をターゲットに、命を奪いコレクションしていたのだ。

「彼らはパーティーが楽しくて、もう少しここに居たいって。君もそうだろ?」

「いや、俺は明日会議なんだ。お前の事情聴取についてのな。」

「…事情聴取?」

「国家公務員って言わなかったけ?」

「…ああ、警察になったのか。権力に群がるドブネズミになりやがって。」

「俺が眠らされたら、仲間が来る事になってる。この家の複雑な構造を利用して逃げようにも、俺自身にGPSが埋め込まれている。お前がここにいる事も、バレバレだぜ。」

「そうか…。」男は一呼吸整えた。しばしの沈黙が流れ、数分後に重い口を開いた。

「酷いね。点数のためなら、昔の友達も売るのかい?」

「逆だよ。お前の無罪を証明するために、今日ここに来たんだ。お前こそ酷いな。芸術のためなら人殺しをしてもいいのかよ。」

男はがっくりと項垂れ、警察に連行されていった。

「警部、この証拠品の剥製、リストと数が合わないんですが…。」

「ふうん。まあ、気に食わなくて捨てたのがあるんだろ。数の不一致は気にしなくていい。」

そんな事はない。剥製は今、警部と呼ばれた男の家に飾られている。警部は、その剥製を見ながら酒を飲むのが大好きで、今日もそれを眺めながら一杯やるつもりだ。

「友よ。お前は大したものは用意してないと言ったが、結果として俺にこんなものをくれて、感謝してもしきれないぜ。」剥製を舐め回しながら、彼はそう思った。

短編集「過去に失望なんかしないで」発売中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?